天国まで、あと少し

ゆーすでん

天国まで、あと少し

 おれは、今修行中だ。

 何の修行だって? 

 人間になる修行だよ。

 俺は、少し前まで犬だった。

 犬として生きて、色々あって死んだ。

 大好きな人達が、泣いているのを見ながら死んだ。俺を、見て泣いていた。

 そうして、俺はここにきて。

 こう言われた。


「人間になる準備をしましょう。」


 いや、その前にあなた誰ですか?

 そう聞いたら、『神です』と言われた。

 は? 誰?

 聞き返したら、悲しそうに体育座した。

 そのまま、地面をいじいじといじっている。

 正直、面倒くさい。

 こいつ、なんなんだ?

 思っていてもしょうがない。

 これは、人間になれる修行らしいから。


「あの、神様すみません。

 僕を人間にしてくれるんですか?」


 人間になれば、言葉を話せる。

 多分、抱きしめられる。

 大好きな人を、泣かせない。


 でも、神様はすんとして言った。


「人間になっても、誰かが泣くんだ。

 君の大好きな人が泣かなくても、誰かが代わりに泣いているんだよ。

 お前さんは、それが理解できるかい?

 人間は、誰かが幸せと思うと同時に、誰かが不幸だと思うんだよ。」

 そんな事、言われたって。

 そんな時、大好きなあの人の声が聞こえてくる。


「大好きだよ。あんたが居るから頑張れる。

 さあ、お金稼いで一緒に美味しいもの食べようね。

 だから、もう少しだけ一緒に居て。」


 その後、つんざくような叫び声が聞こえてくる。


「ごめん、ごめんね。痛い思いさせて。

 恨んでいいよ。私の我儘に付き合せて。

 ごめんね。最後は、無理矢理。

 自分のタイミングで飲みたいし食べたいね。

 でも、今は我慢してね。」


 大好きな人が、泣いてる。

 僕が、人間だったら。

 そのタイミングで言われた。


「君、人間採用決定。」


 はあ? って言ったけど、あの人に会いたい。

 会えるなら、何でもしてやる。

 無理矢理じゃない、ありがとう。

 俺は、人間になる。

 でも、人間になっても会えない。

 そりゃそうだよな。

 人間になる前に、死んじゃった。

 

 首にロープを巻き付けて。


 会いたい人は、今地獄に居る。

 でも、僕が救い出す。

 ねえ? 何で俺が、人間に成りたいって思ったと思う?

 あなたみたいになりたいんだよ。


 隣で、いじけた神様が言う。

「人間に成りたい?」

 

 もちろん答える、


「そのために、ここにいる。

 俺は、あの人を救うために立派になる。」


 いつか、地獄に行く。

 人として認められるまで、いつになるか分からないけど。

 あの人に会いに行く。

 俺から、会いに行く。

 あの人は、待ってる。

 絶対に、会いに行く。


「わかった。君を人間にする。」


 神様が、笑っている。

 俺は、これから人間になる。

 地獄まで、あと少し。

 あの人に会うまで、あと少し。

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