第24話 情報収集と言えば

 高らかに提案してくるネムちゃんに私は聞く。


「どのような秘策なんですか?」

「よくぞ聞いてくれたのです! それも、酒場で臨時の仕事を受ければいいのです!」

「酒場で……ですか?」


 私がどうして酒場か分からずにと首を傾げて聞くと、彼女は待ってましたとばかりに話す。


「そうなのです! 酒場でのお仕事なら危険はありません。しかも、情報集めと言ったら酒場ではないのです?」

「そう……かもしれません」


 確かに、家にあった本にも昔の勇者などはそうやって情報を集めた。

 という話は読んだ気がする。


 ネムちゃんは続けた。


「しかもですよ! 酒場ということはまかないも出るのです! 仕事だけの金額では足りないとしても、そこでまかないを食べることができればサフィニアさんのお腹も満腹! クレハさんの行方も探せる! お金も溜まると最高なのです!」


 ババン!


 と、彼女の背中から擬音が見えそうなほど、自信満々に言っていた。


 私は彼女の考えに感激して頷く。


「なるほど、確かにそれはいいですね!」

「そうなのです! では早速ギルドに……」


 そこまで言った所で、ミカヅキさんが口を開く。


「と、悪いけど、アタシは宿に戻っていてもいいかい?」

「ミカヅキさん?」

「徹夜でこのまま仕事に行ったらやらかしそうだからね。アタシは……夜からなら合流できるかな」


 彼女がそう言うと、私も少し眠たさを感じる。

 それに気づいたのか、クルミさんが提案をしてくる。


「それなら、あたしとネムちゃんでギルドに行っておくよ。忙しくなるのもきっと夜の時だろうし、それまではサフィニアとミカヅキちゃんは宿で寝てたらいいじゃない?」

「いいんですか?」

「もちろん、昨日はあたし達は寝ちゃったからね。ネムちゃんもいい?」


 クルミさんが聞くと、ネムちゃんがちょっと残念そうに言う。


「まぁ……お二人はお疲れでしょうし、それでも問題ないのです。わたしの活躍は夜までとっておくのです」

「よーし! そうと決まったら行くよ! ネムちゃん!」

「わわ! クルミさん! そんなに引っ張らなくても!」


 クルミさんはネムちゃんを連れてそう町中を歩いていく。


「それじゃあ、アタシ達も行こうか」

「はい」


 マレーさんが教えてくれた宿に向かい、部屋をとった。

 後はできるだけ早く寝るための準備をして、ベッドに入って寝るだけだ。


 朝まで起きていたことなんてほとんどないので、意外とベッドに入るとどっと体に疲れがのしかかってくる。


「流石に……疲れましたね」

「だねぇ……でも、ありがとうね。サフィニア」

「何がですか?」

「わざわざ起きていてくれて……さ。やっぱり、頑張った後に待っていてくれる人がいるのは嬉しいんだ」

「そう……ですか……」


 私は返事をしながらも眠たさで思考が回らず意識が飛んでいく。


「ああ、そうだよ。お休み。サフィニア」

「はい……」


 私はそれから眠りについた。


******


「起きて! サフィニア! 君の力が必要なんだ!」

「そうなのです! 大至急来てほしいのです!」

「う……うぅ……ん。なんですか……?」


 私は眠たい目をこすって目を開けると、慌てた表情のクルミさんとネムちゃんがいた。


「起きて! そして手伝って!」

「そうなのです! 一刻いっこくも早く来てほしいのです!」


 2人はそう言って私の手を引っ張った。


「な、何があったんですか!?」


 私は驚いて目を覚ますと、2人から説明を聞く。

 そして、彼女達に連れられて、眠たそうにぼんやりしているミカヅキさんと一緒に宿を出た。




「ここが……仕事の場所なんですか?」


 私達が来たのは、結構大きめの食堂で名前は『笑酒亭』と書いてあった。

 1階部分は30人以上が座れるようにテーブルとイスが揃っていて、話を聞くと2階にも15人ほど座れる場所があるらしい。


 私の言葉に、クルミさんが返す。


「そうなの、さっき依頼を受けてここでの手伝いをするっていう話になったんだけれど、今日は特別メニューを出す日らしくて、人手が足りないんだって。しかも、体調不良の人も多いらしくて、それで手伝ってほしいんだ」

「いいんですけど……。まだ3時ですよね?」


 私はこの街の中央にある時計を見て聞く。


 それに答えてくれるのはネムちゃんだ。


「それなのですが、今夜は結構忙しくなるらしく、そのための下準備をできるだけやっておかないと……ということになったのです。気持ちよさそうに寝ている所起こしてしまって申し訳ないのです」

「構いませんよ。それで、何をしたらいいのでしょう?」


 そこまで言うのであれば、手伝うのを断る理由はない。

 クルミさんとネムちゃんが手伝ってほしいというのであれば、私は力になりたい。


「ありがとうなのです!」

「アタシも問題ないよ」


 こうして、叩き起こされた私達も仕事をすることになった。


「アンタ達が新しい子かい!? 今夜は忙しいからね! 頼んだよ!」


 そう常に大声で話してくるのは、この『笑酒亭』のおかみさんだ。

 恰幅かっぷくが良く、短めの茶髪を頭巾ずきんおおっている。


「はい。よろしくお願いします」

「よろしくね」

「ああ! こっちこそ頼むよ! それで! アンタ達にやってほしいことは聞いての通り下準備さ!」

「下準備ですか?」

「そうさ! 今日はウチの記念日でね! 特別なメニューを出すのさ! そのための下準備が大変で本当に人手がいるんだ! だけど、元々予定してた子達が急病で来れなくなっちまってね! 助かるよ!」

