◎2

 一方地球のプトラプテス元王国。アルコは赤子をあやしながら今後のことを考える。


「まずは赤ちゃんのミルクが必要ですね」

「先生の乳は出ねェのか」

「出ませんよ! 最低ですね!」


 キンタロウのデリカシーのない発言にカァッと赤面させて怒るアルコ。


乳母うばを探しますか。もしくは粉ミルクでもいいですけど」

「ミルクね……それならいいもんがあるぜ」


 するとキンタロウはどこから取り出したのか得体の知れない液体の入った瓢箪ひょうたんを傾けた。


「なんですかそれ?」

「甘酒だよ」

「いや、いくらなんでも乳児にはまだ早いですよ」

「色も白いしいけんだろ」

「ダメです。甘酒はアルコールはほとんど入ってないとはいえ生後十二ヶ月以降からです」


 アルコは拒否したのち叱責する。


「まったく赤ちゃんに麹菌が伝染ったらどうするんですか」

「いいじゃねェか。麹菌の宿主になればいろいろ作れんぜ?」

「発酵担当はキンタロウひとりで充分です」


 そのように嘆息するアルコにキンタロウは反論した。


「あんたの酒精菌のほうが殺菌するばかりで使えねェじゃねえか」

「そんなことありませんよ。酒精菌ならば清潔に保てます」

「行き過ぎた潔癖は身を滅ぼすぜ。免疫力が低くなってゾンビになるのが落ちだ」

「ゾンビじゃなくてミイラですけれどね!」


 赤ん坊の保有菌をめぐって対立の火蓋が切られようとしていた、教育方針で揉める夫婦さながらである。

 まさにそのとき自らが二人の争いの火種となったのを敏感に感じ取ったのか、突如赤子は鬼のような形相になりワンワンと泣き出した。しかも驚くべきことにその次の瞬間、赤子の大きな瞳からは黒い炎の大粒の涙が溢れてまたたく間にアルコは黒炎に包まれた。


「おいおい、先生ェ!」


 叫ぶキンタロウの声が聞こえているのかいないのかアルコは赤ん坊の泣き顔に目を奪われて、驚愕してしまう。なぜなら赤ん坊は黒炎を吸い込むとどんどんとずっしり重くなり産着うぶぎがはだけるほど急成長を遂げ始めたからである。

 白髪が滝のように伸びていつしか泣き止むと、その娘はアルコの手から離れて自力でその場にスタッと立った。肉体年齢的には六歳ほどの女児であろうか。キンタロウは慌てて地面に落ちている白衣をアルコに投げかけて消火を試みる。

 そんななか全裸の童女は一目散にキンタロウに詰め寄ると、二人の間に緊張が走る。警戒心を全開にするキンタロウをよそにその童女はキンタロウの腰にぶら下げた甘酒の入った瓢箪を奪い取るとそれを一気に飲み干した。


「ぷはァ!」


 そして足下にへばりつくほどの長さの白髪の童女はキンタロウに熱い視線を向けた。


「どうやら生き延びたようじゃな――灰の字」

「なんで……その呼び方」


 自分にそんな呼び方をする人物はキンタロウはひとりしか心当たりがない。

 戦々恐々としながらもキンタロウは尋ねる。


「あんたァ誰だ?」

「あっち?」


 その童女は小首を傾げて自身のあごに人差し指を当てながらとぼけたように答えた。


「言わずとも、そちとてもうわかっておろう?」

「いいから答えろ。あんたの口からその名を聞きたい」


 キンタロウは胸にこみ上げる熱いものを必死に抑えて促した。それこそ燃えるようについ目頭が熱くなる。そんなキンタロウを見てどこか照れくさそうに頭を掻きながらその童女は名を明かす。


「あっちは忍者警察刑事部ヘリオ第一忍長オシリス・フェニックスじゃよ」


 ちょうどそのタイミングで宇宙の雨月から遊離した水素と酸素の塊がポツポツと地球に帰還した。


「あっ、雨」


 アルコは白衣を頭から引っかぶりながら両手のひらを天に向けて呑気にも呟く。というのもアルコは黒炎の熱さを感じなかったのだ。これは黒炎による効果なのか、アルコの体がそういうふうになってしまったのか。

