第13話 裏切り

広央と加奈美は走り続け、路地裏に逃げ込んだ。

「はあ、俺なんで、一日中逃げ続けてんだか…」

二人とも、肩で息をしている。

「おい、カナミちゃん大丈夫か…?」

「へ、へいき…」


しばらくして息が整ってきた加奈美が、広央に聞いてきた。

「お兄さん、この島の“総代”なんだよね…?なんで逃げてんの?いいじゃん、トップに立つって、かっこいいじゃん」


まだ肩で息をしている広央は、ちらと加奈美の顔に視線を移した。

そして寂しそうな表情で言った。

「俺はふさわしくないから。」


「なんで、アルファなんでしょ?なんでも出来んでしょ?うちらみたいな凡人のベータと違ってさ」

「俺は、姫を守れなかった」

「ヒメ?」

話が読めず、加奈美は困惑した。


「まあ、こうして出会ったのも何かの縁だ。カナミちゃんの事ぐらいなら、何とか守れるよ。島にいたい事情があんならサポートするし、帰りたいんだったら手助けする」

自販機で買ったジュースを手渡しながら、広央は言った。



ジュースを受け取りながら、加奈美は不思議な感動を覚えていた。

上っ面の言葉で無い事を、その表情からはっきりと感じた。

心から言っているかどうかは、伝わってくるものなのだ。

朴訥な誠意が、このジュース一本に込められている気がした。


素直に、言葉が出た。

「ありがと…お兄さんて、すっごくいい人じゃん…」


その時着信音が鳴ったので、広央はスマホを取り出した。


『ちょっと---!!ヒロさん!今どこいんの!?何やってんの!?』

スピーカー機能がオンになっていたらしく、知広の声が響き渡った。


「わっっ、ちーちゃん!声大きいって!これどーやってオフにすんだ!?」

操作方法にまごついて、広央はあたふたした。


『ヒロさん、“ココミナ”にアップされちゃってるよ!!』


…その頃街は、街頭ビジョンですっかり顔を知られた“新総代”の話題で持ちきりだった。


大手雑誌社、数社が共同開発したアプリ“ココミナ”

ジャーナリストでもない一般人が、スマホで撮影したスキャンダラスな写真や動画などを投稿できるアプリで、ターゲットは有名人、政治家、芸能人、そのほか一流企業の社員など幅広い。

“ココミナ”が他のソーシャルメディアと違うところは、フォロワー数やチャンネル登録者数に関係なく、“バズった”投稿に対しダイレクトに課金される事である。登録したばかりでフォロワー数ゼロの人間でも、投稿を一発バズらせれば広告掲載企業から閲覧数に応じた報奨金が出される仕組みだ。


“ココミナ”を始めて最初の一発目の投稿をバズらせて、数百万円をゲットした中学生が話題になったりしている。

一攫千金を狙って、今やゴールドラッシュのごとく皆が血眼になって、スキャンダルな場面を撮影することに血眼になっていた。


その“ココミナ”にアップされていたのは…カラオケボックスと思しき部屋で、あの“新総代”が上半身裸の女の子と一緒にいるシーンだった。

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