第20話 妖獣?

「別に霊力なんてどうでもいいと思うけどね?」


 昼休みの終了と共に訪れた会長室。

 そこそこ豪華な部屋の端にあるソファーで、昼寝中の斗真を叩き起こしたら、返ってきたのはそんな呆れた声であった。


「いや、このままだと母さんに殺されるかもしれないだろう!」

「大丈夫だと思うよ?

 真幸さんはその辺の手加減も上手だし……」


 暢気な父親に訴える航平だったが、斗真の様子は変わらない。

 しかし、


「……まあトラウマにはなるだろうけど」


 と不穏な言葉が続く。


「それが嫌なんだけど!

 母さんの顔を見るたびにビク付く生活とか絶対嫌だ!」

「……だよね。

 知ってた知ってた。

 霊力うんねんはどうでもいいけど、妖獣の類いは先輩に言われて準備してあるから」


 航平の言葉で、八神家の家庭がギスギスすると言う事実に思い至った斗真は、知ったかぶりをしつつ、近くの棚から小さなガラス玉のような物を取り出す。


「これは?」

「ちょっと前に勇者を送った世界の特産品?

 魔獣核モンスターコアって言う魔物のドロップ品。

 その世界での名称は魔物だけど、こっちの世界の妖魔と殆んど同じ性質みたいだから、これを核にした生き物なら妖気を出すんじゃないかな? って思っている」


 つまり、上手く行くか分からないけど、多分大丈夫だろ?

 程度のノリで、新種の生命体を創ろうとしていると言うこと。

 ……真幸と変わらないくらい雑である。


「そんないい加減な……」

「大丈夫だって。

 この会社には妖魔の専門家が一杯いるんだから、いざとなっても対処可能だと思うよ?」


 当然のように苦言を述べる息子に、ヘラヘラと他力本願な発言の斗真。

 こんなのが神をやっている時点で、地球の将来は暗そうである。

 そも、


「それを元に産まれたヤツが、本当に父さん達の言う妖魔と同じとも限らないじゃないか」

「……大丈夫だって」

「その間はなんだよ!

 そんで根拠は!」


 大前提を問い掛ける航平へ、目を逸らしながら歯切れ悪く答える斗真。

 どんな好意的に見ても、後ろ暗さ満載である。


「良いから良いから。

 あ、それっとな!」


 ボンッ!!


 息子の抗議を受け流す斗真の掛け声。

 それと共に、一瞬光ると同時に弾けて煙を撒き散らすガラス玉。

 説得するのが面倒になったから、なし崩し的に済ませようと言う意図の透けて見える対応である。

 当然、


「このバカ親父!」

「気にしなさんな。

 禿げちゃうよ?」


 抗議を上げる航平だが、斗真は取り合う様子もなく、挙げ句に要らぬセリフを吐く始末。

 そんな親子のやり取りを構うこともなく、煙が消えた後に残っていたのは、愛玩用として広く世界に知られているげっ歯類。

 背中の白が星に見える三毛模様の……、


「……見た目はハムスターみたいな感じだねぇ。

 さあ、今日から航平の相棒になる妖獣のハム助君だ。

 仲良くするんだよ!」


 速攻で、息子へハムスターもどきを押し付けるダメ親父に、


「相棒じゃないよ!

 大体、ハム助ってなんだよ!」

「いやぁ、そんな感じの見た目だし?」


 早速ダメ出しをする航平だが、斗真に堪えた様子は見当たらない。


「せめて、種族名は止めてやれよ!」

「じゃあチュー太郎?」


 あからさまに名付けやすそうな個性的な点を無視している斗真。

 そこに嫌な予感を覚えながらも、


「鳴き声!

 良いじゃん、もう星模様背負ってるんだからスターとかで!」


 と、勢いで叫んだが最後。

 ハムスターもどき改め、スターの首から伸びた赤黒い鎖が航平の右手に襲い掛かる!


「イ、イギャァァ!」

「……うん。

 名付けによる契約完了。

 じゃあ後は任せたよ?」


 鎖に襲われた右手の激痛に踞る航平へ、変わらぬ気楽さを抱えたままの斗真の声が降ってくる。

 

 こうして、航平は小型の妖獣。

 スターと言う相棒を得ることになった。

 ……不本意ながら。

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