登場家具紹介
そうざ
Introduction of Furniture that Appears
●机(デスク)――――東側の壁際に鎮座。一九六〇年代・デンマーク製、材質・チーク。
●椅子(バルーンバックチェア)―――机の側に鎮座。一八八〇年代・イギリス製、材質・ウォルナット。
●本棚(ブックケース)―――北側の壁際に鎮座。一九二〇年代・イギリス製、材質・マホガニー。
●洋服箪笥(ワードローブ)――西側の壁際に鎮座。一九六〇年代・イタリア製、材質・メープル。
●用箪笥(チェスト)―西側の壁際、洋服箪笥の向かって右側に鎮座。一九三〇年代・イギリス製、材質・オーク。
●寝台(ベッド)――南側の壁際に鎮座。一九七〇年・日本製、材質・スチール。
机「私は近頃、不思議に感じている事がある。文筆を
椅子「言われてみれば、
洋服箪笥「吾輩も奇異に感じていた。吾輩の扉もこのところ開け閉めされた憶えがないのだ。偶には空気の入れ替えをして欲しいのだが」
用箪笥「空気の入れ替えは同感だな。あの存在は日々の大半をこの部屋で過ごしていた。それがどうした事だろう。ここ暫く気配すら感じられない」
机「旅にでも立たれたのだろうか」
洋服箪笥「それはない。旅行であればその準備の為に必ず吾輩を開ける」
用箪笥「どうも分からん。睡眠を取る為にはこの部屋に必ずやって来る筈なんだが」
机「今、何と申しされた? この部屋は書斎だ。決して寝室ではない。その事は私が明確に証明している」
用箪笥「それは根拠として弱過ぎる。寧ろ、
椅子「また『書斎・寝室』論争を再燃させるおつもり? 好い加減に
本棚「既に結論は出ている。
洋服箪笥「だが、あの存在は就寝前に読書をするのが日課だった。寝室に本棚を運び込んでいても何の矛盾もない」
本棚「黙らっしゃい。書斎に寝台を持ち込んだのかも知れぬぞ。あの存在は常に原稿の締め切りに追われる生活を送っておる。机の直ぐ側に寝台があった方が利便性を考慮した配置と言えるではないか」
寝台「…………」
用箪笥「意義あり。睡魔を誘発し兼ねない寝台が傍らに置かれていては、執筆に集中出来ない」
洋服箪笥「用箪笥君の意見に賛同する。こうは考えられないか? この部屋の片隅に置かれている机殿は飽くまでもインテリア重視のベッドサイドテーブルに過ぎず、執筆用の机は他の部屋、つまりは書斎の方に――」
机「失敬なっ、私は列記とした執筆用の机だっ。あの存在は毎日のように私に向かって苦悩しているっ」
椅子「そうよっ、あの存在の疣痔を感じ続けていた、他でもない私が証言するわっ」
用箪笥「椅子嬢。妙な
椅子「……私、こんな想像をしてしまったわ。あの存在がやって来なくなったのは、この部屋が納戸になってしまったからじゃないか、私達はお払い箱になったんじゃないかと」
机「何を言い出すのだ。馬鹿げた考えは止め給え」
椅子「私はそれでも良いと思っているわ。机様とご一緒ならばここが何処であろうと構わない……」
机「
椅子「当然だわ。私と机様は切っても切れない間柄よ」
洋服箪笥「そうかな。机には椅子が必要だが、椅子の相手はダイニングテーブルでも化粧台でも良い筈だ」
机「椅子さんっ、そうなのかっ? 吾輩でなくても誰でも良いのかっ?」
本棚「おい、いつの間にやら論点が逸れておるぞ」
用箪笥「ところで寝台君。君は先程から何も発言をしていないが、どう思っているんだ? 君こそがこの部屋を寝室たらしめている最大の根拠なんだぞ」
洋服箪笥「そうだそうだ。君にはこの部屋最大の専有面積が与えられている」
本棚「そもそも貴殿は家具なのか? 寝具という呼び名の方がしっくり来る気がせぬでもないが」
椅子「何とか言って、寝台さんっ」
寝台「僕は……僕の上に冷たさを感じている。その重量はいつもと変わらないのに、その冷たさと言ったら今までに感じた事のない感覚なのです」
机「いつから感じているのだ?」
寝台「分からない……いつの間にか冷たくなっていた」
洋服箪笥「何故、今の今までその事を黙っていたのだっ?」
寝台「あの存在が居なければ僕達の価値がなくなってしまうような、そんな気がして、それが恐ろしくて……」
用箪笥「何て事だっ」
本棚「吾輩の蔵書にこんな場合の対処法を記した書物はないぞ」
洋服箪笥「世界の終りだっ」
椅子「私は平気だわ。何があっても机様と一緒ならば……」
机「椅子さん……」
登場家具紹介 そうざ @so-za
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