第6話 打ち合わせ

 黒猫を見送って、しばしの間。


 そうか、カード自体のドロップも多めなのか。食材が溢れるな。


「あ、さっき拾ってきたやつ、何か使える?」

レンが広げて見せてきたのは1層のドロップカードなのだろう、よく見るカードだ。


「薬草とスライムの粘液は薬に使える。鉛は確か初級の弾丸に。他の鉱物も弾丸に使えると思うが、弾丸そっちの方は私の知識不足でまだはっきり答えられん」

私も正直に言う。


「じゃ、鉱物これはしばらく取っとく。生産のお代はどんな感じ?」

「初級の回復薬は生命、体力、気力共に、傷薬と毒消しは、それぞれ週に10本は無料でいい。初級の弾丸は百まで無料だな」

金を支払う気があることに内心驚く、そして適当に数を伝える。


 姿は14、5の少年だが、中身はどうやら良識的なようだ。


「百も使うかな?」

レンが首を傾げる。


 称号と共に与えられた銃ならば、弾がなくても使える。ただ、弾があったほうが、それが初級であっても断然威力が高く、気力の消費も少ない。銃の強化がされていない状態では弾の装填数が少なく、面倒らしいが。


「回復薬と違って使用期限は無い。ダンジョンを進めば一発では倒せない敵も出るだろうし、取っておけ。最初の部屋なら置いておいても消えない」


 ダンジョンは一定時間が経過すると、動きのないものと外の世界のものを飲み込む。以前、ダンジョンの何層だかにギルドが回復薬の類を備蓄しようとして失敗している。


 薬に限らずテントや食料、替装備もなにもかもなくなったそうだ。人の死体も無くなるため、認知されていないダンジョンは、犯罪に使われることも多く物騒だ。


 とはいえ、弾丸百では足らんくらいだと思うが。1層の敵だけで何匹いると試算しているのだろう? いや、銃や弓などの類は近接武器より気力が持っていかれるのだったか。レベル1が本当ならば、銃だけで倒していると気力切れでたいして進めないのかもしれない。


「なるほど」

「それ以外は材料を全部揃えてもらえれば無料、揃わないならその分を私が補填して、補填にかかった金額と手数料としてその5%を貰う。料金は買う前に知らせる。ギルドで手に入らない素材がある場合は諦めるか、自分で調達を頼む。それと失敗で素材を失うこともあるが、責任はとれん」 

困るのは私の時間が無くなること。手に入りづらい素材を探せとか言われると具合が悪い。


「なんか大盤振る舞いな気がするけど?」

ちょっと不思議そうにこちらを見てくる。


 こっちはもっと色々タダ働きしろと言われる覚悟をしていた。プライベートダンジョンはそれだけ魅力がある。


「私もダンジョンを貰ったしな。弾丸はこれから学ぶが、能力的に中級クラスまでは失敗はない。装備系も簡単な修繕程度は任せてもらって大丈夫だ。薬系は安心していい」

薬ばかり作っていたせいで、薬に関しては【正確】の精度が上がっている。【正確】は成功を経験するほど精度があがるのだ。


「頼りにしてる」

「レベルが上がればまた状況が変わるだろう。その時はまた条件の相談を。町のダンジョンで必要な物や相場の情報を集めるなりした方がいい」


「ありがとうございます」

黙って聞いていたユキが頭を下げてくる。


 とりあえずは協力者として合格らしい。他に何点かやりとりのことを決めて、当面は良しとする。


「弾丸は少し時間をもらうが、回復薬は明日にでも道具を揃えて2、3日中には箱に入れておく。早ければ明日の晩に」

【収納】に入っているが、とりあえずこちらの能力は言わずにおく。


「早ッ!」

レンは表情豊かだな。


「これが本職なんでな」

「おお?」

いや、だから黒猫に選ばれたんだろうに。


「えーと、冒険者カードは見せる?」

レンが首を傾げて見てくる。


「……一応、交換するか」


 箱でのやり取りができるのは分かったが、毎日箱を開けて覗くのは面倒だ。フリーのメールアドレスを教え、捨てアドで構わんからメールで連絡を入れるよう伝えた。なので必要はないのだが、おそらくどうせ市のダンジョンで会う。


 私はこの姿でうろついているわけだし、この2人が見つけるのは容易だろう。さすがにダンジョン内でギルド職員以外のスーツは目立つ。


 対して、イレイサーはこの厨二病的姿の他に本来の『化身』を持つはずで、私が市のダンジョンですれ違っても気づけない。――黒猫の話からすると、近所に引っ越して来た2人を探せば生身は分かりそうだが。黒猫がイレイサーに私のことをどう説明したか気になるところだ。


 冒険者カードと呼ばれるこのカードは、煙水晶のような半透明のプレート。『変転具』とセットで他人は触れない。『化身』を失くし、『変転具』が消えてもダンジョン内に残り、『変転具』が消えて初めて他人が触れるようになる。


 要するにダンジョン内で亡くなったら、最低カードは回収される可能性はある。ただこれも外には持ち出すことができない。


 カードにあるのは、自分でつけたダンジョンでの名前、レベル、ダンジョンに入ってからの時間――これは外に出るたびリセットされる、そして2行ほどのメッセージ欄。このメッセージ欄は冒険者カード同士を触れさせた者同士でやりとりができる。長文には向かないが。


 やはりレベルが低い、まさか生身は12歳の子供なのだろうか? 登録名はレンとユキ、そのままだ。しかも私に見えるように差し出してくる。用心しているようで、対策ががばがばなんだが……。


「大きなお世話かもしれんが、冒険者カードのレベル表示は消しておいたほうがいいのでは? あと、ダンジョンは秘匿希望で登録した方がいい。ドロップ品を売らないならともかく、登録外のダンジョンのカードが、ギルドか政府の目に留まると詳細に調べられるぞ」


 思わずいらんアドバイスをしてしまう。少し気をつけるべきことを話し、市のダンジョンで会ってもお互い・・・知らないフリをすると念押しも。


「ありがとう」

「ありがとうございます」

「こちらこそ」

礼を言って解散。


 ところで、私は黒猫の言っていた国側の協力者っぽいことをやっていた人間なのだが、いいのかね? まあ、今は関わりはないし、いいか。


 もしかしたらそれも含めて、選んだのが私なのかもしれんし。

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