3人の女…NTRをしてしまった女の言い訳①〜貴方の横を歩きたかったのに私は

 この人は誰?私を認めてくれる人

 あの人は誰?私を崇拝してくれる人

 記憶を辿ると出てくる彼は?…そうだ、私を信じてくれる人、だった


 太陽は届かないから敬意の対象に

 神は存在しないから想像し信仰の対象に


 憧れは遥か彼方、だから…


 地球から見た太陽は遥か遠く

 だけど宇宙から見た太陽は、小さな銀河系の一つ


 もしも神が実在して 平凡な人間だったら?

 盲目的信じるか 自分が神になるだろう


 昔見た小説を思い出しながら腰を振る

 今、私は翔んでいる。大人の世界を翔んでいる


 翔び方を教えてくれた彼

 墜ちた鳥の様に 苦しそうに蠢く君に

 さようならって言えなかった


 私はきっと 糞のような女だ だから蝿がたかる



―――――――――――――――――――――――


 幼少期、毎日が楽しかった

 難しい事を考えなくて良い


 家は両親があれやこれやうるさく嫌いだったけど、外に出れば同じ考えを持つ友達は沢山いた。


 その中に尋也君はいた ただの友達の一人だった


 男も女も、お金持ちも貧乏人も、強いも弱いも

 関係無い空っぽな世界が好きだった

 この世界がこのまま続けば良いなと思っていた


 しかし、この世界はすぐ終わった。

 小学生になり、家に帰ると父の浮気が発覚したとの事で、家が修羅場になった。

 散々揉めた挙げ句、蓋を開けてみれば、きっかけは母の浮気だった。

 憎悪の連鎖、その中で私の取り合いは、最早お互いの嫌がらせにしか見えなかった。

 結局、離婚するにあたり、父は私を置いて女の家にいった。


『桐子は私と一緒、男を駄目にする欲深い女』


 お父さんが出ていって、母が娘に言った一言は、今考えると信じられない。

 私にお父さんを盗られたと言っていた。

 そんな馬鹿な話は無いのに、当時は真剣に考えた。

 後から考えれば既に母は壊れていた。

 狂った母と2人しか居ない家の中は気が狂いそうだった。

 

 私は存在しないほうが良いのかも知れない。

 馬鹿みたいだけど本気でそう考えた。

 だから、もう誰とも関わりたくない。


 私の態度に、クラスの女は気に入らないようだ。

 そしてイジられ無視される私を、男子がからかう。


 もう、嫌だ。しかし一人で生きていこうと決めたのに、一人のクラスメイトがしつこく話かけてくる。

 

 それが尋也君だった。クラスの人気者。

 それからずっと、尋也君と一緒にいた。


 尋也君はこんな私とずっと仲良くしてくれた。

 上手く行かない事を理由に、学校という牢獄から逃げようとする私。

 せめて本に、夢の世界に…と、逃げる私を、か細い糸の様なもので現実世界に繋ぎ止めてくれる。


 中学に入り、いよいよ現実が見えてきた。

 才能や努力という名の格差が生まれてきた。

 容姿はパッとせず…お金も無く、学もなく、新しい事を始める勇気も無く、ただ本を読んでいた私に学校は地獄だった。

 

 私が夢の世界に行ってる時に、尋也君は音楽を始め人気者になっていった。

 

 それでも尋也君は私と繋がってくれる。

 いつもの読んだ本の話を聞いてくれて、覚えた曲を弾いてくれる。

 私のこの世界との繋がりは尋也君だけだった。

 それでも…とても幸せだった。

 

