第27話 麗しいほどの生食


「はーい、皆さんこんにちわ!あかねちゃんの配信にようこそ!今日は特別ゲストを呼びしてます!」


「えっと、よろしく?これに喋るんですよね?」


「何回も確認したと思うけど、これを通じてダンジョンの情報をみんなに伝えるんだよ」


 ダンジョンの浅い層にて一人の女性と少女が端末を持ち配信していた。



:こんちわー

:知らない子だ

:あの時のゾンビ少女!

:退治されてなかったのか



「酷いこと言わないの!この子は生食のプロなんだから!自己紹介よろしく!」


雁木恵右がんぎえうです。浅い所のモンスターなら何でも食べます」


「はい、最近都市にやってきた期待の新人だよ!みんな拍手~」


 そう、坂神あかねと雁木恵右。片方は中堅探索者でもう片方は都市では新人扱いになる探索者である。


 偶然出会い、あかねが恵右を才能あるのではないかと引き入れようとした結果、ダンジョンの浅い層から中層にかけての肉に異様に詳しいことから食事系として売れるのではないかという事務所のお達しがあった。


 あの時点で住処すらなかった恵右だが、あかねの誘いは怪しいとは一度思った。ひとまずの住処として寮の貸し出しと研修扱いとして少しの間はあかねの配信に出ることで知名度の獲得と事務所からの給与の発生。


 あとダンジョンで得た肉を自由に食べられるという点であっさりと許可しちゃったのである。


 もちろん審査はあった。ダンジョンでモンスターをどれほど狩ったことがあるか。知識はどれほどあるか。性格はどうか。


 狩りの成績は田舎とはいえ、そこで最強と言われるくらいの功績を持っているためダンジョン内で十分に生きていける。ついでに何故か毒に対する耐性がある。


 知識は芸能界や世間一般のニュースについて疎いこと以外は普通。ただし、ダンジョン内の食料、特に生肉については異様に詳しい。


 性格は食欲のためならある生活水準は相当犠牲にするという相当なこだわりがあるという点を除けば普通。


 よって、ダンジョン食に強い活動家としてデビューできるのではないかという電撃的な発表を行ったのだ。



:思ったよりも顔がいい

:この子がゲテモノちゃんですか

:垢抜けてない感

:初めての都会かな?

:あの時のゾンビっ子か



「この文字を読んでいったらいいんですか?」


「この量は流し見でいいよ。でも最初はコメント数は少ないと思うから余裕がある時にしっかり読み上げていってね」


「はい!」



:先輩面してらぁ

:面倒見は割といいよね

:百合営業



「なんか変な言葉も見えるんですけど」


「心無い言葉とか変な人も現れるからね。みんな、民度は大切に!」


 これまで何度も炎上経験があるあかねは平気であるが、恵右は少し心配そうな顔をする。


 今やっていることはテレビ出演と同じことという認識で彼女は配信に臨んでいる。堅苦しいことではなく肩の力を抜いてやろうというアドバイスをあかねや事務所の人からも頂いたが、緊張は簡単にほぐれるものではない。


 少し体に力が入りすぎているため動きもどこかぎこちない。


「それじゃあ早速行ってみましょう!食べられそうなものなら私も食べてみようかな」


「あ、はい!念入りに処理しますね!」


「まだ何を狩るかも決まってないけど…………って言ったらおでましだね」


 あかねと恵右が共にある方向へ向く。


 その先は遠く見えないが、タタタと獣が四つ足で走る音が聞こえてくる。


「種類までは分からないけど準備」


「足音からして赤灰オオカミ、今日のご飯にします」


「しよ、え?」


 あかねは足音だけでモンスターを見分けた恵右を見た。


 ちなみに赤灰オオカミは赤色と灰色の毛がまだらに混じった狼であり、基本的に1匹で行動するモンスターである。


 群れで動かないのは普通の狼よりも一回り大きく、その分強いため餌の関係上群れるとカロリーが足りなくなり下手すると共食いが発生しているという生態を持つのだ。


 ただ、赤灰オオカミくらいの大きさのモンスターはダンジョンにはごまんと居るので足音だけで判別させるのはかなり難しい。


「よく分かったね。まだ目視できてないのに」


「結構食べましたから覚えてます」


「そういえば犬鍋専門店とかで肉を卸した記憶があるような」


「犬鍋ってあるんですか!?」


「後で紹介するから前向いてね」



:食旺盛だね

:草

:これで美味しいもの食べて ¥1000!

