第2話 父のせい?

「正直、航平は嫌いじゃないわよ?

 けど航平のお父さん、いつも家にいるじゃない?

 やっぱり付き合うなら、そういう家の人は嫌でしょ?」


 高一の夏。

 1学期終業式終了後に、思い出の公園で告げられたのは、幼馴染みからの残酷な別離の言葉であった。





「今日、大事な話があるの……。

 悪いけど、4時に平井公園まで来てくれる?」


 父親の不吉な占いも、少し頬を赤らめた幼馴染みのお誘いの前では簡単に吹き飛ぶものだった。

 高一の夏と言えば、高校生になり行動範囲が広がったばかりの夏。

 そんな夏休みの直前に、気心の知れた幼馴染みからの恥ずかしげな呼び出しである。

 しかも、相手の玲香は贔屓目なしでかわいい。


『夏休みは海にも行きたいし、夏祭りも……。

 玲香の浴衣可愛いだろうな……』


 とか、


『いやいや、やっぱ俺から告白すべきじゃね?』


 等々、内心浮かれっぱなしで終業式とホームルームをこなした航平であった。

 だが……。





 時間通り、未だ灼熱のアスファルトの上を通ってやってきた平井公園の中には、木陰で楽しげに男と話す玲香がいた。

 そして告げられたのが、


「私、こちらの良介さんと付き合うことになったから、もう幼馴染み感とか出さないで。

 彼、私の卒業まではあのリンカートに、勤めてその後は要扇を継ぐの!」


 の一言。

 加えて、告げられたのが冒頭のダメ親父のせいで振られたと言う事実であった。

 挙げ句、


「……」

「すまないね。

 えっと、航平君と言ったかな?

 これは彼女とその家族の総意と言うことでもあるらしい。

 僕は別に、幼馴染みにそこまでしなくても、と言ってみたんだが……」


 唖然と固まっていた航平に、申し訳なさそうに告げてくるのが、まさかの彼氏さんであった。

 せめて、マウント全開で俺様ムーヴでもかましてくれれば、まだ救いがあるのに……。


『こんなの惨めすぎるだろ……』


 と、泣きたくなる航平。

 更に、


「ダメよ!

 婚約者がいるのに他の男性と距離が近いだなんて、みっともないわ!」


 と幼馴染みが追撃してくる。

 代々、和装品を扱う家柄生まれの玲香は、その辺りをきっちりすることを当然としていた。


「うぅん……。

 本当にごめんよ?

 婿入り予定の僕からは、これ以上言えない」

「婿入り……」


 幼馴染みにそこまで進んだ関係を結ぶ相手がいたとも知らなかったと、更にショックを受ける航平だが、


「ああ。

 僕は父と同じ弁護士の道を目指していたんだけど、父の事務所は義兄が継ぐから、経営学を学んで手助けしろって言われていたんだけど。

 僕と実の姉は折り合いが悪くてね……。

 姉の猛反発で、こちらの彼女の家に。

 いや、父を恨んではいないし、玲香ちゃんは可愛いからすごく嬉しいよ?

 けど、君には悪いことをしたかなってね……」


 良介は良介の苦労があるらしいと考えさせられる言葉。

 それで幼馴染みを失うことに納得出来るかは別だが。


「良介さん!

 コイツはただの幼馴染みですよ!

 良介さんが気にやむことなんて……」


 しかし、玲香は今度は良介に文句を言う。

 今時珍しく貞操観念の強い少女にとって、婚約者に疑われかねない要素は看過できないのだ。

 まあ、ただの幼馴染みと強調された方は堪ったものではないが……。


「とにかく!

 今後は、私達にあまり関わらないでね!

 学校で声掛けたりも禁止よ!」

「分かった……」


 次いで強い口調で航平へと捲し立てた玲香に、それ以上の話し合いを難しいと判断した航平は渋く了承を伝える。

 それに満足した玲香は良介の手を引いて、自宅へ誘う。

 もはや、航平に目を向けることすらなく、申し訳なさそうな良介だけが、頻りに航平をみながら公園を出ていくのみだった。


 残された航平も此処にいてもしょうがないと帰路に向かうが、来た時とは反対に重い重い足取りであった。

 こうして、始まったばかりの航平の夏休みは、いきなり暗雲立ち込める幕開けとなったのだった。

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