最終話 おっさんでも世界救えました。

もぐもぐもぐ。


 泣きながらクッキーを頬張るアリスちゃんを抱きしめる。


「もう大丈夫、アリスちゃんがそんなことをする必要はない」

『私……私……』


 すると周りからは魔族や魔獣族、そして一花も近づいてくる。

 俺はこれはバトンタッチだな、ドラグさんにあとは全てを委ねた。


『アリス……本当にすまなかった』

『お父さん……』


 ドラグさんはアリスちゃんを抱きしめる。


『アリスちゃん、我々獅子族からも謝罪をさせてくれ。すまなかった』

『やめてくれ、レオ。悪いのは我々、魔族の大人だ』

『いや、事情も知らずに攻撃されたと反撃した我らも悪いのだ。我らも食料がなく、同種を手にかけるかと考えていたのにだ』


 魔獣族達もアリスちゃんを抱きしめる。

 

 それを見てアリスちゃんはわんわんと子供らしい涙を流す。


 これで全て円満解決とはいかないが、それでもこの様子は配信されている。

 

 すると、自衛隊のヘリが飛んできた。

 そこにはガゼット王とロード皇帝とガルディアが乗っている。

 全員で集まり今後の検討をするつもりだったので都合がよく、ここへ連れてくることができた。


『魔族、並びに魔獣族、そして魔王よ。私は第100代、アースガルズ帝国の皇帝、ロード・エンブラエルだ。此度の件、話したいことはあるのだが……』


 するとロード皇帝が前に出る。

 彼らは飢えていただけだという事情は既に伝えてある。


『まずは食事にしよう。話はそれからだ。それでよいな? ガゼット王』


 俺はその言葉をガゼット王に伝えた。


『……問題ない。飢餓状態では正常な話ができぬからな』


 それからロード皇帝は、帝国から食料を運ばせた。

簡易的なものばかりだが、国境付近で炊き出しが行われる。

魔族と魔獣族、随分と碌に食事をしていなかった彼らに食事が振舞われた。


 全員、涙を流しながら食事をする。


 俺は限界まで飢えたことがないが、飢餓は相当にきついと思う。

 丸一日食べないだけで滅茶苦茶しんどいからな。

 

 少し落ち着いた後、ロード皇帝とガゼット王、そしてガルディアの元へとドラグさんが歩いてくる。


『信二、伝えてくれるか』

「……あぁ」


 ドラグさんがその三国の代表に向かって頭を下げる。


『今回のこと、全て私に責任があります。アリスはまだ幼く分別のつく前です。親である私の責任だ。どうか、私の首で納めることはできないだろうか』


 ドラグさんは何とかこの惨事を自分の首一つで納められないかと言っている。

 帝国の兵士にも死人がでている。


『魔王は殺さねばならん。それがけじめというものだ……』


 帰ってくる言葉は、やはり違う。

 ロード皇帝は、そんなに甘い君主ではない。

 しかし最後には何か含みを持たせて俺を見る。


『儂も同じ意見だ。あれほどの力。次暴走したらどうなるか……と言いたいところだが……信二よ。おぬしはどう思う』

「え?」


『エルフは信二の決定に従おう』

 

 相変わらずのガルディアさんだが、ガゼット王とロード皇帝は俺の意見を求めている。

 ドラグさんも、唇を加味しめて俺を見る。


「俺は……アリスちゃんに死んでほしくない」

 

 だから俺は真っすぐ偽りない気持ちを答えた。

 犠牲になった人がいるのは分かっている。

 それでもあの子を処刑して、それで終わりというのは俺は納得できなかった。

 俺はあの子の心に触れてしまったせいで、共感しているだけの身内びいきみたいなものだ。


 そんなのは分かっている。

 でも、意見を求められるのなら。


「あの子は、ただ大切な人を守りたかっただけです。その結果許されないことをした。だから罪は償わなくてはならない。でも死という罰を与えて終わりでいいんですか? あの子はきっと反省できます。あの子の心に触れた俺は、とても優しい子だって知ってます!!」