「なるほど、どこまでできるか分かりませんが、頑張ってやりますね」


 おかみさんはセリフの後全てに! マークがつくほどに大声で話す。


 それから、私達は別れて仕事をすることになった。

 ネムちゃんとクルミさんは接客、私とミカヅキさんは下準備という風に別れることになった。


「ミカヅキさんもこっちなんですか?」


 私は思わず聞いてしまう。

 彼女は話すのが得意で、接客でもいいように感じたけれど……。


「それはそうさ。アタシが接客をしてしまったら、お客は全員がアタシだけを目で追いかけることになるだろうからね」

「なるほど」

「そこは……突っ込んでくれてもいいんだよ?」

「え? 包丁をですか?」

「死ぬねぇ! 流石にそれは死ぬよ。いくらアタシだってそんなことは求めないって」

「そうなんですか」


 今手元に突っ込むものが包丁くらいしかなかったから間違えてしまった。


 そんなことを話していると、女将さんが少し不安そうな顔をして現れる。


「どうかしたんですか?」

「それがねぇ。ちょっと……会計の子が体調が悪そうで、体に良い物を飲ませてくるから、下準備は問題ないかい?」


 先ほど実演付きで教えてもらった。

 だから、1人でも問題ない。


「大丈夫です」

「助かる。2人とも、頼んだよ!」

「はい」

「任せておくれよ」


 女将さんは頷いて料理を始める。


 それから、私達は今回の材料であるナス、ピーマン、ニンジンなどなど他にも多くの野菜をこれでもかと切っていく。


 その速度は包丁が新しいからか、かなりの速度で切れている気がする。


 いつの間にか調理を終えていた女将さんが、私が切った野菜を確認して話す。


「アンタ……速いね!」

「そうでしょうか? それもこれもミカヅキさんが包丁を修理してくれたお陰です」

「そうなんだ! アタシも頼んだ方がいいかしらね!」


 ミカヅキさんは苦笑いをしながら答える。


「ここの道具はとってもきれいにされているよ。アタシがやっても大差ない」

「そうなんですか?」

「ああ、元々の道具がいいのと……サフィニアの身体能力が高いからね。普通はそんな速度で包丁を動かしていたらすぐに腕をつってしまうよ」

「そうでしょうか」


 私は結構力を抜いて包丁を動かしていたつもりだけれど、それよりも早くできている気がした。


 そんな私を見て、女将さんも。


「これなら1人でいいかもしれないねぇ……」


 という様なことを言っていた気がする。

 切るのに集中していたので、そこまで真剣には聞いていなかったけど。


 客席の方に目を向けると、クルミさんやネムちゃんは掃除をしていた。

 それからしばらく経つと、お客さんが入ってくる。


「やってるかい⁉」


 それに答えるのは女将さん。


「おう! やってるよ!」

「今日は特別なメニューがあるんだってね⁉」

「そうだよ! それでいいかい⁉」

「もちろんだ!」

「はいよ! 特別一丁!」


 女将さんはそう言って、叫ぶと、私が切った食材を白い粉に豪快ごうかいにいれ、それから黄色い液体の中に放り込む。

 それから、野菜をパン粉をつけて、温められた油の中に放り込んでいく。


「そんな料理が……」


 私は下準備の野菜を切りながら、女将さんの手から目が離せなかった。

 それから女将さんはじっと油の中を見つめ、今だと判断したのかこんがりキツネ色になった野菜を上げていく。

 それらを更に盛り付け、待機しているネムちゃんの前に置く。


「あいよ! 特別メニューの天ぷらのお待ちだ!」

「はいなのです!」


 ネムちゃんはそれを持ってお客さんのところに運ぶ。


「おいおい……なんだこの黄金色に輝く料理はよぉ……」

「天ぷらなのです! 塩をかけて食べてくださいなのです!」

「お、おう……」


 お客さんはじっと疑いながらも、塩を一振りして天ぷらを食べる。


「うっんまぁ! なんだこのサクサクは! あり得ねぇ! 女将さん! 俺の嫁に来ねぇか!」

「何言ってんだい! アンタもう嫁がいるだろうが!」

「いや! こんな飯なら毎日食いてぇ!」

「じゃあ毎日来ておくれ!」


 天ぷらという料理が気になって仕方ない。

 でも、今私は下準備もしなければならず、それを放置することもできない。

 どういいんだろうか……。


 女将さん達の会話を聞いたりして最初は楽しそうにしていたのだけれど、それから時間がすすむに連れてかなりの数が入ってくる。

 それも、2階席も埋まっているらしく、ネムちゃんとクルミさんが目を回しながらやっていた。


「えーっとこっちの品物は500ゴルドであっちが800ゴルドで他にも……全部で1900ゴルドなのです!」

「えーと、こっちの天ぷらがお客さんで、こっちのシチューは? 熱いから気を付けてねー」


 私は厨房から下準備をしながら食堂の中の様子を見ていた。


「これなら大丈夫……かな」


 客席は満席でも何とか回していけていた。

 だから、なんとかこの調子ならいける。

 そう思っていた時間は長くは続かなかった。


 ドサ。


 という音が聞こえて、そちらの方を見ると、会計を担当している人が倒れていたのだ。

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