 そして中学校の文化祭、ステージにいる尋也君を見た時…私の中でなにかが弾けた。


 まるで別の世界…この尋也君といる時以外、地獄のようなつまらない世界でも、物語の様な生き方が出来るんだって言っているような気がした。


 ここではない何処かへ行けるのではないかと思わせる…まるで私にだけ歌ってくれている様な錯覚に陥った。


 ライブが終わった後に尋也君の周りに人が集まり盛り上がっていた時は『私だけの為な訳…ないのにな』と、少しだけ自己嫌悪に陥った。


 それでも尋也君はその日も一緒に帰ってくれて、はにかみながら『桐子が見てくれたからいつも以上にやれた』と言ってくれた。


 私が勘違いするには十分な言葉だった。

 そして…高校生の進学を諦めていた尋也君を説得した。

 尋也君といると、私も後少しで何かが掴めそうな気がしたから。





 高校に入った。

 高校デビューという言葉がある。

 私はまさにそれだった。

 同時期に母が再婚した。何処で知り合ったかも分からない優男と。

 元々、母を親とは思っていない。だから私はからすれば、その優男はただの他人だった。

 ただ一つ、良くも悪くもその優男は金を持っていた。

 だからお願いするとお金をくれる、理由は何でも良い。

 ただ、洋服や遊びに行くお金を頼むと、とても喜んだ。今まで苦労しただろうからという理由らしいが興味が無かった。

 私は今流行りの服を買い漁った。

 そして髪を整え、軽く化粧をして高校に行く。

 尋也君は別のクラスだが相変わらず人気者。

 そして私も…


 クラスで一番格好良いとされる男と私が付き合っているという噂が流れた。

 男も男で満更でもなさそうだった。

 そんな訳無いが、クラスで一番とされるならちょっと付き合ってみるぐらい良いかなと思った。


 私はこの時から…既に尋也君とはすれ違っていたのかも知れない。

 何かが欲しかった。尋也君に近付く為の何かが。


 それに、その男と手を繋ぎデートをしたが、楽しい事は何も無かった。

 と分かり、すぐ別れた。


 ある日、尋也君に親しげに声をかけるボディタッチの多い女がいた。

 見ていて思った…ドス黒い感情が芽生えた。

 先輩の女が尋也君の首に手を回してなにか言った。

 心から近付くなと思った。

 同時に、もし尋也君が私が短期間とはいえ、キスもしてないが付き合っていたと知ったら?


 怖くなり元カレに念を押した。


「付き合っていた事は誰にも言わないで欲しい、それがお互いの為だと思う」


 何かが変わっていく。崩れていくような、塗り替わる様な…

 まともな幸せってなんだろう?

 尋也君のライブを見に行くと思う。

 彼も、私も、普通の生活、普通の恋愛では満たされないのではないか?

 本人は気付いていたのか知らないが、尋也君にはファンがいた。その存在を彼は見えていなかった。

 もっと何処か近いところを見ていた。

 私は彼の見えている世界が見たかった。


 そんな中で尋也君に告白された。

 付き合えると思っていなかったから…嬉しかった。

 嬉しかった?本当に?

 

 彼といると気持ちは静かに、それでいて暖かく、平穏な毎日に心は満たされ、幸せな筈だった。

 幸せって何?


 尋也君のお姉さんにあった。

 とても優しい人で、だけど怖い…何処か違う世界の人。 

 クラブのオーナーで、常に人が周りにいる。

 皆が羨む女性だった。

 尋也君と付き合えたから知り合えた。

 付き合わなければ知ることも無かった、別の世界の住人。テレビや漫画に出てくるような有名人。

 綺麗な服やくれて、腕の良い美容院を紹介され、お姉さんのおかげでクラブも顔パスで入れた。

 私は学校でも皆が羨むような女になれて嬉しかった。




 嬉しかった?幸せ?与えられたものだけで満足?

 分からない。皆が欲しい物を手に入れて、それで満足して幸せ…それが幸せ?

 

 高校の文化祭…私はモヤモヤしたまま尋也君達のバンドを見に行った。

 いつだって尋也君は私の苦しみや悲しさから救ってくれたから。

 このモヤモヤも晴らしてくれると思ったから。


 

 そこは尋也君の人生とも言える場所だった。

 ギターの音は金切り声、彼の歌声は慟哭だった。

 多分、見に来た人、バンドの仲間、私…誰も見てない。

 まるでこれから死ぬような…

 誰も見たこと無いから心が動く、だけど私ずっと側にいたから…もしかしたらだけど分かってしまったんだと思う…


 本当は孤独で、私の様な女に関わっていたのも何処か自分に近いものがあるからなんだと…


 確かにそう感じた…だって私から見れば誰にも届かない叫びをあげているだけ。

 中学の時からそうだった。端々で見える彼の心。

 ろうの羽で太陽に向かう鳥。

 それでも届くと信じている信念。

 ろうは溶けて急降下するだろう。


 それでも飛び立つ時は皆が見る…無責任に囃し立てる。

 誰かが言わないといけないよ。

 彼の家族も、友達も、誰も何も言わないの?

 いや、言っても聞かないだろう。

 だって…話を聞く限り…彼の周りには才能のある人しかいなかった。


 そんな人達の話を…彼は受け入れないよ…だって彼の歌っている…叫んでいる声は…何もない人達の叫びなんだから…


 だから私が…私だけが…そう言いながらも…


 憧れが翔んだ…一瞬だけ輝き地面に墜ちた…


 堕ちる直前に私の事を見ていた事実を


 私自身が見ようとしなかった

 

 

 

 

 

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