3人の女…NTRの濡れ衣をボコられ女①〜ウチには何にも無かったんだなぁ、だから束縛したいんだ

 志波 翡翠…ウチの親も、翡翠ヒスイなんて大層な名前つけちゃって…


 ウチは子供の時からずーっと、両親は忙しくて家で一人だった。

 テーブルには朝昼晩の飯代が置いてある毎日。

 金はあったんだろうが、愛情もあったのかも知れねーが、目に見える、感じる愛情は無かったなぁ。


 そして両親が顔を合わせればいつも喧嘩、喧嘩、喧嘩。


 自然と家から足は遠のいて、いつも近くのゲーセンで遊んでいた。

 運が良かったのは、ウチの地元では高校ぐらいまで圧倒的に強く有名なレディース【輝夜姫】という暴走族がいた。

 そこのリーダーの条件が【ダセェ事はしない狂人であれ】だった。

 

 カタギどころかヤンキーやらオタクやら何であっても地元の人間には手を出さない、いや喧嘩売ってくる相手しか喧嘩しない不思議なチームだった。

 だからどんなボッチでもヤンキーでも一線を超えなければのんびり生きていける。

 

 ゲーセンでたむろしてても【輝夜姫】の人は近所のお姉さん感覚で話しかけてくれた。

 ある時、中学ぐらいか。


「おまえ、そんなに暇なら【輝夜姫】に入れよ。別に喧嘩強くなくても大丈夫だよ、神輿みたいなもんだから」


 話を聞くと【輝夜姫】の初代は狂った人、まさに喧嘩狂で老若男女関係無く喧嘩を買っていたらしい。

 その人の時代が終わる頃、輝夜姫の名前で近隣の不良はこの街に手を出さなくなった。


 その後は周りで『誰かやる?』程度の感じで回していたらしい、そのノリでやってるから22代目とかとんでも代数になった。


 何でそんなに続くかというと、今はともかく、過去には輝夜姫に手を出すと初代リーダーとその旦那がやってくると噂になっていたからだ。


『活きの良い奴が、いるらしい。試してみたいなぁ』


 何処かのチームの誰かが犠牲になって…だからこそ広まったんだろうけど…


 とにかく神輿だったらまぁ良いかなぁと思って…始めた暴走族。その頃には両親が離婚した。

 何がムカついたって母親が離婚理由の1つにウチが暴走族に入ったとか言いやがった。

 お前等はいつもどうでも良い事で揉めてたのにな。

 まぁ、その事で私は親父の側に付くことに決めたんだ。


 高校は馬鹿高校、時間はあったからバイクの免許を取ったら輝夜姫の総長になった。

 何故なら皆、原付きしか取れなかったからだ。

 とりあえずしきたり的なもので、初代への挨拶に隣町に行った。


 そのついでに街で有名なギャルサーとやらに挨拶に行く事にした。

 それが伊勢…チーコとの出会いだった。


『ウチは輝夜姫の総長…翡翠だ!ミドリって言われてんだ!お前ら楽しくやろうや!ギャハハハ』

 

 何故か喧嘩になった、ウチの『明るく楽しくをモットーに!』というやり方で接したら喧嘩を売っていると思われたらしい。

 正直、ウチは喧嘩が弱い。ウチの代のメンバーも弱い。


 速攻でボコボコにされた、チーコ独りに返り討ち…

 

