第43話 次のお仕事

「わたしの家にくる?」


 ラミルさんは申し訳なさそうにそう聞いてくる。


「それは……」


 私が振り返ると、3人とも頷いている。


「あたしはいいと思うよ?」

「アタシも賛成、ラミルさんはとってもいい人そうだ」

「わたしもいいと思うのです」

「分かりました。では、よろしくお願いします」

「いいよいいよ。それじゃあ行こうか」

「はい」


 私達は5人で農園に来た道を戻る。

 村長の家から来た道と全く一緒で、ラミルさんの家は村長の家と近いのだろうか。


「ここがわたしの家だよ」

「ここって……村長の家なのでは?」

「あれ? わたし言ってなかったっけ? 私のおじい様が村長よ」

「あーそういう……」


 私達が家の中に入ると、そのままリビングに案内される。

 リビングはかなり広く、10人は楽に座れそうなほどに大きなテーブルが置かれていた。


「さ、適当に座ってて、今から料理を作るから」

「手伝います」

「わ、わたしも手伝うのです!」

「本当? ありがとう。じゃあお願いしようかな」


 ラミルさんが夕食を作り、私とネムちゃんがそれを手伝うことになった。


 ただ、一つ分からないことがある。


「そういえば昼に来た時メイドさんがいましたが、その方が作られたりはしないんですか?」

「ああ……あの子はここでの仕事よりも村の仕事を手伝ってもらってるの。こんな忙しい時はそうしないと回らないからね」

「なるほど」


 それからは私達で食事を作り始める。

 食材はこの村で獲れたもので、ラミルさんの手際はかなり良かった。


「ふぅ……そろそろ飯を......って、どうしておるんだ? お主ら」


 そう言ってリビングに入って来たのは村長さんだった。


 ラミルさんが答えてくれた。


「この子達が宿が取れないだろうから連れて来ちゃった。いいでしょ?」

「まぁ……かまわんが、広いの方の客間は使うんじゃないぞ」

「どうして? せっかくなら広い方がいいじゃない。今日はとっても助かったんだし」

「数日中に《女神の吐息アルテミス・ブレス》が来ると言っただろう。今はその準備もある。だがまぁ……他の部屋なら構わんだろう」

「ということなんだけど……いい?」


 ラミルさんが申し訳なさそうに聞いてくるけれど、私達としては問題はない。


「大丈夫ですよ」

「ありがとう。それじゃあ一緒に食べようか!」

「はい!」


 料理はほとんど完成し、長いテーブルの上にはこれでもかと言うほどの食事が並んでいる。


 村長さんはそれを見て驚く。


「というか……これだけの量は食べきれるのか? 王都の祭りでもなければこんなに出んぞ……知らん料理もあるし……王都の祭りの前夜祭か?」


 私は目の前の料理を食べながら村長さんに聞く。


「王都の祭りはそんなにもすごいものなんですか?」

「当然だ。この国の威信いしんをかけてやっている祭りだからな。東西南北は当然として、他の国からも様々な物や料理が集まるんだ。ワシも何度か行っておるが、毎回新しい発見と世界の広さを楽しんでおる。この歳になってもそう思うのだから、お主達が行っても楽しめると思うぞ?」

「そうなんですね……とても楽しみです」

「ああ、村の中におる連中も大抵が王都に祭りに必要な物を届けようとしているからの」


 そう言って村長は料理を食べ始める。


「そうなんだ……なら。早い所ヒュドラを倒してもらわないといけませんね」

「そうじゃな。ワシとしては早く行ってもらって仕事から解放されたいわ……」

「お忙しそうですもんね」

「全くじゃ、そもそも……」


 村長さんがなにか言おうとした所で、ラミルさんが止める。


「はいはい。おじいちゃんはいいからご飯を食べて、それで、この村の野菜はどう?」


 ラミルさんがとても興味津々で私達を見てくる。


 私は率直に思った事を話す。


「とっても美味しいです。今までの町で食べた物より大きくて、味がしっかりしてていくらでも食べられそうです」

「そう言ってくれると作っているかいがあるってもんだ。ありがとう。でも、ここまで美味しくできるのはサフィニアちゃんの腕がいいからだよ」


 彼女がそう言うと、クルミさんとミカヅキさんが更に続ける。


「サフィニアはあたしの専属メイドみたいなもんだからね」

「何を言っているの。サフィニアはアタシの嫁に来ることになってるんだから」

「私は誰も物でもありませんよー。でも、ネムちゃんは私のですけど」

「わたしなのです⁉」


 ネムちゃんはぼんやりと食べていたけれど、私の言葉に跳び上がって驚いていた。


 そんな事を話したりして、楽しい夕飯は食べ終わった。


 4人で丁度いいくらいの一部屋を案内され、私達は寝る準備をする。

 

