閑話

閑話

「――ふえぇ、勝っちゃった!」


 ファンタジーランドが配信してるアーカイブ動画を映したホロウィンドウの中で、風竜を討伐したロジカル・ウェポンに、ティアは驚いちゃった。


 アレと合一してるステラちゃんとはこないだ遊んだけど、ロジカル・ウェポンの使い方、へたっぴだったんだよね。


 だから、てっきり今回も負けちゃうと思ったんだ。


「キミなら、もっと上手にできるだろう?」


 ソファの隣に座ってティアの腰を抱いたパパが、お酒のグラスを傾けながら聞いてきた。


 ティアはすぐに頷いたよ。


「――うんっ!

 でも、ステラちゃんはへたくそだよね。あれじゃあ、風竜は死んでないもん」


 じゃま者はちゃんと殺さないとダメって、パパが言ってたんだよ。


「それにみんなに助けてもらってるのもズルいと思う。

 ティアだったら、ひとりでできるよ?」


 そうパパを見上げて言うと、パパはティアの頭を撫でてくれた。


「そうだね。キミは強いからね」


 微笑むパパを見てると、ティアまで嬉しくなっちゃう。


「それに、パパがくれた<戦女神アーク・ブレイカー>もあるからねっ!」


 ティア専用のロジカル・ウェポンは最強なんだよ?


 同じロジカル・ウェポンと遊んだのはステラちゃんがはじめてだったけど、よゆーだたしね。


「ねえ、パパ。ティア、そろそろまたおつかいしてみたい!」


 こないだのおつかいは、ティア的にはふかんぜんねんしょーなんだよ。


 パパにはもっともっと、ティアができる子なのを見てもらいたいんだ。


「ふむ。そろそろ頃合いではあるだろうが……」


 パパはアゴをさすりながら、指を鳴らした。


 ホロウィンドウがティア達の前に開いて、メイド姿の機属アーティロイド、リズが映し出される。


『――お呼びでしょうか? ドクター』


「リズ、あー、あれ……なんと言ったか……宝珠の……」


 パパって、すっごく頭良いのに、時々ものの名前忘れちゃうんだよね。だから、そんな時はティアが教えてあげるんだ。


「パパ、ティア覚えてる! 洗礼の宝珠っ!

 インディヴィジュアルスフィア、ハロワの入出力ポートなんだよね?」


「おお、それだ。ティアは本当に賢いなぁ」


 えへへ。パパに頭撫でられるの好き!


