第46話徐爵

 盗賊退治を終えた俺達は数日の休息の後、都に向けて出発し到着した。

 

 幸い今の所、礼儀作法は問題ないようで、王の御前にまで進む事が出来ていた。

 シュルケンは今城にある応接間のソファーに腰かけている。

 護衛として登城させた騎士達と、俺にお茶を出してくれるメイド達以外誰も居ない。

 RPGゲームのように王様は一日中謁見の間に居る訳ではない。

 執務室でハンコを押したり、報告を受けたりと存外忙しい。

 そのため陛下の準備が整うまでは待機する必要があるのだ。


 俺個人としては盗賊退治×2と色んな発明程度で『徐爵』される事に違和感を覚える。

 陛下は一体、元一般日本人の俺に何を期待しているのだろうか? 

 公爵……つまり遠縁の親戚とは言えただの一度も顔を合わせた事がない。

 従ってこれから謁見するという現実に実感が伴っていないのだ。例えるのであれば、余りにも偉い人に会うというのが近いだろうか? そのためあまり緊張していない。

 なぜなら基本は式典だけ、個別具体的な話を訊きたければ後に陛下から呼ばれるからだ。


「しかしあれだ。ここまで馬車に乗って移動してきたが、見世物になっている気分であまり心地の良いものではなかったな……」


 前世で王族の事を上野のパンダ見たい。と思っていたが、常にパンダであることを産まれた時点から押し付けられているのは、中々に大変な事だと身をもって実感した。


「何をおっしゃいますか、武門に産まれた貴族の誉は凱旋将軍となり門を建立すること……シュルケン様の活躍は凱旋将軍には及びませんが御年を考えれば立派過ぎるぐらいです。奴隷も平民も貴族も問わず今注目の的である事を御自覚下さい!」


 と騎士に窘められる。


「許せ、俺も陛下への謁見で緊張しているのだ」


「シュルケン様にも人並みな所があったと安心しているところです」


 洋画のように肩を竦めて見せると騎士は苦笑いを浮かべる。

 コンコンとドアがノックされ文官と思われる男性が入室する。


 そろそろ出番と言う事だろう……


 文官が入室してきたことで、一気に緊張感が湧いて来る。

 喉が渇き、鼓動が早くなり腹がぐるぐると音を立てる。

 しかし、同時に確かな高揚感を感じていた。

 偉い人に皆の前で褒められる……前世でもあまり経験したことが無いために優越感が湧いて来る。


「シュルケン様、謁見用意が完了いたしましたので謁見の間までお願いします」


 そう言って踵を返そうとする文官に声をかける。


「謁見の作法を教えていただけますか?」


「失念しておりました。十歳で陛下と謁見される方は珍しいので仕方ありませんな……謁見の間に入りましたら、カーペッドの上を真っすぐ進み臣下の方がの居るあたりにカーペッドと同じ色で広くなっている場所が御座いますので、そこで胸に手を当て片膝を付いて頭を伏せてお待ちください。『表を上げよ』など言われた通りにすれば基本的には大丈夫です」


「ありがとうございます」


「陛下はお優しい方ですので、最低限の礼儀さえ守っていれば罪を問う事は無いでしょう」


「では付いてきてください……」


 文官の後ろを付いていく……さながらその姿は鴨のようだ。


 城の廊下を歩いていくと、騎士やメイドその全員が立ち止まり礼をする……暫くすると目の前の豪華で大きな扉が開く。

 豪華絢爛という言葉がピッタリな装飾が施されている謁見の間には、シャンデリアが何基も吊るされている。窓にはこの世界では非常に高価なガラスが使われている。

 技術が甘いのか丸いガラスを何枚も使ったガラスだが……

 流石は国の顔、文明レベルが高い。

 これで外国の使節を威圧するのだろう……差し詰めトラップカードやフィールド魔法と言った外交的なバフ、デバフ系空間と言った所だろうか?

 現代日本人の俺からすれば、高そう、古そう、はえーすっごい以外の感想は無い。


 しかしこれは実に金になりそうだ。鏡やガラス、白磁は金になると改めて確信した。一刻も早く生産できるようにならなくては……昔読んだ異世界モノではガラス玉が最重要物資になっていたしな。


「ベーゼヴィヒト嫡男! シュルケン・フォン・ベーゼヴィヒト様の御登城……」


 昔、アニメや映画で見た様に貴族らしき人間が巻物を見ながら俺の名前を謳うように読み上げる。

 その声を聴きながら、板金鎧プレートアーマーで完全武装した騎士、礼服を身に纏った貴族を横目に歩んでいく。

 俺を値踏みする舐め回すような、幾人もの男女の不快な視線が突き刺さる。


 王位継承権を持つ公爵家とは言え、地方の領主であるベーゼヴィヒト公爵家にとって宮廷は敵地アウェイである。

 役職や特別な事情がない限り、『領主』貴族は宮廷の事に表立って口を出せない。

 宮廷は領地を持たない『宮廷』貴族の領域だからだ。

 宮廷貴族は陛下に間近で侍り使える名誉を、領主貴族は自治・徴税権と言う実利を持っている。

 互いの領分を時に血を流して侵害しあう関係のため険悪なのだ。

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