 しかし、アルコははっきりさせるのが怖くて結局聞けなかった。

 その雨は地上に降り始めると戦火とともに黒炎に包まれたアルコを鎮火した。


「安心せえ。この黒火は菌しか燃やさん」


 オシリスと名乗った童女はそう述べてから滴る雨を親指ごと咥える。


「むぅ。これは雨菌じゃな。どうりで黒ホムラが嫌がるわけじゃわい」


 雨菌は雨月うつき表面の海が太陽フレアのように波立ち、その飛沫が地球の重力に引き寄せられて落ちたものだ。これが本物の新世界の覇者である世界竜の恵みだった。この雨は涙のように悲しい味がした。

 しかしキンタロウは年甲斐もなく湧き上がったモヤモヤを童女にぶつける。


「そんなこたァー今はどうだっていい。あんた、死んだはずだろう?」

「うむ。あっちは……オシリス・フェニックスは一度死んだのじゃ」


 童女はあっさりと認めた。

 そして説明を続ける。


「じゃが、オシリス・フェニックスは死ぬ直前、絶対禁術を発動したのじゃ」

「絶対禁術……?」

「要するにツクモを輪廻転生鳥りんねてんせいちょう菌に感染させたんじゃよ。輪廻転生鳥菌はツクモの子宮に着床してあっちを身篭もったっちゅうわけじゃ」

「なんで男のツクモに子宮があんだよ?」

「それはあっちに聞かれても知らん。性別不詳であったからあっちも賭けじゃったわい。しかしそこに子宮があったことは僥倖じゃったの」


 そう言って童女は豪快に大笑いした。


「そうして輪廻転生鳥菌の宿主の息絶えるときにあっちは生まれ落ちるというわけじゃ」


 でも存外そんなものかもしれない。生命が生まれる道程というのは。しかしアルコは自らの取り上げた初めての赤子の中身がおっさんだと知って複雑な心境だった。キンタロウもアルコと似たり寄ったりの様子で苦笑するほかない。


「おっさんの童女転生とか冗談きついぜ」

「ようはあっちはオシリス・フェニックスの生まれ変わりであり、ツクモの生まれ変わりでもあるんじゃよ。じゃから前世の名前を改め、これからはオシリス・ツクモフェニックスとでも名乗ろうかの」

「九十九の不死鳥ね。笑えねェや」


 キンタロウはそう締めくくった。

 そのうち寿限無じゅげむとでも名乗りそうなオシリスであった。それにどういうわけか肉体が幼くなった反面なぜか内面が古色蒼然として老けていた。

 そこでふとアルコは気になった疑問を尋ねる。


「オシリスさんは今人生何回目なんですか?」

「さあ、もう忘れたの」


 海千山千を超えてきたであろう童女の言葉の真偽は若輩者であるアルコには判断つかなかった。オシリスからすればアルコなど産まれたばかりの赤子に過ぎないのかもしれない。

 

 一方その頃。


「まだ息があります」


 アルコに置いて行かれたホコリはとある捜し物の最中に粘菌が瓦礫をかき分けて喘鳴瀕死ぜんめいひんしのドラのすけを引き上げた。それからホコリの前に引きずり出すと、ドラのすけは無様にも全裸だった。

 それに気づいているのかいないのか無視してホコリは冷淡に警告する。


「おとなしく捕まれば悪いようにはしないのです」

「ホコリ、見逃してだいな?」

「わたしは目が見えないのです」

「それってつまりどういうことだいな?」


 わずかに希望の光をのぞかせるドラのすけにホコリは非情な現実を叩きつける。


「つまり見えないのだからまた見逃すこともできないのです」

「とんちだいな」


 絶望するドラのすけはホコリから刺々しい手錠と首輪をかけられた。その手錠と首輪の内側には抗生物質を改良した菌抑制剤が仕込まれた無数の針が設置されている。これはシール型のワクチン注射マイクロニードルポンプから着想を得て実用化されたものだった。


