第19話 霊力とは

「さて、気の滅入る話はこんくらいにして、航平君の悩みに答えよか?

 霊力とはなんぞや?

 って話やな」


 鰻をのんびりと口に運びつつ、話題を変えた門松。

 正直な話で、羽黒家を始めとする霊能力者関係の話は、ここのメンツにはやや縁遠い。

 八神、門松の2家は、霊能力者として働くよりもリンカート社で収入を得ている身だし、雅文自身もリンカート社に勤めるサラリーマンなのだ。


「これはあくまで、わいの推察やがな。

 霊力っちゅうのは、身体の免疫力のようなもんやとわいは考えている。

 妖力っちゅう身体を蝕むエネルギーを中和するために、身体の中で作られるエネルギーやとな。

 やから、アバター越しに幾ら命の危機を体験しても意味がないと思うとる」

「霊力なのに?」

「名前の響きからそう思うのはしゃあない。

 せやけどな、霊力って名前自体が得体のしれない力に無理やり名前をつけただけかもしれんやろ?

 昔から不吉なことを悪霊の祟りとか言うやろ?」


 霊力と言う不思議な力があったのではなく、不思議な力に霊力と言う名前を付けただけだと、門松と言う霊能力者が話す。


「今の所、リンカート社の人間しか納得しとらんがな」

「え?」

「……昔っからな、魂の、特に自我にこそ霊力の根源があると思われとった。

 やから、アシハラの展開と共に爆発的な霊能力者の増加が期待されていたんや。

 少なくとも政府は、それが狙いでリンカート社に多額の助成を行った。

 だけど、アシハラでのプレイが、霊力覚醒の理由と断定できる統計はなし。

 ビックリするぐらいにな」

「……」

「そうなると、昔から言われとる前提が間違っとると思われる。

 ダメ出しが、斗真っちや。

 異世界へ送る人間を強化しとるっちゅうやないか?

 どうやっとるんか聞いたら、強化された魂に見合うような身体を造って、それごと送り出しとるっちゅう。

 強化された魂を異世界の適当な身体に入れるだけじゃ意味がないと言うしな!」


 まったく、もっと早言って欲しかったわ!

 と怒る門松に、


『父さんらしいと言うか、なんと言うか……』


 とやや呆れ気味の航平。

 同時に、


「けど、国は霊能力者に増えて欲しいの?

 人手が余っているんでしょ?」


 と疑問を投げ掛ける。

 業界不況なのにその業界の担い手を増やすのはおかしいと言うのは、アシハラで傭兵ロールプレイを行う友人等から得た情報。

 今時の子だけに、需要と供給に関しての知識が身に付いている。


「そらぁ、霊能力者業界だけみれば、やたら増えても困るわな。

 だが、社会全体でみれば霊能力を扱える人間が増えれば、不快感ちゅうストレスを抱える人間が減る。

 ストレスが減れば、保守的な傾向から能動的な傾向になる人間が増えるんや。

 貯金する人間が、消費する人間になる思って貰ってええ」

「もっと言うなら、弱い霊症を個々で祓ってもらえれば、本職は強力な悪霊や怪異にリソースを集中できるので、過剰戦力での対応が可能だろ?」


 そうなれば個々の被害も減る、と門松に続いて説明する雅文。


「まあ、他にもあれこれと利益があるんやが、それは置いとくで、今重要なんわ、霊力覚醒には肉体を妖気に曝す必要があるっちゅう事実だけや」

「少なくとも最初はね。

 霊能力に目覚めた人間がアシハラにて、鍛えると霊力が上がるのも事実。

 だから、斗真さんの神力に曝されてきた航平君なら、厳しい修練を積めば覚醒するかとも思ったんだけど……」

「神力言うんは、妖力とは別物ちゅうことやな。

 つまり、神通力と神力は別物と言うことでもある」


 航平をモニターすることで情報収集をしていた大人2人。

 その言葉に、


「ちょっと待って!

 僕で実験していたわけ?」


 と反発する航平だが、


「どちらにしろ、真幸さんにしごかれる未来は変わらんかったって。

 あの人は、霊力を根性かなんかと勘違いしとる人やで?」

「それで自在に使いこなしますから、天才過ぎるのも考えものですけどね。

 義姉さんは、どうも産まれながらに霊力の扱いに長けていたとかで、霊力は使えるのが当然みたいに考えているんですよね……」


 門松や雅文には、真幸を止めることはできないと匙を投げられた。

 しかし、


「まあ、昼からは斗真っち配下の妖獣と模擬戦になるように手を回したから、安心しいや。

 真幸さんは別件になるように、調整もしたるしな」


 と助け船も用意してあったらしい。

 少しだけ安心しようとして、


『うん?

 妖獣との模擬戦って、生身なんじゃ……』


 と、戦慄を覚える航平であった……。

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