第5話

「んしょっと……意外とコレ、着心地いいな。あと普通にカッコイイし」


 中学時代に通っていた制服と、この瑠璃学園制服(男)を脳内で比べながら、俺のために用意されたの姿鏡で身嗜みに問題がないかの確認をする。


 結局、俺は学園長────長月さんの誘いを首を縦に振った。まぁ色々と一昔前のアニメネタを擦っていたが、きちんと俺の意思でこの学園に入学することを決めた。


 首に嵌められた爆発物も無事に撤去され、そして何故か俺専用に家が用意された。


 何故。一体何故家なのか。俺は別に校舎のどこか適当な場所を貰えたらそれで十分だし、この体になってから色々なことが分かった結果、別に寝泊まりする所も必要なかった。


 だがしかし、「私のサボり場としても機能しているのだ(キリッ)」という長月さんの鶴の一声(俺の耳元でしか言ってない)により、こうして6LDKの豪華な一軒家が建ってしまった。ママ、パパ……高校一年生にして家持だよ僕……。


 後、ちなみにだが男ならヒロインではなくヒーローなのでは?という疑問も「馬鹿。今では男もプ〇キュアになれる時代だぞ。いいじゃないか、男のヒロイン居たって」とバッサリ切られた。いや、別に俺は気にしないんですけど、言葉の意味的に……。


 ピンポーン


「あ」


 余計なことを考えていたら呼び鈴が来てしまった。部屋を飛び出し、階段をジャンプで飛び降りて玄関の扉を開ける。


「おはようございます、花火様」


「裕樹さん」


少し、咎めるような感じだが、優しい口調で俺の名を呼ぶ。あ、そうだったわ。ここでは違うんだよな。


「あ、ごきげんよう」


「はい。ごきげんよう、裕樹さん」


 そこに居たのは、ここ数日でかなり仲良くなった(と思う)花火様が待っていた。俺の顔を見て、ニコリと笑ってくれる。今日もお綺麗です。


「どうぞ、朝ご飯の準備できてます」


「ありがとうございます。裕樹さんのお料理は美味しいので、これからの仕事にも気合いが入ります」


 ちなみに、気付いた人もいると思うが、俺の花火様に対する呼び方と、挨拶の仕方が変わっている。と、言うのもどうやら瑠璃学園は元々海ではなく、陸地の方の東京にあったお嬢様学校を母体としているらしい。その名残なのか、瑠璃学園での挨拶はごきげんようが一般的である。


 そして、様付けなのだが……正直、よう分からん。だが、下級生は上級生を様付けで呼ぶのが全世界共通らしい。郷に入っては郷に従えというやつだ。別に羞恥心は無い。


 リビングに向かい、椅子を引いて花火様を座らせる。テーブルに用意されている料理は1


「今日も、美味しそうですね」


「花火様が頑張れるように気合い入れましたので。飲み物は何にしますか?」


「では、牛乳で」


 通い慣れたのか、俺の家にある飲み物を把握している花火様。今日は牛乳の気分なのか。


 まじうめぇ牛乳とパックに書かれた牛乳を冷蔵庫から取り出し、コップに入れ、少しばかりはちみつを投入。スプーンで軽く混ぜ合わせると、花火様好みの味になる。


「どうぞ」


「ありがとうございます……それでは、いただきます」


 両手を合わせ、背筋がピンと伸びたままの状態で朝ごはんを食べる花火様。うむ、本日も美味しそうに食べているようで満足である。


 ちなみに、なぜ花火様の分しか用意していないのかというと、俺がである。


 一度死んだからなのか、内臓機能がほぼ死滅しているからなのかは分からんが、どうやら俺には三大欲求というものが殆ど消え去ったらしい。


 睡眠はまだこの瑠璃学園に来てから取ってないし、食事だって一週間に一度食べればいい程度。性欲は……まぁ、花火様と同じ空間にいてなーんにも興奮していないことからお察しだよね。こんなに綺麗なんだから。


 無い、ということはないがマジで存在していないレベルで無くなっている。


 それに気づいた時、かなり暇な時間が増えたことが分かった。寝ることもないし、食事時間も必要ない。なので、元々趣味だった料理の研究に手を出したのだ。


 極めていくうちに、たくさんの料理を作ってしまい、処分どうするかと悩んでいると、ここで閃いた。


 花火様、呼んじゃおうぜと。


 なんたって、ヒロインは物凄い大食漢らしいし?いくら食べても太らないらしいし?完璧やん、と。


 と、言う事から俺と花火様の関係は続いているということだ。


「ふぅ、ご馳走様でした裕樹さん」


「お粗末さまです。いつも通り、お皿は置いたままで結構ですよ」


「すいませんね、いつも」


「それは言わないお約束ですよ」


 花火様が笑顔を浮かべるので、俺も笑顔で返す。それを見た花火様が、少しだけ頬を赤く染めた。


「……コホン。それでは、そろそろ私は行きます」


「見送ります」


 横に立てかけてあった花火様のジャガーノートが入っている鞄を持ってから玄関まで行き、靴を履いたタイミングで花火様に渡す。


「少し早いですが」


「?」


 玄関に手をかけた所で、花火様が俺の目の前まで戻ってきた。


「個別に言うタイミングがありませんので、今ここで言いますが────入学、おめでとうございます」


 ふわり、と花火様の柔らかな手が俺の頭を撫でる。


「その制服、とても似合ってます。カッコイイですよ」


「……ありがとうございます」


 少し、頬が赤くなった気がした。


「それでは、行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


 そう言って、花火様は家を出ていき、校舎の方へ向かった。


 ………ふぅーーーーー。


「何だ?さっきの夫婦みたいな会話」


 熟年夫婦かな?結婚歴大体20年くらいの。それだったら俺と花火様の立場逆転しているが。いや、今どきの時代、逆も有り得るのか……?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おかしい。なんでコイツら結婚歴25年くらいのやり取りしてるんだ?

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