第6話

「K4の中心メンバー、黒崎カイが何者かによって殺害された。死因は失血死。外傷はないことから何者かが魔法を使って事件を起こしたものと思われる。現場近くの監視カメラの解析から、事件直前に可愛学園中等部一年の小岩井くるみが部屋に入って行ったことが確認されている。被害者の発見まで彼女以外の訪問者はいなかったことから、警察は小岩井くるみを殺人容疑の疑いで事情徴収を行う予定である」

 なんて立派な新聞記事が明日の一面にので、私は倒れている先輩にとりあえず治癒魔法をかけた。そしてちょっとやりすぎちゃったので、お詫びの気持ちを込めてサーシャちゃんのぬいぐるみとイラストが描かれたスケッチブックをその場に置いて帰ることにした。


 そして翌日の始業前。

 私は再び黒崎カイ先輩に呼ばれて、K4会議室にいた。相変わらず全ての物が豪華で、綺麗で光り輝いている。だれかお手伝いさんでもいるんじゃないかっていうくらい、ホコリひとつ落ちていない。

「さて、小岩井くるみ。朝から君を呼び出したのは外でもない。昨日の件だ」

 なんか先輩の口調が怖い。昨日、さーたんのぬいぐるみとイラストで悶絶した人と同一人物とは思えないんだけど。なんかいつも以上に表情を変えない、クールな……いや、先輩が部屋の真ん中に立ったまま話をする。私も今回はソファに座ることを許されず、先輩の前で気をつけをしてまっすぐに立っている。え、昨日は素敵なプレゼントをありがとうとか、もっとイラストが欲しいとかそういう話じゃないの?

「昨日、俺は『K4には生徒を退学させる権限はない』と言ったね」

「はい」だから、私は昨日言いたい放題させていただいたつもりなんですけど……。

「でも、俺たちK4は先生方からも絶対的な信頼を得ている。つまり俺たちが一言、先生に物申せば、生徒一人を退学に持ち込むことなど容易たやすいんだ」

「……えっと、先輩それはどういう――」

 私に最後まで話をさせてくれない。先輩は私の言葉にかぶせて、少し声を荒げて言った。

「俺がさーたん推しだっていうこと、誰にも話していないだろうな?」

「ヒェッ……は、はい。もちろんです!」

 うおぉ、危なかったぁ! 今朝方、先輩に呼ばれなければ絶対にもみじちゃんとレオンちゃんに話してるところだった!

「もしも誰かに一言でも話をしてみろ。そのときは、小岩井くるみ。君を退学に追い込む」

「はぁあ?」

 意味不明な宣言に、私も黙っていられなくて思わず大きな声を出しちゃった。ちょっとこれ、パワハラってやつなんじゃないの? いくら相手がK4の黒崎カイ先輩だからって、それはちょっと素直に「はい」とは言えないなぁ! まぁ、もみじちゃんとレオンちゃん以外に話すつもりなんてなかったけどね。

 っとここで、私にも名案が浮かんだ。こういうときにひらめくって、ナイス、私! よし、ちょっくら先輩に仕掛けてみるとしますか!

「まっ……まぁ、わかりました。誰にも言わないことを誓います。ただ――」

「?」

「私も、昔からさーたん推しなんです。ご存知の通り、ぬいぐるみまで自作するぐらいの。だから私、これからもさーたんのぬいぐるみを作るし、イラストも描きます。もしかしたらさーたんと同じ髪型にして学校に来るかもしれません。言葉遣いも似てくるかもしれません……コスプレにも手を出しちゃうかも!」

 最後の方は完全に嘘だけど。それを悟られないように、私もできるだけ平静を装って話す。

「なので、わたしが先輩と廊下ですれ違ったときに、勝手に鼻血を出して倒れても……それは私のせいではありませんからね」

「なに……姑息な真似を!」

「ではこれで失礼します。……あ、そうそう。さーたんのぬいぐるみとスケッチブック……一応私が心を込めて作ったものです。差し上げますので大事にしてくださいね」

 最後にそう言い放って、私はK4の会議室を後にした。はー、ドキドキした! まさかこんなことになるなんて! 実を言うと、ちょっとは「小岩井くるみ……こんな素敵なさーたんを作ることができるなんて……好きだ。付き合ってくれ」的な展開を期待していた……いやいや、ないわ。万が一そんなことになったら、私この学園で無事に生きていけるとは思えない。

 まあ、もう黒崎カイ先輩と関わることもないでしょ。このときから、以前と変わらない日常が始まり、私は立派な治癒師を目指すために勉強をがんばるの!

 ――って思っていたのに。


「くるみちゃんくるみちゃんくるみちゃんくるみちゃーんっ!」

 お昼休み、一人で中庭を歩いていると、もみじちゃんが血相を変えて走ってきて、私の前で急ブレーキ。そして「はぁはぁはぁ……」と肩で息をする。何事でしょうか、まずは落ち着こう。もみじちゃん。

「どうしたの?」

 もみじちゃんの息が整ってから尋ねると、もみじちゃんは「掲示板、掲示板!」とだけ言い、走って来た方向を指差した。掲示板に何か書いてあるのかしら? 私はもみじちゃんと一緒に歩いていく。

 掲示板には大勢の人だかりができていて、ガヤガヤうるさかった。そして私を見ると「おおっ、こいつが……」「そんなに凄いやつだったのか……」などと好き勝手なことを言い出した。何よ、私のことが掲示板に書いてあるっていうの? 私そんな目立つようなこと、何にもしてませんけど! と思いながら掲示板を見て、私はしばらく動けなくなってしまった。そこには

「中等部一年 小岩井くるみ 本日付でK愛学園K潔なるK薔薇のK士団特別秘書に任命する」

 と書かれていた。

 はぁ? 何それ?


 K4とりあえず「完」

(続きはあらすじ部分に掲載されてある「今後のプロット」をご覧ください)

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K4 まめいえ @mameie_clock

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