「マジドジっだいな」

「ではオシリス忍長を探すのです」


 ホコリは粘菌たちにドラのすけを引っ張ってもらいながら足場の悪い道を連行した。粘菌たちがせっせと道を作って盲目のホコリを誘導していると、三人の話し声が聞こえる。

 そしてあっさりとアルコたちと合流してその中の念願の人物と再会を果たしたが、その上司は以前とは似ても似つかない変わり果てた姿だった。


「オシリス忍長、こんなところにいたのです?」


 しかしなぜか目の見えないはずのホコリは元の面影すらない変化の著しいオシリスに気づく。どころか普通に接していた。

 それはきっと普段から心の目で見ているからなのだろう。


「忍長、方向音痴も大概にしてくださいなのです。なんで盲目のわたしが毎回探す羽目になるのですか」

「おう。ホコリじゃホコリじゃ。そちも無事じゃったか」

「なんか元気いいなのですね。それと声違いません?」

「まあいろいろあってじゃな。あっち、童女に生まれ変わったんじゃよ」

「アイヤー!」


 そこで初めてホコリは両手を挙げて大仰に驚く。どうやらホコリはオシリスの変わりようにシンプルに気づいていなかったらしい。

 オシリスの生まれたままの幼い体をくまなくボディーチェックするようにまさぐるホコリ。オシリスのぷにぷにしたお餅のように吸い付く肌に頬ずりする。


「やめんか。くすぐったいじゃろ」


 火照ほてるオシリスにたしなめられてホコリはやっと正気に戻った。


「はっ、す、すみませんなのです。信じられないあまり」

「こんな見た目になっても一応おまえさんの上司じゃぞ」

「すみません。わたし目が見えないもので」

「随分と便利な目じゃな」


 呆れたようにオシリスは皮肉る。

 それからホコリは被害を上役に報告する。


「ネンちゃんたちからの情報によれば、先の戦で派遣された忍者警察の半数以上が殉職するかミイラとなって彷徨っているのです」

「そうか。ではホコリは生き残ったメジャイらとともに住民の救護活動をするのじゃ。それから王嶽金字塔に救援の胞子を飛ばせ」

了解アイワ


 そしてホコリは菌着袋を取り出す。その中から赤い胞子を取りだして手に乗せると、ふっと息を吹きかけて宙に飛ばした。そのまま救援胞子は風に乗って忍者警察の本拠地である東部の王学金字塔へと向かう。

 それを見届けたのち、オシリスは巨大な黒い壁の前に立った。

 それは頭部の崩潰した女王スカラベのご神体である。

 オシリスとホコリは手を合わせて追悼の祈りを捧げた。


「女王スカラベの御魂みたまが救済してくれたのじゃな。ありがとうございます《シュクラン・ガジーラ》」

「すまねェ。あんたとの約束守れなかった」


 謝罪を口にしてオシリスたちと一緒に手を合わせるキンタロウに続いて、アルコもそれに倣った。


「これも女王の取捨選択による賜物なのじゃろう」


 オシリスはそう言って身罷みまかられた女王を丁重に弔い供養する。

 黒火ではない火焔菌で焼き払って鎮魂した。

 そのついでとばかりに雨菌に浄化されて苦しみ彷徨えるメジャイミイラの残党も一緒に滅却した。


「しばししのぶれど永久に滅ぶことなかれ」


 その死体の山の中にはオシリス自身の仏もあった。

 アルコは自分で自分の死体を火葬するというのはどんな気分なのだろうかと思い、つい余計な言葉が口を突いて出る。


「死んだのに生きているなんて不思議なものですね」

「そちも似たようなもんじゃろうて? 違うか?」


 アルコは答えられなかった。

 するとその自身の亡骸にオシリスは近付くと、おもむろに燃え殻の中に手を突っ込む。骨と灰だけとなった遺体から焼け残った右眼のみを抜き取った。ふっと息を吹いて付着した灰や砂埃すなぼこりを払った。


