生宣り ~いのり~

トム

泉のほとりで




 ――母さん、ごめんね。次こそ……次こそは上手くやるから――。



 ――パチン……。



 ――父さん……やっと父さんと同じ背になったよ。だから……。



 ――パチン……。



 ――どうか、どうかお願いです、私はどうなっても構いません! ですから、どうかこの子は、この子だけは――。



 ――パチン。



 ――お母さん……ありがとう。ずっと、ずっと大好きだよ……。



 ――パチン。



 遥か彼方にその泉は存在している。小さなその泉には、幾つもの泡が浮かんでは、仄かに光輝いた後、パチンと弾けて消えていく。止め処なく現れては弾けて消え、その度、覗く彼の顔は悲しげでとても優しい。側を通りかかった幼子が、そんな彼に問いかける。


「どうして悲しい顔をしているの?」


「……ここに浮かぶ泡は、全て弾ける事が決まっているからね」


「シャボンのように?」


「……あぁ」


 彼の言葉に幼子は「それがどうして悲しいの?」と問うが、それには優しく微笑むだけだ。答えがもらえず、少し不機嫌になった所、遠くで呼ぶ声が聞こえる。


「あ、呼んでるから行くね」


 幼子は今までの気分を一瞬で戻すと、彼にそう言ってニッコリ笑う。そのまま少し走り出した後、ふと立ち止まって振り返ると、大きく手を振って声を掛けてきた。




 ――泡は弾けてるけど、想いはアナタに届いてるよね。

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