第11話 もらったものは

本日、以前投稿していた『不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる』の2巻が発売されます。

近況方向の方に載せておくので、良ければ一度ご覧ください。


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「君たちにはこれをあげるよ!」


 ツバキさんがそう言って出してくれたのは、額縁がくぶちに入った小さめの絵だった。

 絵はツバキさんを少し大人にした女性が描かれていて、吸い込まれそうな魅力があった。


「これは?」

「私は画家だよ? 絵以外の何があるっていうのさ。あ、売っても全然いいんだけど、できれば王都とかのある程度規模のある商会で見てもらうのがいいと思うよ。上手く運べないならこの町の商会でもいいけどね。好きにしていいよ!」

「いいんですか? お仕事でやっているものなのに……」

「いいのいいの! それ、練習用に書いた物だし、まぁ、それでも多少は値段がついてくれるんじゃないのか。と、それはいいんだよ。折角だからこの綺麗になった部屋でご飯にしない?」

「ご飯……」


 ツバキさんにそう言われた瞬間、朝から何も食べていないことを体が思い出す。

 それによってお腹が鳴る。


 グゥゥゥ。


 それを聞いたクルミさんとネムちゃんも食べたいと言ってくれた。


「お世話になろっか」

「調味料を出したり、わたし達が調理したらいいと思うのです」


 ツバキさんも2人にうんうんと頷く。


「2人も言ってるし、食べて行ってくれると嬉しいな」

「ありがとうございます……でも、食料が……」

「それなら地下にあるから取ってくるよ」

「手伝います」

「ありがとう」


 私達は彼女について行き、地下の食料庫から食材を持ってきて調理を始める。


「よっし……まずは……」


 地下にあった大きなチーズを丸ごと持ってきて、上の方を切り落とす。

 食材は自由に使っていいと言われているので、折角なら本を読んでやってみたかったことをやりたい。


 次は他に地下から持って来た食材を切り始める。

 野菜、干し肉、パン、日持ちのするものがあったのでそれを一口サイズに切っていくのだ。


 調理中にツバキさんが私の手元を見て言ってくる。


「サフィニアちゃん」

「なんでしょうか?」

「その包丁……だいぶ年季ねんき入ってない? 手入れとかしてる?」

「これですか? 確かに長いこと使ってますけど……道具の手入れの仕方は師匠が教えてくれなかったので……」


 魔法のコーティングが施されてるから何もしなくても多分大丈夫。

 師匠はそう言っていた気がするけど……。


「でも、その包丁に掛かってる魔法、取れかけているよ」

「そうなんですか?」

「うん。あたしも道具の取り扱いにはそれなりに自信があるからね。後、運のいいことに、丁度この町にいい腕の鍛冶師が来てるんだよね。明日にでも行ってみるといいよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「気にしないで、食べれるようになったら教えてほしいな」