 次の日も朝からあるということで、私達は眠りにつく。


******


 翌日。

 私達はネムちゃんをのぞく3人で、村長の家の前にいた。


「ネムちゃん大丈夫かな」


 ネムちゃんは疲れがあるということで、準備が遅れていた。

 先に行ってと言われたけれど、私達は家の前で待つことにする。


「まぁ……あれだけの水を運んだりするのは大変だからね……休んでくれても全然問題ないんだけど……」


 そう言うのはラミルさん。

 私達が待つと言ったら、彼女も待つと言ってくれたのだ。


「おーい! ラミルさん。ちょっといいかね?」


 そう言って声をかけてくるのは、両手が足のように太いおじさんだった。


「あれ? 棟梁とうりょう、どうしたの?」


 ラミルさんは気さくに話しかける。


「それがな、北の柵の修理に人手が足りなくてな……誰か手の器用な奴はいないか?」


 彼がそう言うので、私とクルミさんの視線は自然とミカヅキさんに行く。


 ミカヅキさんは髪をかき上げるようなポーズを取っていた。

 なぜ。


 それから彼女は当然と言ったように口を開く。


「当然アタシだろうね。それで、柵の修理をしたらいいんだね? 任せたまえよ!」

「お、おう。じゃあ……頼むぜ。後は資材を運ぶのも1人ほしいんだが……」


 今度は視線が私に集まる。


「私が行ってもいいですけど、農園の方は問題ないですか?」


 私が聞くと、ラミルさんは笑顔で言ってくれる。


「うん。行ってくれると助かる。実は昨日入れてくれたのが残っていてね。こっちには余裕があるんだ」

「そうなんですね。それなら、ネムちゃんには休んでもらってもいいですか?」

「ネムちゃん?」

「はい。昨日結構疲れているようだったので、休んでいてもらった方がいいのかなと」

「そうだね」

「ではちょっと中にいって話してきますね」


 私はみんなにそう言って、ネムちゃんがいる部屋に向かう。


 部屋の中では、ネムちゃんが出てくる所だった。


「ネムちゃん」

「サフィニアさん? どうしたのです?」

「ネムちゃんが疲れているみたいだったから、今日は休んでてもいいよって言おうと思って」

「……」

「ネムちゃん?」


 私がそう言うと、彼女はくちびるをかみしめていた。


「……いえ。なんでもないのです。でも、わたしは大丈夫なのです! さ、行くのですよ!」

「本当ですか?」

「……当然なのです! 今日こそはわたしが活躍してみせるのですよ!」


 ネムちゃんはそう言って、私の横を通り抜けていく。


「大丈夫ならいいんですけど……」

「問題ないのです!」


 ネムちゃんがそこまで言うのであればいいかもしれない。

 そう思って、私達は3人で棟梁さんの指示を聞いて、北の農園を修理していく。


 北の農園も南とほとんど一緒だけれど、2つだけ違いがある。

 北の端っこ、そこにたくさんの木材が置かれていること。

 もう一つは北の方が魔物が多いらしく、柵が頑丈がんじょうで高いことくらいだ。


 そしてやることはミカヅキさん以外は簡単だ。

 私が北の資材置き場に木材を取りに行き、それを必要としている人の所に届ける。


 そして、ミカヅキさんや修理担当の人が修理をするのだ。


 私はただの力仕事ということで、昨日のタルを運ぶことと対して変わらない。

 ただ、運ぶ途中で結構戦闘音が聞こえてくる。


 ガギィン!


「そっち行ったぞ!」

「通すな! 農園を守れ!」


 そんな声が聞こえてくるけれど、私は外の冒険者に任せてとにかく資材を運ぶ。


「はい! お待ち!」

「おおう⁉ 頼んでまだ3分しか経ってねぇぞ⁉」

「間違ってました?」

「いや……早すぎ驚いちまっただけだ。ありがとよ!」

「どういたしまして」


 他の人の所では、


「あん? これ他の奴のか?」

「どうしてだ?」

「いや、頼んでからまだ1分とか経ってねぇ気がするんだが……」

「ああ、すげー速い子がいんだよ」

「まじでか……頼りになるぜ」

「全くだ」


 という感じの事を言っている人がいた。


 私はあんまり気にせずにとりあえず色んな場所に運んでいく。


 ミカヅキさんもかなりしっかりとやっているようで、周囲の人に褒められていた。


「なかなかいい腕してるな」

「本職は鍛冶師なんだけどね」

「まじか、冒険者達の剣もやってやったらどうだ?」

「あっはっは。アタシは包丁専門だからね。それはできないのさ!」

「特殊な奴だな」

「まぁね!」


 という感じでやっていた。


 それから私が資材を運んでいると、すぐ近くで悲鳴が聞こえる。


「いかん! 破られた!」

「⁉」


 バギン!


 私が音のする方を見ると、柵が壊されて農園に入ってくるファングボアがいた。


「ブヒィイイイイイ!」


 私は持っている資材を振りかぶり叩きつけて倒そうとする。


「⁉」


 でも、それはできないことに気付いた。

 周囲には修理の人や魔法使い等かなりの人がいるのだ。


 私は戦ってはいけない。

 そして、見逃すこともできない。

 どうしたら……。

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