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それからあっという間に時が過ぎた。


言っても2,3日なんて気にしなければすぐに通り過ぎているものだが。

私は何時ものように朝早くに起きて、日課の散歩はせずに私服に着替えた。


この町に来た最初の日と同じ装い。

麦わら帽子に白いワンピース。

それに、手提げのバッグを持って外に出る。


「早かったね、由紀子」

「うん、あとは親に任せたから…」


家を出ると、由紀子が軒先にいた。

私は彼女の横に並ぶと、町のメイン通りに出る。


「浩司は?」

「起こしたよ。今日は寝坊してない…ちゃんと9時には来るって」


今日はいよいよ由紀子が引っ越す当日。

9時から、少しだけ盛大にお別れ会をしようと言って、事前に学校の先生や生徒に声をかけて回っていた。

皆快く受け入れてくれて、この町の一番特徴的な場所。町の入り口部分のロータリーでそれを行うことになった。


今はその前。

もう直前といったほうがいいのか。

私は由紀子を呼び出した。


「向こうについたら、まずは手紙がいいかな?それとも電話?」

「……僕は手紙がいいな」

「そっか」

「といっても、会えないのは半年か…ちゃんと受ける高校教えてね?」

「うん。なのにさ…千尋」

「何さ」

「なんでこんなに気持ちが沈んでるのかな?」


メイン通りに出て、商店街に抜けたころ、私は由紀子の言葉にハッとして足を止める。


「不安?」

「いや、別件さ……」


私は誤魔化すように笑って見せると、バッグの中に手を入れる。


「目を瞑ってて」


そういうと、由紀子は笑い顔のままそっと目を閉じる。

私はカチューシャを取り出して彼女の頭にそっと乗せた。

ちゃんと髪をセットして、カチューシャで押さえる。


「千尋、これは?」


由紀子は目を閉じたまま言う。


「まだまだ……」


私は腕時計を取り出して、そっと彼女の左腕につける。


「はい、いいよ」


私の声とともに由紀子が目を開けた。


その目線の先は、私ではなく黒いガラスで、由紀子は頭につけられた水色のカチューシャと、腕につけられた時計をじっと見つめた。


それから、私に目を向けると、いつもの優しい笑みを向けてくる。


「なるほど、慣れない事をするからそわそわしてたのね」

「そういうこと、餞別だよ」


私は彼女に負けず劣らずの笑顔を返す。


「皆の前ではちょっとね。自分の独断だし」

「ありがとう。千尋」


そういわれた私は、照れ隠しに下を向く。


「…最後まで涙はなしだよ?」

「分かってる。僕は大丈夫さ」

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