7日目:ママはミルキーの味~♪薄め!


 「おかたん」ズと別れ、一人自宅に戻ってきて二日目が経った。

 「ボク」は今日からまた出勤の日々である。

 あーいやだ。そう思いつつも、飯の種をなくすわけにもいかないため、重い腰を引きずりながら仕事に向かうのであった。


 さて、何を隠そう普段の「ボク」の帰りは遅い。

 どのくらい遅いかというと、、、ご想像にお任せするが、まず間違いなく起きている「史たん」と会える時間ではない。いや、会えるか?就寝後、3回目以降の授乳のタイミングならもしかしてちょうどいいかもしれない?

 なぁんて下らないことを考えながら、出産立会い期間にたまったお仕事を粛々とこなしていく。

 そして、気付けば外は真っ暗。仕事場の人数も半分以下になっていることに気が付く。

 一般的な社会人基準で言うと、遅い時間に差し掛かろうとしている。

 まぁ、遅いといっても、「ボク」的にはまだまだとても早い部類だ。まだ残業開始の時間まで一時間以上ある(ん?時間の計算がおかしくないかって?おかしいに決まっているじゃないか!勤め始めて5年強、残業は定時の後、5時間休憩時間を挟んでから出すものだと教わってきたのだ。だからまだ、休憩時間さ(泣))。だが、今日は仕事始めだし、個人的なお祝いと仕事丸投げしてしまった罪滅ぼしから、部下(と言っていいのかどうか?分からないが、ここ数年ずっと組んで仕事をやってくれている後輩君)と結託し、早々に仕事を切り上げる決断をした「ボク」。明日のことは明日の「ボク」が考えればいいのである。

 そんな訳で、後輩君と祝杯をあげるべく、帰りがけに馴染みの蕎麦屋に立ち寄った。この蕎麦屋はいい。味も量も値段もさることながら、日を跨いだってやっているのである。いつもの帰り時間、無駄に煽ってくる暴走車くらいしか走っていない時間になってもまだ明かりがついているこの店はもうなんというか、我らのオアシスであった。

 その名も「東京庵」。東京にないのに東京庵である。県外からきて頑張っている、なんだか自分たちと同じような境遇の気もして、この名前を聞くだけで悲しくないのに涙が出そうになる。

 まぁ、そんな訳で、行きつけの店にやってきた「ボク」と後輩君。時刻は遅めの夕飯くらいの時間。

 とりあえず、景気よく、

 『『かんぱ~い』』

 の掛声から入る二人。

 あ、断っておくが水である。

 そもそも酒が入っていなくても楽しく話せる気心の知れた間柄であり、通勤も車。まぁ、飲むわけないわな。

 という訳で水で乾杯してから、夕食を頬張る。「ボク」はいつもの冷やしたぬき。香ばしいたぬきのカリカリの触感に、少し濃いめの麺つゆ。わさびを溶かした麺つゆに、たぬきの油が合わさって、極上の食べ物と化す。幸せのひと時である。

二人で食べながら、「ボク」の居ぬ間の愚痴を聞いたり、「史たん」誕生秘話を語ったりと、楽しい時間はあっという間に過ぎ去った。

 その後、後輩君を家に送って、帰宅した。玄関くぐって腕時計を見てみるとなんとまだ21時。

 すげーはえーっていうか、飯食って、のんびりしてまだこの時間?そんな実感がふと頭をよぎった瞬間思わず、

 『 いやーアフターファイブって、日が変わる前にもあったんだなぁ(笑)ビフォーファイブの間違いだと思ってたわ、マジで。』

 と靴を脱ぎかけた姿勢のまま、玄関ドアに向かって話しかけてしまった。

 独り言の自虐ネタである。頼むから寂しい奴と言わないで。


 そうぶつぶつ言いながら、居間へ。

 テレビをつけるとゴールデンタイム(?)の番組がやっている。

 まぁ、別にテレビに興味はないから、つけるだけつけて風呂に入る。音がないと寂しいからね。そして、手早くお風呂を済ませて、いざソファにダイブ!右手にはスマホ、左手にはリモコンを放り出して、コントローラ。これぞ「ボク」の最強装備である。



