第14話 ココミナ

「うお…なんだこれ!俺がまるで未成年相手に淫行してるみたいじゃん!カナミちゃん…これキミだろ!」


加奈美は身体をビクっとさせた。


確かに、そうだった。

広央が眠ってる隙に動画撮影モードにしたスマホを棚の上に置いた。

広央は正面が映り、自分は背中だけが映るように。

そして火事だと言われ逃げる際、ひそかにアップした。


広央がガックリと肩を落とし頭を抱え込んだ。失望したのか、怒っているのかは分からない。


「うち、お兄さんのこと、いい人だって知らなかったから…ごめんなさい。ほんとごめんなさい…お兄さんはいい人なのに…!」


広央は何も答えない。

沈黙が続いた。


「ごめんなさ…」


「ふざけんなああ!!」

切り裂くような鋭い怒声に、加奈美の身体が雷に打たれたみたいに、ビクッとなった。

空気がビリビリして刃のように突き刺さる感じ。殴られる覚悟をした。



「なーんちゃって」

一呼吸おいて広央は笑い出した。

そして何事もなかったように訊ねる。

「カナミちゃん、これ報奨金いくら?」


「…え?」


怒るのでも、蔑むでもなかった。淡々と広央は話を続けた。

「ここまで恥かいたら俺、島を出るしかなさそうだわ。少しくらい餞別でちょうだい。お、もう閲覧数1万いってんじゃん、けっこう報奨金出んじゃない?あ、キミの事は和希にちゃんと言っておくから。ほらさっきの黒キャップね。頼りがいのあるナイスガイだから、安心しなさいよ」


「お兄さん、うちの事…怒ってないの?うち超ひどいことやったじゃん…」

加奈美が恐る恐る聞く。


「結構そういう子多いんだよ、キミみたいに家出してくる子で。なんかこう、麻痺しちゃってるんだよね」

起こるどころかむしろ勇気づけるような声で言う。


「傷つけられるのが当たり前になりすぎてて、当然他人にも同じ事をしちゃう。余りにも心に余裕がなさすぎて、そこらへん感覚が麻痺しちゃってる」



「…お兄さん、うちの事怒んないの?」

「俺には人を怒る資格がない」


またも、哀しみの表情が広央の顔を覆った。

「俺には人の事を怒ったり責めたりする資格が、もうないんだ」


「…なんで?」

「人を散々な目に合わせるクズだから」


空は青くカモメも相変わらず高く飛んでいて、穏やかな天気そのものだった。

その空を少し見上げて、広央は言った。


「ま、そんな訳だから。少しこの島で休んでさ。少しくらいならサボってもいいんだから。じゃ、ここでお別れ…」




『ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン 緊急放送、緊急放送 全島内に次ぐ。これより“全島封鎖”を行う!ピ~ンポ~ンパ~ンポ~ン』

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