EP1・空白の心

今日もまた下らない一日が始まる。

下らない下らないと日々の時を無想に過ごす。

いつになれば人生をちり紙の如く過ごす日々は終わりを迎えるのだろうか?

僕はそんな無意味な事を考えながら、着々と制服に着替えていく。

僕は簡単に身支度を済ませ、玄関に向かった。

靴を履き、忘れ物がないかチェックしてドアを開ける。


ドアを開けて、目に入ってくるのは呆れるほど見慣れた風景。

いつもの様に駅に向かい、いつもの様に電車に乗り、いつもの様に高校へと向かう。それが今日で終わりだと思うとなんだか開放感を覚える。

そう、この3月1日の今日。卒業式を迎えた。


あっという間の高校生活だった。

思い返せば受験勉強に勤しんだ事ぐらいしか記憶ない。呆気ない。それもそうか。

どんな事も心から楽しんでいなかった。

昔から人と親しくなろうとしなかった。

人とは普通に話せた。

だけど、それ以上踏み込もうとしなかった。

人生があまりにも空っぽで、生きた心地がしない。

生きるのが苦しい。


登校してから5時間程度、万人が思い描く様なごく普通の卒業式を終え、既に僕は帰宅の準備を始めていた。

「…帰るか。」

「おーい倉間くん。写真とろ!」

「…別にいいよ。」

「なんでよーいいじゃん!せっかくの卒業式なんだよ?」

こいつは赤杉 菊莉(きくり)。

僕とは3年間同じクラスだった奴だ。

ポニーテールの女の子で、クラスでは活発な印象を与えていた。

僕からしてみれば昔からしつこくてウザったらしかった。けど何故か嫌いにはなれなかった。

「わかったよ。」


カシャッ!!


「ねぇ倉間くん、向こうに着いたら連絡頂戴!

迎えに行くから!」

「そういえば君も同じ大学だったね。

分かった。そん時は連絡するよ。」

「うん!」


「ねぇー!きくり〜私達と撮ろう!」

赤杉の友達らしき人らが呼んでいる

「分かった!あ〜じゃあね、倉間くん!」

「うん、じゃあ。」


ざわ…ざわ…ざわ…


何やら周りが騒がしい。

「よーし今から打ち上げいくぞぉ!」

どうやら仲のいいグループで卒業記念のパーティーをするらしい。

僕には関係ない話だ。

「おう倉間、お前も打ち上げこねぇ?」

クラスメイトが話しかけてきた。

名前は確か…だめだ、思い出せない。

「ごめん、この後は家族で過ごす予定なんだ。」

「ああそっか、残念だわ。それじゃあな。」

彼はそそくさと集団へ戻ってった。

「…帰ろ。」

世間一般で見れば僕は可哀想な人間に当てはまるのかもしれない。けれど僕の様に生きるのには向いてない人間がいるのも知ってほしいものだ。


僕は家に帰宅した。

家の中には勿論誰もいない。

はなから家族で過ごす予定などないのだ。


卒業式に来ない父。

予想はしていたけど、何か重要なイベントに誰も来てくれないと言うのは中々悲しいものかも知れない。

今頃、周りの人間はお祝いムードに包まれている中、僕だけお通夜だ

これからどうしようか。本でも読もうか。


現在時刻、夜の9時半。

「ただいま。」

ようやく父が家に帰ってきた。

「風呂沸いてる?」

父の言葉を無視して僕は話をする。

「今日は遅かったね。どこ行ってたかは大体検討がつくよ。」

「ああ、仕事帰りに警察署に寄ってたんだ。」

「………」

これで何度目だろうか。

父は玄関で靴を脱ぐと、リビングの椅子に腰掛けた。僕はソファに座る。


「父さん、今日俺卒業式だったんだ。」

「…そうだったのか。卒業おめでとう。

あーなんだ…出前でも取るか?」

もはや食事をする気分ではない。

「いや、先に食べておいたから大丈夫。」

勿論、嘘だ。

僕らの中に暫くの沈黙が流れる。

先に破ったのは父の方だった。

「ところで大学入学までの期間は何するつもりなんだ?」

「そういえば特に決めてなかったな…。」

「しっかりしろよ、もうすぐお前一人暮らしなんだから。全部一人でやれるようになれな。」

「言われずともちゃんとするさ。」

「ああ後、分かってるだろうけど来週は母さんの命日だからな。予定空けとけよ。」

そうだったっけ?忘れる所だった。

「分かってるよ、じゃあもう寝るね。」

「ああ、おやすみ。」

僕はノロノロと二階の自室に向かい、中の椅子に腰掛ける。

「もう終わったんだな高校生活、苦しかったな。」

思い返すものは何も無い。果てしない虚無。

何か原因でもあるのだろうか?

何も記憶がない。

僕の生きてる意味ってなんだろうか。

まだ大して生きてないのにここまで人生に絶望するなんて。どうしてこんなに人生辛いのだろう。

何処かに大切なものを置いてきた気がする。


振り返れば赤杉、お前だけだった。

唯一、僕の事をずっと気にかけてくれたのは。

死体の様な僕に気を遣って、ずっと支えてくれた。

君には本当に感謝している。

でも疑問なんだ。

君に何も返せていない僕にどうしてそこまでこだわる必要があるのか?

僕に対しては好意とはまた違う感情で接してるんじゃないか?


いや、やめだ。

こんな事をグルグル考えていても無意味だ。

彼女と会うのは約2週間後、八海駅で待ち合わせてる。その時に聞けばいい。


さぁ、これからどう生きようか。

厳密にいえば、どう時間を潰そうか。

バイト?それとも自分の為に過ごそうか?


だけどそれが何になる。

金を稼いで欲しいものなんてないし、

自分の為に過ごすと言っても、何もしたい事なんてない。

なんの楽しみも、目標もない。

この感覚と付き合い始めてもう何年目になるだろうか。

こんな日々が続くのならいっそ…。


よし決めた。


"20を迎えるまでに生きる理由を見出せなかったら、人生を終わりにしよう"


僕は布団を深く被り、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しシ4C カマタン源氏 @Kamatangenshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