「はい!」


 腕のいい鍛冶師とはどんな人だろうかと思ったけれど、今は目の前の料理に集中しなければ。

 道具の手入れも大事だけれど、目の前の料理を楽しみにしてくれている人達の方が今は大事だ。


 それから食料を切り分けてリビングのテーブルに持っていく。


「クルミさん。ちょっと魔法を使ってもらってもいいですか?」

「いいよ。何を使えばいいの?」

「チーズの上に炎の魔法を使って上から温めて溶かしてほしいんです」

「溶かす? 上から? いいけど……行くよ?」

「はい」

「『火魔法:輝く松明ファイアトーチ』」


 小さな炎だけれど、それをチーズに近付けて行くと徐々に溶けていくのが分かる。


 私はタイミングを見計らって、ネムちゃんとツバキさんを呼ぶ。


「よし、これでいいですね。2人ともできましたよ!」

「これは……?」


 頭に? を浮かべているツバキさんに私が実践じっせんして説明する。


「まずはこのフォークで周囲にある食べ物に刺します。そして、これをこの溶けているチーズにからめて……食べます!」


 私はパンの欠片にチーズをたっぷりとつけ、それを一口で食べる。

 口の中にはチーズの香りが広がり、口を満たす。

 パンも一緒に食べたことによってボリュームが増し、より多くチーズを他の食材で邪魔することなく食べられる。

 ガツンと行きたくなったら干し肉等で食べ、さっぱりしたくなったら野菜で絡める。

 永遠に食べられるのではないかと錯覚さっかくするほどに美味しい。


「あたし達も食べないと!」

「なのです!」

「こんな美味しそうな姿見せられるとか聞いてない! 絵に残したい!」

「なくなっちゃうのです!」

「ああもう! 後でいいや!」


 それから私達4人はチーズに材料をつけて食べていく。


 途中からは談笑だんしょうをする暇もできて、とても楽しい夕食になった。


******


 翌日、私達はツバキさんに言われた通り包丁の修理をするべく鍛冶師を探していた。


「でも、本当に私の包丁を修理する為に行ってもいいんですか?」


 私の道具のために2人にもついてきてもらうのは少し気が引ける。

 それに、師匠を探すという事がまだできていない。


 2人は笑顔で首を振った。


「あたし達だって君の包丁には助けられているんだから。これくらいなんてことないよ」

「なのです。それに、包丁は預けるだけでしょうから、そのままギルドにも行けばいいのですよ」

「そっか、それもそうだね」


 2人の言葉に納得して、私達はツバキさんに教えられた所に向かう。

 その途中、絵画を販売しているという商会を見かけた。


 ネムちゃんがそれを見て、口を開く。


「あの……少しだけ……ここに寄ってもいいのです?」

「いいけど……あ、そういうこと?」

「はい。ツバキさんの絵がいくらくらいなのかなーと思ったのです」


 それを聞く意味も込めて、私達は商会に入る。

 こういうお金に関することはネムちゃんが前に出てくれた。

 商会の中は絵画がところせましと置かれていて、入るとおくから店主がひょっこりと顔を出す。


「なんのご用でしょうか?」

「あの……少し聞きたいことがあるのです」

「はい?」

「ツバキさんという画家の絵などは置かれていたりしないのです?」

「ツバキさんの絵ですって⁉」

「⁉」


 ツバキさんの名を出した途端とたん、店主は目を見開いて寄ってくる。


 私は離れているけれど、詰め寄られているネムちゃんは大丈夫だろうか。


「あ、あの、お値段がいくらくらいするのか……という事が聞きたいだけなのです」

「なるほどなるほど。我が商会にも1枚だけ彼女が描いてくださった絵画があるのですよ。普通は言えないのですがね。彼女の描いた絵は流通しているものなら100万ゴルドは下らないのですよ」

「ひゃ、100万ゴルドなのです⁉」


 ネムちゃんが驚いているのを、私は心配しながら見つめる。

 でも、100万ゴルドってどれくらいだろう。

 という思いの方が強いかもしれない。


 それを見ていたのか、クルミさんが私にゴルド価値を教えてくれた。


「サフィニア。お金……ゴルドの価値ってそう言えば詳しく言ってなかったよね?」

「そうですね。いつもクルミさんに任せてしまっていましたし」


 彼女いわく、500ゴルド出せば普通の食事1回分、1000ゴルドあれば結構いい食事が食べられる。

 2000ゴルドくらいで宿に1泊することができて、1万ゴルドあれば格安のポーションが買える。

 家族4人の一般家庭では30万ゴルドあれば1か月普通に暮らせるということらしい。


「それが……あの絵1枚で100万ゴルド……」

「そうだよ。ポーション何本買えるんだろう? どうする? ちょっと見せてみる?」

「流石にそれは……」


 売っていいと言われたけれど、流石にそんな……。


 そう思っていたら、色々と売られようとしていたネムちゃんがそれらを断って戻ってくる。

 流石ネムちゃん、サイフのひもは固く、交渉事には強いらしい。

 とても頼りになる。


「あ、ありがとうございますなのです。また今度詳しいお話を聞かせて欲しいのです!」

「そうですか、残念です。またのご来店をお待ちしております」


 商会から出るとかなり疲れた感じがした。


「す、すごかったのです。危うくこれから成長する画家の絵を50万ゴルドで売られそうになったのです」

「さ、流石ネムちゃん」

「こういうところは任せて欲しいのです。でも、ツバキさんの絵がそんな高額に……」


 ネムちゃんの目がお金になっていた。


「う、売りますか?」


 あんまりやりたいくないけれど、2人が売るかという選択肢になっているなら……と思ってそう口にする。


「ち、違うのです。わたしも持っておくことに賛成なのです。それに、売られているのは本当に絵画と呼ばれるものだと思うのです。貰ったものは素敵ですが、あくまで練習と言っていたのでそこまで価値がつくかは怪しいのです」

「なるほど。そうですよね」


 いきなり100万ゴルドをハイ。と渡されることになったらびっくりするどころではない。


「(まぁでも、練習用でも30万ギルドは固いと思うのです……)」

「ネムちゃん?」

「な、なんでもないのです! とにかく、サフィニアさんはそれを持っていて欲しいのです!」

「う、うん。分かったけど……」

「鍛冶師のところに行くのです!」

「分かりました」


 私達はそんな事を話しながら鍛冶師の元に向かう。

 そこには、露店のようにゴザがひかれ、その周囲を囲むように沢山の女性達がいた。

 若い人から年配の人まで、様々な年齢の女性達がいる。


「ミカヅキ様! 私の包丁を研いでいただけませんかか!?」

「もちろん、アタシはいつでもやるよ」

「ああ、とっても素敵です……」


 そんな話が聞こえてくるけれど、包丁の話題を出しているという事はやっぱり鍛冶師なのだろうか。

 私達も並んで、順番を待っていると私達の番が来た。


「さぁ、君達はどんなお願いをしたいんだい? その格好……冒険者かい? アタシは剣は見ないんだけど大丈夫かな?」


 そう言ってくるのは、綺麗な金髪を頭の後ろで結んでいる男性と女性の中間のような雰囲気をさせるきれいな女性だった。

 動きやすい服装だけれど、両手両足を全て隠しているのは鍛冶師だからだろうか、他にも手には分厚い茶色い皮の手袋をしていた。


「あ、私達、この包丁を修理して欲しいんですけど……」


 私はそう言ってマジックバックから包丁を取り出すと、ミカヅキと呼ばれていた彼女は勢いよく立ち上がる。


「これは! 少し見せてもらってもいいかい?」

「はい」


 ミカヅキさんはそう言って私の包丁を大事そうに受け取り、じっくりと見つめていた。


「直りますか?」

「直るよ」

「本当ですか⁉ 良かった……」

「ただし、これを直そうとすると、100万ゴルドはいただくことになるよ」

「100万……100万⁉」


 さっき教えてもらったばかりの値段が出てきて驚きだ。

 でも、この包丁って……そんなに……高いの?


 私の顔色を理解したのか、ミカヅキさんは説明をしてくれる。


「この包丁は元々使われている金属も質が高い。さらに魔法で加工されていてね。その素材や手間賃てまちんで結構かかるのさ」

「そんな……」

「でも、一つだけ、依頼を受けてくれたら、格安……そうだね。1000ゴルドで完璧に修理してあげよう」

「本当ですか⁉」

「ああ、アタシと一緒にその素材を取りにいく。という条件だけどね?」


 ミカヅキさんはそう私達に問いかけて来た。

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