第8話 彼女の告白


 静かに涙を流す瑠美に、俺はただ手を繋いでいることしか出来なかった。


 どれくらいの時間が流れたのか。

 5分なのか10分なのか、はたまたもう1時間以上経ったのか…


 そして「凌真くん…あのね…」と、彼女の告白が始まる。


 それは俺にとって聞くに絶えない内容で、それまでの人生で感じたことがないほどの、あらゆる負の感情を掻き立てるもので。

 もちろん当事者の瑠美が一番つらいはずだけど、それでも、どうしても繋いでいた左手には力がこもってしまった。


 すると彼女は、まるで「そんな顔しちゃ駄目だよ?」と言うように、自身の左手を繋がれた手に重ね、その目はまだ赤いままなのに、優しく微笑んでくれた。


「私…無我夢中で逃げ出したから、その…最後まではされなかったんだけど…」

「うん…もう言わなくていいよ…」

「ううん、聞いて。あのね、キスは…その…その時、仕方なかったんだけど、でもね…私にとってのファーストキスは、今凌真くんとしたのが初めてだから…」

「うん…うん…」


 いつの間にか俺も泣いてしまって、そんな俺の頬に伝う涙をそっと拭い、彼女はそのまま両頬に手を添えたまま、今度は彼女から俺にキスしてくれた。



 あの時、俺はこの子を絶対に悲しませるようなことはしない。絶対幸せにするんだ、って心に誓ったんだ…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 1年の教室を出て、2年生のクラスのあるフロアに戻るために、俺達は歩いていた。


 先を行く林の後を、俺と涼花も続く。

 少しだけ俺の後ろを歩いていた彼女が、俺の隣まで来て小声で言う。


「ねえ…凌くん…」

「ん?どうかした?」

「どうしたの?」

「何が?」

「その…なんか怖い顔してる…」

「そ、そんなことないよ」

「ううん…分かるんだから…」


 はあ…さすが幼馴染だな。

 俺のことなんてお見通し、ってやつか。


「大丈夫。本当になんでもないよ」

「本当に?」

「ああ。だから気にするなよ」

「うん…」


 確かに怒る、というより、モヤモヤした、何か心の中で、何かかは分からないけど、とにかく直感的に感じる物があった。


 それは前世での瑠美の告白で聞いた、彼女を襲った相手。それがだったからなんだ。





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ゴールデンウィークに入ると、たまに部活で半日だけ学校に行くくらいで、あとは出された課題をやる程度。でもその課題もすぐ終わってしまった。


 別に量が少ないとかじゃなくて、内容が簡単過ぎるんだ。

 あ、誤解のないように言っておくと、前世の俺は、別に成績が優秀だった訳じゃない。

 学年で150人くらいいて、中の上。たまに調子が良くて30位前後に入れるかどうか、といった感じだった。


 じゃあなぜ簡単だと感じたのか。それは俺がタイムリープして、人生2周目だからだ。



 休み明け、少しして一学期の中間テストがあり、そこでもそれは如実に現れる。


「おい!東雲、マジかよ!」

「え…ああ、そうですね…」

「凄いな!急にこんなに成績伸びるなんて」

「はい…」


 うちの中学では成績優秀者、順位のトップ10までは職員室横の廊下に張り出されることになっていて、クラスメイト達には当然驚かれる。でも、なんだかズルしてるみたいで居心地が悪い。


「ところで、なんで敬語なんだよ」

「いや、なんとなく…」

「しかも可愛い幼馴染の彼女までいてさ」

「だからそれは違うって!」

「だって気付いたらいつも一緒にいるだろ」

「そうそう。本当、オレも狙ってたのに」

「だから、本当に違うんだよ…」


 確かに、気付いたら涼花が傍にいるということはよくあった。

 何か気配を感じ、振り向くとそこにはにっこり笑う涼花がいるなんてこともあり、ちょっと怖いからやめて欲しいとも思った。


「でも、9位とか本当に凄いよ!」

「う、うん…」


 けど確かにこんな成績、前世で取ったことなんて一度もない。もしかしたら、もうちょっと真剣に勉強したら、もっと上目指せるんじゃないの?なんて思ってしまう。




 そしてこの事が、また事態を少し変えていくことになる。





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