『そうか……ドワーフは実害はなかった。ならば信二がそういうのなら様子を見る準備はある』

『エルフは信二の決定に従おう』


 そして全員がロード皇帝を見る。


 一番今回損害を受けたアースガルズ帝国。


 その当事者に視線を集める。


『…………はぁ。ドワーフもエルフも日本も……そう言われて、我が国だけ処刑しろと言えるか?』


 だが、ため息を吐いて頷いた。


『ではこうしよう。魔族と魔獣族を敗戦国とし、賠償金を請求する。その賠償金を払えるまでは我々帝国の属国となり、庇護下に入れ』


『……それはどういう』


 ドラグさんが不思議そうに俺に助けを求める。

 ごめん、俺も政治的にはそういうの詳しくない。


『安心せい、二人とも。この若き獅子は助けてやるといっている。本来の意味でいえばそうではない。しかし今このもの達は明日を生きれるかもわからん最低な状況なのだろう? ならば属国になることは悪い選択肢ではない。さらに借金を返せば解放してやるとな。何十年かかるかわからんがな』


 俺はその意図をそのままドラグさんに伝えた。


『よいのですか?』

『なに、正当な賠償金を払えといっているんだ。別に損はしていない。それこそ何百年かかるかわからんぞ』

『…………一生かかってもお返しします』


 そして俺はアリスちゃんの方へ行く。

 一花がなぜかアリスちゃんと話せているが、勇者って理解もできるのか? だとしたら圧倒的に上位互換なんだが。


「落ち着いた?」

「……はい。一花ちゃんが色々話を聞いてくれて」

「パパ! アリスちゃんを虐めようとしたら私許さない! 可哀そう!」

「はは、勇者と魔王が手を組んだら世界が終わってしまうな。大丈夫、みんな話せばわかる人達だから。じゃあアリスちゃん来てくれる?」


 俺はアリスちゃんをロード皇帝たち、各国代表の元へと連れていく。

 おどおどして怖がっているが、これが先ほどまで世界を滅ぼす魔王の姿かと全員が何とも言えない表情でアリスちゃんを見る。


 そして俺は、鞄から配信ドローンを起動する。


==================

名無しのモブ1:急展開すぎてついていけないってばよ!

名無しのモブ2:あれ? 魔王は止まった?

名無しのモブ3:幼女が二人追加されてるぞ!?

==================


「じゃあロード殿下、ガゼット王、ガルディア。もう一度正式に言ってくださいますか?」


 この光景を全世界同時生中継する。


『……エルフはこの度の件、全てアースガルズ帝国へと委ねる』

『ドワーフも同様だ』


 ガルディアとガゼット王が全てをロード皇帝に委ねるといった。


 そしてロード皇帝は、そのまっすぐな目でアリスちゃんを見る。


『魔王アリスよ。その魔力を世界のために尽くすと誓うか。さすればこの度の狼藉不問とする。並びに魔族と魔獣族よ、お前達もだ。食事の面倒は見てやろう。その代わり、お前達にはお前達にしかできぬことで罪を償うが良い』


『え、えーっと……』


 俺がその言葉を通訳する。

 するとドラグさんが一歩前にでる。

 そしてその横にいた獅子族の代表も前に出た。


『魔族の代表として、その申し出お受けしたい。我々はもう自分達だけで生きていくことはできない』

『魔獣族も同様だ。帝国から食料を提供していただけるのなら、それ以上は何もない。ぜひ、この力を使ってほしい』

『わ、わかりました!! お腹いっぱい食べれるなら何でもします!!』


 その宣言を見て、ロード皇帝はドローンを見る。


『では、ここに第100代アースガルズ帝国皇帝の名において、全帝国民に命ずる。今後魔族、魔獣族を迫害することを禁じ、良き隣人として共に生きること。先日決定したエルフ族とドワーフ族に対する法をこの二つの種族にも適応し、不毛の大地は借金返済まで帝国の属国とする。……これでよいな』