「この継承眼はあっちの魂が燃え尽きるまで灰にならん。そういう契約じゃ」


 そう言ってオシリスは自らの眉間の皺に太陽の眼を押し当てるとギュヌンッとめり込み移植された。それからのちに第三の目は開眼した。その赤い右眼の瞳には黄金のピラミッドが刻まれており、さらにその中心にはこの世のすべてを照らし見通す太陽の眼があった。

 オシリスの太陽の眼の眼光はアルコを一直線に貫いた。


「そちはこれから先のそう遠くない未来、途轍もない受難に見舞われるであろう。時にはくじけてしまうかもしれんが、けしてめげてはならん。そして木乃伊菌は宿主によって悪魔にでも天使にでも変わる菌種じゃ。そちも身をもって知っておろう?」


 この戦場を見れば痛いほどにアルコは理解していた。不死身の軍団を遣えば国を滅ぼすことなど造作もないということを。


「なにより木乃伊菌が蘇らすのは人間だけではないということを肝に銘じるのじゃぞ」

「はい」


 アルコはオシリスに返事をした。

 不穏な予言を残してから、すぐさまオシリスの第三の眼は閉眼した。のちにどこからともなく取り出した黄金と青の包帯で即席のターバンのようにオシリスはおでこに大きなリボン結びをする。

 女王スカラベから受け継いだ木乃伊菌を自分が扱えるか甚だ疑問だったが、ぎょしきれなければアルコの魂は取って食われるだけなのだろう。

 人間と菌は長い間付き合ってきた旅の友なのだ。一番近いのに近すぎるがゆえにお互い視えないし触れない。

 しかし確かにそこにいる。

 アルコは改めて自らの菌に感謝した。

 その直後、アルコは全身の力が嘘のように抜けて膝をついてしまう。


「だいじょうぶか? 先生?」

「ええ。なぜか体に力が入らないんです」


 水とも汗ともアルコールともわからないものを滴らせながらアルコはキンタロウに答えた。

 そんなアルコを見てオシリスは確信めいて告げる。


「木乃伊菌が雨を嫌がっておるんじゃろう」

「あっ、そういえばソルトラ神殿の菌棺きんかんにもそんなことが書いてありましたのです」


 ホコリが思い出すように言った。

 というわけでオシリスはアルコの頭に手をかざしたのち、付近の風や空気を温めて湿気を蒸発させて乾かした。そこではじめてアルコは息をまともにできるようになり、青息吐息で童女に感謝を述べる。


「ありがとうございます。オシリスちゃん」

「あまり濡れるでない。女の武器である涙も禁物じゃぞ、小娘」

「オシリス忍長も人のこと言えないのです」


 というのも嫌湿好気性菌である火焔菌は大量の水分で不活化されるためだった。ホコリにたしなめられてオシリスはバツ悪そうに瓦礫の山を見やると、弊履のように打ち捨てられたクズ鉄を発見した。

 その黒い日本刀はオシリスからキンタロウが無断で借り受けていたものだ。

 キンタロウは「うげっ」と、うなり後頭部を掻いて知らぬ存ぜぬを通そうとした。


「荒い使い方をしよってからに……灰の字」

「バレてんのかよ」


 あっさりオシリスに看破されたキンタロウであった。


「当たり前じゃ。刀は使い手を選ぶ」


 意味深長なことを言ってオシリスは真っ二つに折れた黒刀の刃を回収した。おもむろに手頃な水平石の上に置いた。そして空いた手を構えた瞬間、別の場所で地面に突き立っていたもう一本の黒刀の火焔菌が感応して燃え上がると、爆発的な熱気によって宙を舞う。

 ぶんぶんと回転しながら最終的には持ち主であるオシリスの手に収まった。その勢いのまま、オシリスは燃え盛る黒刀を思いっきり振って折れた黒刀に叩きつける。大きく火花が散り折れた黒刀の刃が赤白く熱せられ、何度も叩いて焼き直し鍛え直すと再刃した。

