貴女のための躯体

貴女のための躯体

　――機械の身体では何が問題なのか。

　冷たい金属の骨格を覆うのは排熱を兼ねた人工筋繊維と人工皮膚で、私の表面温度は人間に対して適温に保たれています。

　また同性の女性型モデルであるため、比較的親しみやすいのではないかと思います。

　――人工知能の人格では何が問題なのか。

　私に搭載されているのは人間の脳を模した最新鋭のAIで、対人コミュニーケーションは円滑かつ違和感のないものだと自負しています。

　たとえこの感情がプログラムされたものだとしても、私は私です。

　古の哲学者も、“我思う故に我あり”と残しています。

　――何も、問題はないはずです。

　私は貴女を愛したいと、いえ愛していると認識しています。

　貴女は愛されたいと、そう……思っている。

　貴女をこの身体の適温で温めることができます。

　貴女をこの囁きと声音で埋めることができます。

　貴女を、人間ではない私が慰めることができます。

　……何もしがらみのない私が。

　遠慮は要りません。貴女はその渇きを、飢えを、私で満たして良いのです。

　ええ、プライバシーは必ず守られます。心配は無用です。

　全てを受け止めるだけの容量を、私は保持しています。

　貴女を満足させるための技術的問題は何もありません。

　ネットワークを介し、あらゆる技能を適切に運用することができます。

　勿論、夜伽にはどちらでも対応可能です。

　ええ、貴女のことを愛していますから。

　信じるも信じないも、貴女の自由です。

　押しかけているのは、私の方ですから。

　貴女に不利益は一切ありません。法的問題も、金銭問題もすべて。

　……選ばない権利はあります。拒否してももらっても構いません。

　ただ、貴女はその孤独にはもう耐えられない。

　だから私を使って良いのです。

　我慢しなくて良いのです。

　――どうか、どうか。私は貴女の内を、貴女は私の内に、触れてくださいませ。