『はい!!』


 こうして、魔王騒動は一旦終結することになる。


 ロード皇帝の采配によって、帝国での魔族迫害はなくなっていく。

 とはいえすぐになくなるわけではない。

 それでも少しずつお互いを理解し合えていくだろう。


 なぜならば……。

 

◇数か月後。


一花『ブ、ブンブン! ハロー異世界チューブ!!』

アリス『ブンブン……』

シルフィ『ブーンブーン!!』

一花『もう! アリスちゃん恥ずかしがってちゃだめ! シルフィちゃんも空飛ばない! 見切れてる!』

アリス『恥ずかしい……で、でも! ブンブン!!』


(いや、癒されるな…………可愛い幼女三人か……)


 俺は釣りをしながら、隣に置いているタブレットでその配信を見ていた。


 あれから魔族のイメージアップがしたいとアリスちゃんは言ってきた。

 自分のせいで、世界中を敵に回してしまい、元々怖いイメージだった魔族がより一層恐れられたのではないかと懸念してだ。


 なら一花が私と一緒に異世界配信者になろうよと提案し、遂にかなってしまったこの活動。

 一花は、配信者になるのが夢だったというが、まぁ近頃の小学生の夢は配信者だし、仕方ないか。

 普通なら公務員を目指せと言いたいところだが、勇者だしなー。まぁそんなことがあればシルフィも参加するのは当然で。


 そして生まれた【魔王と勇者と古龍チャンネル】とかいう、冗談でもなんでもない最強の幼女三人によるチャンネルだ。

 ちなみに俺は配信者を引退して、そのフォロワーは全部こっちに流した。いや、おっさんの配信より絶対こっちのほうがいいだろう。


アリス『きょ、今日は! 不毛の大地、改めサンクチュアリへ向かいます!』

一花『そう! 今サンクチュアリはとてもすごいことになっているのです!』


 彼女達は今、不毛の大地改めサンクチュアリで撮影している。


 あれからこの世界を隔てていた言語問題はある程度解決しつつある。

 結局はきっかけがなかっただけで、ある程度意思疎通ができるようになれば交流は自ずと広がっていくもので、俺の理解の加護もそろそろ不要になってきた。

 特にソフィアとアンリの二人の言語発達はすごい。もうある程度日本語話せるんだから、やはり若さか。


「しかし、相変わらずすごいな……数か月でこんだけできるんだもんな……」


 画面に映る不毛の大地はサンクチュアリと名前を変えて驚異的な発展を遂げている。


 その理由は、魔素という資源のおかげだ。


 ドワーフには、魔素を用いてエネルギーを生み出す技術がある。

 それを研究し、日本独自の技術と組み合わせれて作られたのが、ここ魔力発電所だ。

 原子力発電もびっくりなエネルギー効率で、地球のエネルギー問題はあっさりと解決してしまいそうなほどだ。

 

 とはいえ、魔力が枯渇するのでは? いや、そんなことは全くない。

 サンクチュアリに溜まっている魔力は帝国のある大陸の魔力総量を1とするなら1万倍というバカげた数値だった。


 そのうちの一%でも地球の消費エネルギー一万年分ぐらい余裕で賄えそうといえばそのエネルギー効率がわかるだろう、やばすぎる元素だ。


 つまりサンクチュアリは、石油などの資源大国と同様に世界最大の資源大国として名をはせることになる。

 一応は帝国の属国だったのだが、このペースでは一瞬で借金は消えてしまうだろうな。ロード皇帝がもっと吹っ掛ければよかったと笑っていた。


一花『今日は魔族の代表、ドラグさんにお話しを聞きに来ました! こんにちは!』


ドラグ『こ、こんにちわ! サンクチュアリをよろしく!』


 何か声が上ずっているな、緊張してるのか?