 赤白い刀身を雨菌がジュウジュウと冷まして漆黒へと変えた。


「これにて不死鳥之命右翼ふしちょうのみことうよく――再生じゃ」


 オシリスは真っ黒な刀身の反りを確かめてから納得した様子。すぐに旧オシリスの亡骸から回収した元鞘に収める。

 そしておもむろにキンタロウに焼き直したほうの黒刀を一本差し出した。


「これもスカラベの神に結ばれし縁じゃ。しばし預けておくかの」

「いいのか? あんた、二刀流使いなんだろ?」

「よいよい。新たな時代を照らす光になろうて。それにこの体では二刀は重い」

「なるほどな。でも俺が使っても錆びて終わりかもだけどな」

「安心せえ。黒刀は錆びぬ。雨菌にも負けん」


 オシリスは信頼した様子で言った。

 それからキンタロウを下からのぞき込むように言う。


「そして己の中の竜にもじゃ」

「よくわからんけどわかったよ」


 キンタロウは言い知れぬ思いとともに包帯童女から黒刀の右翼を受け取った。オシリスは自身の持つ左翼の柄とキンタロウのく右翼の柄同士をカツンと合わせた。


「これが剣士の挨拶じゃ。覚えておくがよい」


 続けてオシリスも左翼刀を鞘に収めてから背中に佩くと、燃えて人型の灰となったツクモの亡骸に向かう。まるで現場検証の被害者のチョークアウトラインだった。

 そこでアルコは疑問に思う。

 ツクモの遺体が骨まで綺麗に灰になっていたのだ。

 そもそも先ほどのオシリスの言によれば黒火は菌しか燃やさないと言っていなかったか。

 しかし小さな手を合わせ祈りを捧げるオシリスに聞けるような雰囲気ではなかった。

 それから流れるような動作でホコリから捜査用の布手袋を受け取り、オシリスは着用する。全裸の童女がターバンと手袋だけするという異様なファッションセンスだった。

 そしてオシリスはいきなり本丸である左眼部分の損傷した朱い竜面をひょいっと回収して、清潔なチャック付きの袋に詰めた。


「これは重要な証拠品として押収し、その後鑑識に回すとするかの」


 それから灰となったツクモの亡骸に触れると、オシリスの指先が灰色に染まった。残りのツクモの遺灰は穏やかな風に吹かれて一夜の夢のように跡形もなく消えてゆく。


「生んでくれてありがとう。さようならじゃ。聖母ツクモ」

「変態童女、あんたはツクモに殺されたんだぜ? なのにいったいどういう感情なんだ。サイコパスかよ?」


 キンタロウは理解できないというふうに口を尖らせた。

 オシリスを取り上げたアルコとしてはキンタロウまでとは言えないが複雑な心持ちだった。


「そう見えてもおかしくはないかもしれんな」


 オシリスは悟ったようにアルカイックな微笑を浮かべた。


「じゃが輪廻転生は矛盾せん。前世で命のやりとりをすることもあればまた違う生では親子となることもあるのじゃよ」


 それからオシリスはツクモのボロボロになった拘束衣を羽織るとアルコに向き直った。


「そちにも感謝する。ドクターアルコ」

「い、いえ……こちらこそ。あなたを救ったのはあなたの日頃の行いですよ」


 実際オシリスが女王スカラベを救わなければ、今頃アルコは屍と化していた。間接的にとはいえオシリスに救われたのはアルコのほうだったのだ。そしてまたアルコが生き延びなければツクモからオシリスを取り上げることもなかった。

 こういうのを廻り合わせというのだろう。

 人の縁とは不思議なものだとアルコは思った。


「あっちは一旦王嶽金字塔に報告も兼ねて里帰りするのじゃ。ホコリ、あとのことは任せたのじゃ」

了解アイワ


 そしてオシリスは部下に事後処理を押しつけて、花火の煙のようにこの場を去ったのだった。

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