「喧嘩はダメだ、しないほうが良いべ…」


 ボコボコにされたメンバー内での話し合いは満場一致だった、ウチもそう思う。


 そんな事をやってたら、知らない間に親父の工場が潰れかけた。

 借金の方に戸建ての自宅は差し押さえられた。

 私は…隣町の親父の工場ある街に引っ越しが決まった。

 私の部屋は親父の工場の元女子更衣室だった、もう使わないからとか何とか。

 だけど家にいるなんて習慣にないから、遊びに出ようと思った。

 よく考えれば、そこはボコボコにされたチーコのいる街だった。



 ちなみに輝夜姫、地元密着型の暴走族…まぁまぁ、潮時だったんだろう。

 集まっていたゲーセンの後輩が継いで、私は辞めた。

 この後輩、ウチよりカリスマ性もあれば喧嘩も強い。文句無い逸材だ。同時に同年代は皆辞めた。


 友達もいない隣町で何もすることが無いウチはとりあえずチーコの所に挨拶に行った…したらボコボコにされた。

 とりあえずやる事もないし、チーコの所に通い続けてた。私は言葉が足りないのかも知れない。

 それに、時間だけは無限にあった。

 何故なら高校は中退し、やってる事は親父の仕事の手伝いだけ。


 そんなチーコの所に、通い詰める毎日を送っていたら…気付けばチーコと仲良くなっていた。

 チーコが喧嘩しにきたわけでは無い事に気付いたらしい…遅いよ…


 しかしまぁ、チーコはウチと違って何でも出来る奴で、喧嘩が強く、頭も良く、周りに人が集まるカリスマ性があった。

 私が何を言ってもチーコは考えて、より良い提案や結果を出す。

 だからチーコに思った事をそのまま言いまくった。

 元からチーコの周りにはたくさん人がいたが、ウチは特にチーコと仲良くなっていた。

 私にそんな気は無くても、一応元々は敵対関係で殴り合った仲、それに気兼ね無く意見を言われた事が無かったらしい。

 確かにチーコに意見を言う奴は私以外いなかった。私は勝手に寂しい奴だと断定した。

 それだったらと、近くでチーコに好き勝手言った。今考えると私も甘えていたんだな。


 何より引っ越して友達もおらず、学校にも行ってないし、色々嫌な事があったからか…とにかくずっとチーコと遊んでいた。

 その結果がチータフというチーム名だ。

 ウチとチーコ、ウチはチーターが好きだからという理由で言ってみたら別にそれで良いよと言ってくれた。

 この時からかなぁ…元からチーコの周りに居た奴からは良く思われなくなった。

 

 喧嘩も弱くはないけど強くもないし。気合だけで何とかしていた部分が大きい。

 チータフに必要かと言われれば…チーコに気に入られているだけ…と言われればそれまでなんだけどさ。


 そんな事を考えていたら噂が流れた。


『ミドリがあの子の彼氏、寝取ったらしいよ』


 そんなアホみたいな噂が流れた。


 そんな訳無い。何だ、寝盗るって。

 正直、その時のウチは男を好きになるという事の意味が分からなかった。

 両親が喧嘩してるのを、ずっと見ていたから。

 いつも喧嘩してお互い泣きながらあーしろこーしろ言って、最後はお別れなんて嫌だから。


 恋愛なんてクソ喰らえだ。


 そこは特にチーコと気があった…と、思ったけどもちょっと違った。

 チーコは弟が大好きなだけだった、自分で言っていた、ブラコンだと。

 音楽をやっている弟の為に、いつかライブハウスを買い取って、そこで弟のバンドがやるんだって。

 私に弟というか姉弟いないからよくわからんけど。


 その弟…ヒー坊…だったんだよ。


 アレはチーコの家に行った時だったかな。

 

「姉ちゃ…あ、こんにちは!ミドリさん…ですよね?おお…本当に全部緑色なんすね!それに豹柄…ロックですね!」


 髪を捻り立てた高校上りたてか?幼い顔が背伸びした感じで可愛かった。

 ただ、真っ直ぐな瞳の、まさに少年だったな。


 当時、蛍光緑色のショートカットだったウチの髪をじっと見てたな…それに豹柄のコート…まさに動物園だったウチ。

 真っ直ぐな目で音楽とか何聞くんですか?とか言うもんだからさ


「音楽は聞かねぇな、聞く暇ねぇもの。何か良いのあったら教えてくれよ?」


 本当は流行りのポップスをテレビで聞く程度なのに柄にもなくカッコつけたな、恥ずかしい。

 我ながら先輩風を吹かせて口調も変わっていた。


 あの時と今…なんでその後、会った時になんで気付かれなかったのか、ウチでも分かるよ。

 チーコに貰った服や、行けと言われた美容院で髪がセットされていた。

 先輩風を吹かす自信満々の態度と口調…そして顔の傷…当時のチータフ、チーコの相棒ミドリという誇りを会った時には失っていたから。


 それから何回か、遊びに行くとヒー坊がいた。

 地元ではおかしな奴の扱いで、チータフでは元メンバーから煙たがられていた。

 だから純粋に、憧れの目で見られるのは嬉しかったな。

 

