第6話

「……まぁいいか。俺と花火様が付き合うなんて、そんな可能性一ミリもないし」


 想像するだけ無駄無駄。俺も学園行く準備しよーっと。


 リビングに戻り、花火様が食べ終わった食器を洗い、二階へ戻る。


 美冴のサボり場!というネームプレートが掛けられている扉をスルーし、俺の部屋となったドアを開ける。


 広さは大体10畳ほど。俺の前の家が確か8畳だから、恐らく一般の家よりかは少し広いか?部屋の奥にはまだ使っていないふかふかのベッドが置かれており、その対角線には勉強用の机が。


 そこの簡易的本棚には、『ヒロインの基本!』と書かれた本が七冊。これは、俺がここに入学することになったあの日から約一週間ほどで読み終えた。


 暇だったからな。それに、本を読むことは苦ではないし、なんならあの本に書かれた内容は全て覚えた。内臓機能はほぼ死滅してるのに、脳はなんか発達してるらしい。何故だろうか。


 もう一度、姿見の前で制服の最終チェック。身だしなみをきちんとしておくようにと花火様に口酸っぱく言われたからな……よしおっけい。


「行くぞ、マルミアドワーズ」


 そして、姿見の横に立てかけていたジャガーノートを手に取り、鞄へと入れた。


 あの日、俺が長月さんから貰ったジャガーノートは、イギリスに本社を構えているジャガーノート製造会社『ブリティッシュアルビオン』社製の、マルミアドワーズという槍のような武器だ。


 非常に耐久度が高く、雑に扱っても壊れない。癖がなく扱いやすいという観点から、初心者ヒロインが最初に支給される御三家武器の内の一つ。


 残りの二つは……まぁ機会があれば説明しよう。


「よしっと……じゃ、俺も行ってきます」












 ………甘かったか。


 見渡す限りの視線視線視線。一般人だったらこれメンタル崩壊してそう。俺じゃなきゃ崩れてたね。


 現在時刻9:00分。場所、瑠璃学園本校舎にある講堂。


 今からここで入学式が──────というか、もう始まっているんだが、あからさまに全員が俺を見ている。なんなら、俺の前の席の人は体ごと振り向いてる。


 なるべく目立たないように、一番後ろの端の方に座ったのだが、まず俺の隣の席が埋まった。


 そして、次は前の席が埋まり、前の斜めが埋まり、二つ隣が埋まり……といった感じになった。


 おい、学園長話し出したぞ。前向いて話聞けよ。


 はぁ、とため息を吐きたいが、一度やったらめちゃくちゃ隣の人にびっくりさせてしまったのであまり迂闊な行動が出来ない。


『────以上を以って、学園長式辞とする……なぁ、誰も聞いてないからふざけていい?』


『ダメです』


 壇上では、話を聞かれていないことをいいことに、長月さんと花火様が茶番を繰り広げていた。


 はぁ、気分はまるで見世物パンダだな。別に、見られて減る神経と精神はしてないけど。


 ……にしても。バレない範囲でぐるりと目を動かして周りを見るが、顔面偏差値みんな高くない?あと、めちゃくちゃ髪色と瞳がカラフルで目が痛くなりそう。


『はぁ……新入生諸君!前を向きなさい!!』


「「「「「っ!!」」」」」


 マイク越しに、花火様が注意をすると、全員が慌てたように前を向く。だがしかし、前の席の人はまだ俺が気になるのか、チラリと顔を少し動かして横目で俺を見る。


 ふむ、とりあえず笑って手を振ってみるか。


「……っ!!」


 しかし、そうした瞬間バッ!と勢いよく前を向いた前の人。あれー……?


 まぁいいや。しかし、花火様の鶴の一声で全員が前を向いたな。まだ雰囲気は全体的にソワソワしているが、それでも前を向いているのは、花火様のカリスマ故か。


 その後も、入学式は恙無く進み、式自体は大体30分ほどで終わった。まぁここは普通の学校のようなめんどくせー答辞やらなんやらが二つしか無かったからな。あと、入場退場もない。


『以上で、入学式を終わります。各自、これから教室に戻ってホームルーム、自己紹介等を行ってください。その後は、教導官の指示に従ってください』


「……ん?」


 教室……ってことは、クラスがあるんだよな……?1-1とか、1-A的な。


 あれ?俺なんにも聞かされてないのだが……え?どこなん?


 と、思っていたら俺の懐からピリリリリ!と音が響く。そのせいで、またもや全生徒の目が俺に向くが気にしないで端末をだす。


 昨日、長月さんが俺に支給した、どのヒロインも使ってる普通の無線端末。見てみると、長月さんからだった。


「……?」


 首を傾げる。長月さんそこおるやんと思いつつ顔を向けると、何故かウインクしてきた。はいはい、とりあえず見ろってことね。


 えーどれどれ……?『すまない。クラスを伝えるのを忘れていた。君が所属するクラスは薔薇組だ』ね。


「いや分からんわ」


 地図を出せ地図を。こんな簡素だけどスマホよりはスペックいいんだろ?


 はぁ、まぁいいか。隣の人に聞こ。


「あの……」


「ひゃ、ひゃい!?」


 話しかけられると思ってなかったのか、めちゃくちゃ声が裏返った彼女。長い黒髪をポニーテールでまとめ、瞳は少しだけ銀色味が混ざった黒色で、とても綺麗。目鼻立ちも整っていて、物凄く可愛い少女だった。


「わ、私ですか!?」


「あぁ。綺麗なお嬢さん、もし良ければ薔薇組の場所を教えてくれないかな?」


「ひ、ひえっ……!」


 俺のキザったいセリフに、めちゃくちゃ顔が赤く少女。


 あれ、そもそも何で俺一般的に恥ずかしい部類に入る言葉を普通に言ってんだ?マジで無意識だったぞ今。


 まぁ別に、俺は恥ずかしいなんて感じないから別にいいんだけど

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