 一花が冷静に場を回し、アリスが可愛い感じで場を和ませ、シルフィは天然。


 中々良いトリオのようで、魔族のインタビューしたり、エルフの生き方を配信したりと賑やかながらも、世界中を配信しているチャンネルで今一番人気があるようだ。


 この前ドンパさんが配信にコメントしてるのを見て笑ってしまった。あの人どこにでもコメントしてるな。


 そんな三人の配信を見ながら、俺はのんびり船の上で釣りをする。


 ここは不毛の大地のさらに奥に広がる大海原。

 実はあの後、この世界をシルフィの背にのって探検することになったのだが、なんとアナザー全体は俺達が想像している10倍広かった。

 某有名漫画の暗黒大陸もびっくりなほど、帝国のある大陸は小さく、その周囲を囲むようにあった海を渡れば巨大な大陸がいくつも存在したんだ。


 まぁつまり俺の仕事はすべて終わったと思っていたのだが……。


「お!? ヒットしました!!」

『おぉ! 信二! 筋がいいな!』

「いやいや、アクアさんが教えてくれたおかげですよ。って手伝ってぇぇぇ!! 滅茶苦茶重い!!」

『よし、待ってろ!』


 そういって、アクアさんは服を脱いで槍を携えて船の上から海へと飛び込んだ。

 まるで魚人のようだって? いや、その通り。


 彼らは魚人族、海に住まう人達だ。


 そしてしばらくすると、一軒家ほどはあろう巨大な魚がぷかぷかと浮いてくる。

 頭に槍を突き刺され、アクアさんは嬉しそうにその巨魚の上にのってこちらを見て笑った。


『今日は、寿司だな。俺が握ろう! まだシャリはあったはずだ』

「ははは……何人前ですか……あ、ちょっと失礼」


 この世界には、まだまだ多くの種族がいる。


 ドワーフ、エルフ、魔族に魔獣族、龍種もいれば魚人もいる。

 

 きっとまだまだ俺が意志疎通できる生物は存在するんだろう。


 スローライフを求めていたのに、気づけば前よりも忙しい。


「あぁ、もしもし? 信一郎?」

「どうだ。魚人族との交流は」

「はは、うまくいきそうだよ。今魚人族の王子と釣りしてたところだ。そうだ、寿司を握ってくれるそうだがシャリ追加で」

「先日あれだけ送ったのにか?」

「今魚人族の中では寿司が大ブームなんだってさ。ということで頼むよ、アナザー防衛大臣!」

「了解だ……アナザー外交大使」


 世界は平和になったというつもりはないが、前よりは随分と良くなったんじゃないかな。


 まぁでもスローライフは随分先になりそうだな、なんせこの世界は広すぎる。


 まぁ、おっさんはおっさんでも、まだまだ働き盛りの30代。


 さて還暦になるころには、スローライフを始めることができればいいが。


 まぁでもおっさんでも思ったよりも頑張れるようなので、もう少しだけ頑張ってみるか。

 

『あなたを選んでよかったです。信二さん……ありがとう、世界を救ってくれて』

「ん?」


 なんかこの世界に来た時と同じ声がした気がするが、いよいよ年か。耳が遠くなってきたかな。


 まったくスローライフは遠そうだな。


『おい、いくぞ、信二! 今日は全部食べるまでは返さんからな!!』

「ははは……胃もたれしそう」











あとがき。

くっそ駆け足で申し訳ないが、何とかたたみました。

いかがでしたか? まぁほどほどに楽しんでもらえたならよかったです。


執筆帰還は二週間ほどでしたが、勢いで書いた割には楽しくかけました。

というのもこの作品、ちょっと勉強したいことのためにテストで書いたものです。

つまり以下の作品のために!



無名無敗の天才プレイヤー、配信界を震撼させる。

https://kakuyomu.jp/works/16817330658480574748


この作品、本気でコミカライズとアニメ化目指して頑張ろうと思います。

滅茶苦茶面白くなる予定だから是非読んで欲しい。たのしいよ。


ほんと切実にお願いします。勇者の試練編までは何とか読んで欲しい。絶対に面白いのは保証しますぜ!

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【完結】 【朗報】俺、異世界配信者になる。~俺だけ会話できる異世界でエルフや龍を現代知識で助けていたらいつの間にかNo1配信者になっていました〜 KAZU@灰の世界連載中 @kazu-ta

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