:食いもんしか頭にないのか

:どれだけひもじい思いしたんだ



 戦闘前のはずなのに思った以上に軽い雰囲気を醸し出す二人。配信者としては若く新人ではあるが探索者としてはプロなのだ。


 後に語られることになる過去で皆がドン引きすることになるが、今はそっとしておこう。


「バウ、バウ!」


 そうこうしているうちに走りながら威嚇として吠える赤灰オオカミが目視できるところまで接近してきた。


 あかねはスレッジハンマーを構え、恵右は先が異様に細いレイピアを構える。


「やってきたね、それじゃあ一発ぶちかま」


 あかねがそういった瞬間、恵右は既に赤灰オオカミの前に躍り出ていた。


 そして的確に目を狙いひと突き、いつものようにスナップをかけて回転させ脳をかき回す。


「すよ…………ってあれ?」


「解体しますよ?」



:何が起きた?

:瞬殺w

:エッグいことしてるよこれ

:神業だよこれ



 明らかな即死攻撃に誰もが驚きを隠せない。初動から赤灰オオカミの視線に合わせて体を低くし、そこから突進で距離を詰める。勢いよく放たれた体と速度を利用して放たれた威力は軽々と頭蓋を貫通させる威力を持っていた。


 だが、そこであえて貫通させずに突き刺さる程度で止めて、脳みそをかき乱したのだから物凄い殺意が籠っている。


 それが食にまつわるものなのでやられた方はたまったものではない。


「毛皮はそれなりのお金になるから剥ぎ取って、内臓も中のもの取ったら食べれます。肉も結構甘くておいしいですよ」


「それって全部生で?血抜きは?」


「血も美味しいですよ?」


「おなか壊すよ?」


「慣れたら気にならなくなります」


「簡単に慣れないよ?」



:これもう耐性の話じゃないかな

:血もまあ、ちゃんと調理すればね?

:やっぱり配信者の素質がある人ってぶっ飛んでるんだ

:極端な例だよ

:もっと地味なのが普通なのにどうして



 こんなのがまかり通ってたら探索者が魔神か何かかと思われてしまう。そのようなことは一部の上位陣を除いてないのだが、雁木恵右はそういう素質を持っているというイコールにもつながりかねない。


 黙々と解体していく場面をあかねは端末を持ち映していく。


:プロの手さばき

:本当に10代?

:猟師に転職したら?

:実質猟師でしょ

:その場で解体も探索者のスキルだよね

:こうしてみると美味しそうに見えてきた



 解体作業も結構好評である。そういった動画は市場に出回っているが、危険が付きまとうダンジョン内なおかつ少女が解体している姿が様になっている。


 あかねという中堅と物珍しい新人が作業していると話題になりSNSでも話題になり始めている。


 一撃必殺少女の生肉食レポの始まりである。


「では、これをそのままいただきます」


「ほんとにいくの?血も滴ってるけど」


「これがいいんです!一緒にはい、食べましょう!」


「よし、これも度胸だ。食べるよみんな!」



:体張ってるねぇ

:流石芸人

:これが足を折って得た根性ですか

:根性は元から備わってるだろ



 二人は同時に肉をほおばる。


 血が滴るほどの新鮮さ、やはり鉄の味がとても強く濃く味に出る。もぐもぐと美味しそうにしている恵右と苦そうにしているあかねの対称な顔つきが妙に印象に残る。


 特に、あかねの顔がくしゃっとなっている部分が。


「ま、まあ確かに血の味が濃いというか、血の味しかしないというか、鉄の味というか、嚙んでも鉄というか」


「これがいいんじゃないですか」



:マニアックすぎるw

:もっといいもの食べて ¥5000!

:これ食生活のせいで舌馬鹿になってない?

:血のソーセージも個性的な味だから……

:実は偏食なのでは?



 様々な疑問を持たれながらも評価は悪い方向へは向かっていない。


 物珍しさというブーストがかかっているため視聴者は微量ながら伸び始めていた。


「あ、血の匂いに引き寄せられて他のモンスターも来ました!入れ食いだよ!」


「ちょ、ちょっと待って!口拭いてから!」



:暴走列車かよ

:モンスターに向かって一目散

:バトルジャンキーかな?

:もうそういったモンスターだろ



 赤灰オオカミを解体した際に流れた血で他のモンスターが集まってくる。小鬼型、狼型、蚯蚓型、蜥蜴型…………多種多様なモンスターが無防備かと思われた彼女達を襲うべく集まってきた。


 だが、モンスター共の誤算はあかねが節度ある中堅探索者というそこそこの強者であったこと。


 そして既にモンスターを襲いだした雁木恵右という一撃必殺の達人が居たことが運の尽きだった。


 この後、大半のモンスターは恵右に脳みそを物理的にかき乱され、モンスターをスレッジハンマーで叩いてつぶしたあかねが『肉が傷む!』と恵右に怒られたことを全国に晒されたことは、しばらく笑い話になったという。

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