……


 「ボク」は仕事を辞める。まぁ、辞めるといっても、今流行りのダメ人間(二ー○とかいうらしいが、ダメな奴をどう呼ぼうがダメなものはダメだと思うが)になるわけではない。一応、次は決まっている。所謂、転職というやつだ。

 辞めると決める前は、この一連の流れが終わる頃には、日付はとうに変わっており、のんびりする時間なんぞほとんどないのが当たり前だった。無論、ゴールデンタイムのテレビなんてやっているわけがない。

 辞めると決めてからは、こうやって後輩君(後輩君は正社ではないため、「ボク」が巻き込まなけりゃもう少し早く、、、は無理か、無理だな。)と結託して早めに帰ってくることもできるようになり、自分の時間も大幅に増えた。それで仕事が回らなくなっても、まぁ辞めるしね。それに「ボク」だって、そこまで無責任な訳ではない。だから、ここ半年、通常業務の合間を縫って、結託さえすれば、こうやって早く帰ってくることができるようになっている。多少のほころびを無視できる気持ちになったことによる、割り切りと思い切りが良くなった結果、なんだろうなぁと最近は思っているが、辞める人に仕事を回さなくなったこともあるのかもしれない。それにしちゃぁ、全然仕事が減っている気がしないが。

 まぁ、何はともあれ、決心って素晴らしいね!


 という回想を経て現在。

 テレビをバックミュージックに、ゲーム用のディスプレイ電源を入れ、ゲームを起動する。

 まぁ、テレビに興味がないのは先ほど言った通りで、お笑いくらいしか見ようと思う番組もない。もちろん、昨今の世情確認のためのニュースだとか、最近のパッとしないクイズ番組、ましてやスポーツなんかもってのほか(「ボク」的には、スポーツは見るものではなく、やって楽しむものであり、どんなにすごいと言われる技が飛び出しても『へー』くらいにしか思わない。特に野球なんて、技も何もあったものではないのだから、見てて何が楽しいのやら?である。ゴールデンタイムの帯番組を潰してまでやる価値があるとは到底思えないのだが、好きな人は好きなようであり、理解に苦しむ)。結局はバックミュージック程度の扱いになってしまうのは仕方がないことである。

 そして、ディスプレイ2台を起動しつつ、ソファに寝ころび臨戦態勢。そう、これぞ夢のTHE 独身生活!である。

 そうこうして、準備の整ったところで考える。さて、何のゲームをやろうかな?と。

 今まであまりアクションゲームをやってこなかった「ボク」だが、件の後輩君に勧められて始めたゲーム(【ディ○ジョン】という、銃を使ってドンパチやる系のFPS。3D酔いをするといって敬遠してきた部類のゲームだったのだが、人間意外と慣れるもので、しかもオンラインで共闘できるというところがまた気に入っており、後輩君と連れ立ってはドンパチやっている)に今はドはまりしている。それとは対照的に、学生時代からずっと好きだったゲームの新作(【うた○れるもの】という、当初こそ18禁ゲームの類だったが、人気作の為、リメイクされたり、アニメ化されたり、かなりな広がりを見せた良作である。歌も非常によく、シリーズ全作を通して、ほぼ一人の歌い手で統一されているそれは、独特の世界観を崩すことなく、時に切なく、時に妖艶に聴く者の心を刺激する。それがゲームの世界観と相まって、非常に良いものに仕上がっていた。今作もそれが踏襲されており、10年ぶりくらいに手に取った新作であったが、小説を読む時ばりに没頭している。)のどちらをやろうかと逡巡していると、不意にスマホが着信を告げる。