 パパはティアの頭を撫でながら、両手を打ち合わせて、ホロウィンドウの中のリズを指差す。


「――でだ、その洗礼の宝珠の再構築はどうなってるかね?」


『ご覧になられますか?』


 尋ねられたリズは、ホロウィンドウの真ん中から少し身体を脇に寄せた。


 そこでは、ティアには良くわからない液体に満たされた水槽があって、その中に半球より少し大きい珠が浮かんでた。


 ティア知ってる。


 前にパパが海賊さんに渡してたウィルスで、洗礼の宝珠の構成・組成データをコピーしたんだよね。


 そしてそのデータを元に、洗礼の宝珠を作ってるんだよ。


「ふむ、半分ちょっとってところかね?」


『現状でも物理障壁は開けるとは思いますが、インディヴィジュアルスフィアの掌握までを考慮するのでしたら、完全構築を待った方が手間は少ないかと……』


 リズはいつものゆったりとした難しい言葉遣いで、パパに説明した。


 パパもアゴをさすりながら、窓の外を見つめて、ポツリと呟く。


「……やるからには完璧を目指すべきだよねぇ。

 ボク、知ってるんだ。成そうとする事が大きければ大きいほど、世界のルールが邪魔をするんだよ」


「パパ?」


 なんか難しい事言ってる。


「前回はたかが一国――それもイチ星系を巻き込んだ程度だったのに、宇宙英雄が出てきちゃったからね。

 ああ、忘れもしないよ、キャプテン・ノーツ。

 だから、今度は万全を期すのさ。

 不確定要素はなるべく排除しなきゃね……そして今度こそ、ボクは人類を……」


「ねえ、パパっ!」


 ブツブツ言い出したパパの頭を、ティアはいつもみたいにコツンと叩く。


「ブオォ――ッ!?」


 テーブルを割って床に突っ込んだパパは、すぐに起き上がって首を振ったよ。


「お、おお、ティア? どうした?」


 パパってば、頭から血をぴゅーって噴き出してて面白い。


 ティアが手を叩いて笑うと、パパはソーサル・スキルで血を止めながら、恥ずかしそうに頭を搔いて苦笑した。


「ねえ、パパ。それでティアのおつかいは?

 ティア、ステラちゃんとまた遊びたい!」


 ステラちゃんはロジカル・ウェポンの使い方がへたっぴだから、ティアが教えてあげたら良いと思うの。


「ん~、そうだねぇ。あちらもボクらがすでにアクセス・ポートをふたつとも入手してるとは考えてないだろうから、陽動としてちょっかいかけておくのも良いかもしれないね」


「どゆこと?」


「洗礼の宝珠が完成するまで、時間稼ぎをしておこうって事さ。

 ふたつともこちらの手にあるとわかれば、あの短気な皇女様は、皇帝を動かしてでもこちらを捜そうとするだろうからね。

 こちらがまだ、もう一手掛ると思わせられれば、防衛に必死になるだろうさ」


「わか~んないっ! もっとわかりやすく、せ~つ~め~い~!」


「ああ、つまりだね。ティアにはもうひとつ、アクセス・ポートを取りに行ってもらいたいんだ」


「また冒険者になるの?」


 ティアが首をかしげると、パパは笑顔で首を振った。


「今回はド派手に乗り込んじゃおう。

 あ~、あとアクセスポートは無理に取って来なくていいよ」


「おつかいなのに?」


「今回のおつかいの真の目的はね、別にあるんだ」


「――真の目的っ!?」


 なんかわくわくする響きっ!


「キミには、相手の戦力削減――そうだね、魔王退治をしてもらいたいんだ」


「ティア知ってる! ファンタジーランドの本で見た!

 魔王って、みんなを困らせる悪いヤツなんだよね?」


「そうそう。そしてそれを退治する子の事は勇者って呼ぶんだ」


 パパはティアの頭を撫でて、人差し指を立てながら説明する。


「勇者! なんかかっこいいね。じゃあ、ティアも勇者になるっ!」


「でも、気をつけないといけないよ? 魔王は元サーノルド王国の騎士だ」


「ステラちゃんみたいな?」


 それならティア、楽しめるかなぁ?


「いや、帝国騎士や近衛に比べると、一段下かな。

 まあ、戦闘経験は豊富だから、ステラ・ノーツよりは楽しめるかもしれないが……」


 と、パパはアゴをさすりながら笑って。


「とにかく好きに遊んでもらうと良い。

 ド派手に遊んだら、ひょっとしたらステラ・ノーツも出てくるかもしれないね」


「ホント!? じゃあ、ティア、がんばっておつかいするね!」


 ティアが両手を握って、パパに言ったら、パパはティアの頭をまた撫でてくれた。


「リズ、そういうワケだから、<戦女神アーク・ブレイカー>と強襲揚陸殻アサルト・シェルの用意を頼むよ」


『かしこまりました。それではお嬢様は、ドレスに着替えてお待ち下さい』


 ホロウィンドウの中で、リズがお辞儀した。


「……さてさて、お手並み拝見と行こうか。皇女様」


 そう呟いたパパは、窓の外――宇宙にぽっかり浮かんだファンタジーランドを見つめてて。


「――楽しいおつかいになるといいなぁ」


 ティアもパパのマネをして、そんな風に呟いてみたんだ。




★――――――――――――――――――――――――――――――――――――★

 「面白い」「もっとやれ」と思って頂けましたら、作者の励みになりますので、よろしければフォローや★をお願い致します。


 ご感想やご質問なども、お気軽にどうぞ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る