 そんな感じでチータフは順風満帆とまでは行かないけど…チーコとそれなりに楽しくやってたんだ。


 あの日までは…


 馬鹿が売春やってんのは知っていた。

 チーコにバレないようにコソコソコソコソ。

 チクったらそれはそれで騒ぐだろう。

 だから、最初はチーコが自分で気付くまで何も言わないつもりだった。


 しかし、一人がチータフの名前を出した事を知る。

 知らない女に言われた。


「ミドリさんですよね?チータフの皆さんはアイカさんのお世話になっているって聞きました!私も紹介して貰えませんか?」


 血管が切れそうになった。何でチータフが売春の窓口になってんだ?

 ウチとチーコのチータフを汚しやがって…と。

 疑いのある奴の家まで行って殴りまくった。

 殴ってる内にゴミ女か吐いた、汚物と真実を。

 結局、チーコの顔色を伺ってるだけの奴等はチータフを、そして仲間を売りやがった。

 今頃チーコを真実を知り選択を迫られているだろう。

 汚物共の欲を取るか、自分の夢を取るか…

 

 分かってたんだけど…自分を止められなかった。


 身体を売った奴等を、片っ端から殴りまわった。

 その足でチーコの所に行ったら…チータフからお前は要らないと言われた。

 私がチームの女から男を盗ったと…そんな訳無いのはチーコが一番知ってるだろ?

 納得がいかなかった、だから詰め寄った。

 久しぶりに殴られた、だけど昔と違って…その拳は悲しかった、ウチとの決別の拳だった。


 それで良いのかよ?

 チーコ…正しいと、思うなら…突き放さないでいつもみたいに分からせてくれよ…


 ただ突き放すだけのチーコの事を思うと…悔しくて、涙が止まらなかった


 許せなかった、チーコを曲げた奴等、チータフを終わらせた奴等、チーコに囁やき、依っかかった周りの奴等、全部、全部が許せなかった。


 何度も言うがウチは別に喧嘩が強い訳じゃない。

 だからといってアイカとかいう元締めと、叛徒とか言う半グレ集団を許せなかった。


 喧嘩は気合だ、腕っぷしが弱かろうがなんだろうが、やらなければいけない時があると思った。

 チーコに私の生き様を、弟の夢を叶えてやりたいと言っていた正しさを、自ら進んで堕ちていく事の愚かさを…身を持って伝えたいと思った。


「チーコをかえせえええエエェェエッ!!!」


 ウチは叛徒の集まるコンテナを改造したクラブとやらにバイクで単身つっこんだ…


 

 数刻…



「ごべんなざいいいい!ゆるしてくだざいぃ!!」


 目下から顎まで肉が裂けていた。

 肩と、膝、腕…気付けば変な角度に曲がり折れていた。

 ウチは泣きながら変な姿勢で土下座していた。

 痛いから、怖いから、死にたくないから。


 最初はバイクで突っ込んだら凄いガタイの爺さんを轢いた。

 爺さんはすぐ立ち上がり何かした…と思ったら身体の何本か、骨が折れた感覚と共に顔の右側か熱くなった。

 熱さはすぐに痛みに変わる。手で触っただけで分かる。綺麗に肉が裂けていた。

 