不意に無表情になる「ボク」。

 『 こんな時間にかけて来るのはだ~れ?(のちに、「史たん」が大好きになる【ねな○こだれだ】より)』

 そう独り言ちながら、手元のスマホの画面を見る。まぁ、見なくったって分かるのだが。こんな楽しい気分に水を差してくる奴は決まっている、そう

 『 もしもし、今大丈夫?』

 「おかたん」である。

 どうも、日に一度は電話でお話をしたいこの娘は、離れていると折を見てやたら電話攻撃をしてくる。確かに学生時代は暇に飽かせて、大学構内のフリースペースで、2~3時間ほど話をしていたことも10回や20回ではなかったが、「おかたん」がここまでお話し好きだとは想定外である。しかも、監視カメラでもついているんじゃないかというほど正確に、「ボク」が趣味に興じようとしているタイミングで。

ホント大丈夫な訳ゃーない。これからお楽しみタイムなのだ!そんな気持ちを押し殺しつつ、

 『 あーうん、少しならね~どしたの?』

 と若干不機嫌そうに答える。客観的にみると全然押し殺せてはいない。そう、この歳になっても楽しみを邪魔されるのが嫌いな「ボク」はお子ちゃまなのだ。

 その雰囲気を感じ取ってか、

 『 ごめんね、忙しかった?今、親がいないからちょうどいいかなって思って、電話したんだ。それでね、報告なんだけど、今日も「史たん」は子ザルでした。そしてね、今日は母乳がいっぱい出て、80㏄も届けられたんだよ!すごくない?あの子、哺乳瓶ではよく飲んでくれるのに、直接だと全然ダメみたいなのよねー。口が小さいのと、吸う力が弱いのが原因らしいんだけど、それを聞いて頑張って口の奥まで押し込んでみたんだけど、やっぱり飲んでくれなかった。ホントなんなんだろうね??』

電話口には、報告なのか愚痴なのか、とりあえず今日あったことを自動小銃の様に話し続ける「おかたん」がいた。

 早く自動小銃撃ちたい。そんな気持ちで

 『 あーつまり、可愛いおちょぼ口なんだね、「ボク」似の。「ボク」が可愛いのは仕方ないとしても、飲まないのは少し心配だね~やっぱり味なのかなぁ?もしかして「おかたん」の方を『うっすい』とか思ってたりして(笑)。』

 などと、舌先三寸で適当なことをいう。それを聞いた「おかたん」は、

 『 は?誰がおちょぼ口だって?そして、「おかたん」のおっぱいは薄くありません~!!「史たん」は吸う力が弱いだけなのです~!全く、失礼なんだから!まぁ、おちょぼ口は別として、見た目の丸さは一緒だけどね~』

 生まれたときはふくよかさも髪もなく、サルのミイラのようだった「史たん」だが、日々送られてくる写真では徐々に膨らみが増してきているように見えた。というか、髪がないのも手伝って、顔だけは真ん丸ぷんぷんに見えるようになっていた。

 「ボク」も坊主の丸顔ではあるのだが、、、

 『 あれと一緒?いや、似ても似つかないでしょ!DNA鑑定必要なレベルだよ!』

 と返す。さすがに、あんなにふくよかではない、はず。

 『 そんなのやらなくても分かります~、やったら100%って出ます~』

 と「おかたん」。それにため息をつきつつ、

 『 あのね、知らないかもしれないけど、100%は出ないんだよ?「おかたん」の成分だって入ってるし、絶対のないといわれる分析の世界だけど、それでも100%は絶対ないっていわれてんだよ?』

 と急に知的ぶって返す。それに対して、さらに子供っぽく、

 『 それでも100%って、出ます~』

 とまぜっかえす「おかたん」。

 そんな他愛無い会話を続けること数十分、ようやっと、「おかたん」の気も済んだらしい。

 『 それじゃ、そろそろ親も帰ってくると思うから、切るね~また明日!あ、それと母子手帳、「史たん」が退院したら送るから、手続き宜しくね!』

 それを聞いて「ボク」は思い出した。

 あ、、、そういえば、そんな行事があったのだということを。「史たん」を法的にも「史たん」にするという大事な行事が・・・夢の独身ライフはまだまだ邪魔が入るよ

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