「ひいいいいいいいいいいいたあいいいいい!?」


 よく見ると爺さんは身長が背筋を伸ばすと2メートルはあり、筋骨隆々の傷だらけ身体だった。


 そしてもう一人、爺さんの隣でなにか話している爺さんに比べて頭一つ分ぐらい小さいがそれでも女性にしては身長のある軍服のような姿の綺麗な女。


「騒ぐな小娘、死にゃーせん。しかし挑戦者としてはいかがなものか?牽制が普通に当たりおるし…」


「阿修羅のジジイ、貴様の尺度で決めるな。挑戦者かどうか決めるのは我々だ。警備担当の範疇だからな。口出ししないでもらおうか?」


「あぁ、もう戦意喪失しとる…ワシャ興味のないわい。やっぱりタツじゃないとのう…まぁ弱者をいたぶるのはお主の範疇だろう?」


「あぁそうだな、その通り。それで良いよ、お前と口論してる時間も惜しい。時間は有限、私の時間は全てあの御方の為にある、とっとと失せろ」


「集まれ言うて来たら失せろ…最近の若者たちは口の聞き方がなっとらんのう?タツみたいになったらおしまいじゃぞ?」


 痛みと恐怖で苦しむ私を意に介さず睨み合い一触即発になる2人、やがて爺さんの方が消えた。


「で、爺さんに勝手にやられた女。こういう場でやらかした場合、戦場だと男は拷問の上、死ぬか労働力に…そして女はどうなるか知ってるか?」

 

 怯える私に顔を近付け顎を掴まれた。

 女は片目が義眼だった、そして手も義手だった。

 カタギじゃない…という言葉は何も一般人とアウトローの違いだけじゃない…この人は別世界の人間だ。


「輪姦された後に…売り飛ばされるんだよ…女の身体は商品だからな。そして玩具にされ、海外のスラムに捨てる。ここに殴り込む、私の前に居るっていうのはそういう事だ」


 マワスって何?分からないけど間近で見る女の目が語っていた。この人は恐怖を体現化する何かだ。

 何されるか分からないけど、とにかく怖かった。

 謝った、もう何もしないと誓った、なんでもするからと助けて下さいと縋った。


「まぁまぁまぁまぁ、棺さん。怖い怖い。怯えた女の子にそんな事しないよ、それにこの国で殺しは無しって言ってたのはアンタだろう?」


 女を侍らした金髪の男が割って入った。

 金髪の横にいた若く幼い顔の女が、怖い女に肩に手を置いた。

 

「棺さん、その人の親友というのがウチの稼ぎ頭の1人です。条件を出されました、その女を極力無傷で返すと。だからこれ以上は…」


「ん〜?あぁ…アイカの案件か…って事は幹部案件ね。まぁ冗談だよ。この国じゃ、悪さしてもお咎め無しで出てこれるからなぁ…平和ボケ極まるね」


 アイカ…この若い女がアイカか?この女が…

 ウチは眼の前にチーコを誑かした元凶がいるのに…言ってしまった…当人に


「助けてくだざいぃ…もう逆らいませんからぁ!」


 泣き言を…心が折れていた…痛くて…怖くて…

 言ってしまった…助かりたくて…この場から逃げ出したくて…憎むべき相手に助けを求めてしまった。


「病院を紹介します。町医者ですけどね。これ以上関わらないで下さい。向かってくる者を保護出来るほど、私には余裕が無いので…」


 その後の事は良く覚えてない。

 ヤブ医者に適当に治療されて、家に帰ったら親父は血だらけのウチを見て大騒ぎで、ウチは…怖くて暫く家で泣いていた。


 そこから…親父の工場でアルバイトしながら極力家から出なかった。

 外が怖かった。全員が見てる気がして、気付くと『ごめんなさい』って謝ってる自分がいた。

 トラウマっていうのはこうやって、出来るんだと思った。


 そんな時に工場のバイト募集に来たアイツ…内弁慶なウチに少しだけ勇気をくれた。

 工場の一室、自分の部屋だけが笑える場所。

 そこで帰りはずっと一緒にいてくれて、時折一緒にコンビニ行こうって、そう言ってくれて。


 やっと心が落ち着いた今でも…外に出るのに勇気がいるんだよ

 昔は憧れられていて、今は気付かずそれでも慕ってくれて

 でも…アイツがきっかけで外に出れた…


 だから初めてか…初恋…惚れるの事が…何か悪い事かなぁと思う。

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