第18話洋服を見繕う

 十歳。

 それはこの世界の貴族にとっては一つの節目であり、半人前として認められる年齢で十歳を祝う式典が行われる。

 簡単に言えば、七五三と二分の一成人式を合わせたようなもので、領地を離れることが出来る貴族……簡単に言えば男爵以上の子弟を集めた集団お見合い会とでも言うべきだろう。


 ……正確に言えば、元々はそう言った交友を目的としていた。

 現在は、馬車の発達に伴って季節を選んだ上で短距離の旅であれば子供の命には関わらないと言われている。

 現在は十歳になる前に、同じ派閥……寄り子や寄り親や懇意にしている家の子供と友人関係になっている事が多い。


 俺の場合は乳母の子供は死んでしまっているので、本来なら存在するハズの将来の側近候補である友人一人いない状態だ。


 はぁ……幼馴染美少女とか欲しかったな……ファースト幼馴染とセカンド幼馴染が居ればなおの事文句はないのだが……今世でも美少女幼馴染は手に入らなかった。


 十歳になり、結構頻繁に外出しているのは十歳祭までに顔を合わせた事程度でもいいので友人を作るためである。


 正直言って今までは中身の年齢が高い俺にとっては、自分の年齢よりも二十歳前後年上の人間と友好的な関係を築いた方が利が多いと考え、それ以外の時間は自分の強化に邁進して来た。


 が、学園への入学を控えた今、そうも言っていられない。


 今季滞在している屋敷には公爵家として懇意にしている商会の担当者と針子さんが俺の体格の採寸に来ていた。

 現代日本でも古い金持ちは、商品を持ってこさせて買うという話を訊いたことがあるが、この世界では自ら足を運ぶというのは自分が格下である事と殆どイコールであるらしく商人は呼びつけるのが貴族の常識らしい。


「……私共アリアグネ商会は、シュルケン様が所有されているマヅサガ商会に生地を卸しておりまして今後とも御贔屓に宜しくお願い致します」


「今後とも頼む」


 確かにマヅサガ商会は気が付けば洋服の生産にも手を出していて、俺が落書きで書いた服のデザインを元に作った洋服で貴族や商人相手に儲けているらしく今度は、都に店を出すらしい。


「シュルケン様は御顔立ちも整っておられますので、コーディネートのし甲斐があります」


 幸いなことに顔立ちは母親似なので、悪人面の父上に似なくて本当に良かったと思っている。

 黒髪、虎目のおかっぱ頭の少年……いかにも悪役令息と言った風貌の俺に似合う洋服など多くないだろう……とタカを括っていた。


 が……


「シャッテン譲りの鴉の羽のような綺麗な黒髪なのだから、目立つ色をアクセントにいれたいわ」


「キルケーさん。黒髪にはシックな色合いの方が似合うと思うの……でも家格を考えると派手にしないといけないし……難しいわね……」


 普段は都の屋敷にいる御婆様のカミラも見えられて楽しそうに俺の着る洋服の見本を見ている。

 夫……現当主が留守にしている分、都でコネ作りの社交に励まなくてはいけない祖母にとっては五年以上ぶりの孫との対面。

 はしゃがずにはいられないのだろう……


 女に慣れてはいないものの、知識としてしっている。こうなってしまったらまな板の上の鯉のように大人しくしているしかないのだ。


 三時間後、息も絶え絶えになった俺は見事に飾り立てられていた。

 見本の洋服に身を包み、おかっぱ頭に油を付け髪をセットする。


 姿見は多少くすんでいるものの十分に俺の姿を映している……しかし、これは何と表現しようか……


「フィギュアスケーターと燕尾服の間と言ったところか?」


 細かいファッションの名称に疎い俺には分からないが何ともハイセンスな様相は、まるでファッションショーや奇妙な冒険の登場人物のようだ。


「それではこの洋服を元にアリアグネ商会とマヅサガ商会で協力して用立てさせていただきます」


「任せる……」


 既に何か意見をする気力もない。


「装飾品はいつも通りドワーフ族にお願いするとしましょうか……」


 御婆様のお言葉で暫く、鍛冶に石切りに労働三昧のドワーフ族を思い出した。


 圧力鍋の開発やガラスなどのコレからを担う物資製造もお願いしているので心苦しい。

 今度酒の差し入れでもしよう……舶来品……は高いが、労うのだからそれぐらいは奮発せねば……

 戦争に使う武具を始めとしてドワーフ製の道具の需要は年々上昇している。もう五年以上も炉の火は落ちていないというからな……


 迷惑にならないのであれば、我が公爵領にあるドワーフ族の都市……『ドアルゴ自治領』に向かいたいモノだ。


「御婆様それでしたら、是非俺がドアルゴ自治領に向かいたいのですが……」


 『ドアルゴ自治領』は自治領・・・の名前の通り、一定の自治が認められている。

 これは、『ドアルゴ自治領』が出来る際にドワーフ族の顔を立て緩やかな併合・同化と、異種族間の文化衝突を回避するためのモノだろう。


「確かに良い頃合いでしょう。噂に聞きましたがシュルケンは剣が得意だと、ドワーフに剣を一振り打って貰い公爵家と共に歩む未来を共に分かち合うのもいいかもしれませんわ……」


ドワーフ製の武器……欲しい! 


 俺は今猛烈に、一刻も早くドワーフ製の武器が欲しくなっていた。


 今の所剣は素振り用の鉄の芯が入った重たい木剣と、訓練場にあるボロい剣しか使ってないからな……自分用の剣、たまらない……前世でも俺は剣の玩具が大好きで百均や玩具屋で何本も剣を買ってぶんぶん振って遊んでいた。


 ドワーフ製の武器と言えば大抵の作品で最高級品だ。実用品なんて使えればいいと思っている部分はあれども、男はいつまでも心に五歳児を飼っている……


 伝説の剣、聖剣、魔剣、勇者の剣、神剣、神刀……そんな心躍る武具が手に入るのだ。今から楽しみで仕方がない。


 一振りの太刀をお願いしようか? 騎乗する事を考えれば、野太刀や野太刀と薙刀の中間のような武器である長巻もいいかもしれない。

 普段使いを考えるのなら打刀や小太刀、脇差、両刃直剣もありだ。

 儀礼用を考えるのなら短剣や短刀もありだ。基本的に貴族が普段持ち歩く剣は短剣だからな……


全く夢が広がる……




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『あとがき』


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現在新作ラブコメを執筆中で現在四万文字弱出来上がっておりますが、このままではカクヨムコン9に間に合わないため2月か三月頃の連載にしようと思っています。


第1~19話までの合計4万文字弱、現在近況ノートで限定公開中です。



新作のタイトル

【好きな幼馴染がバスケ部OBのチャラ男に寝取られたので、逃げ出したくて見返したくて猛勉強して難関私立に合格しました。「父さん再婚したいんだ」「別にいいけど……」継母の娘は超絶美少女でした】

https://kakuyomu.jp/works/16817330658155508045/episodes/16817330659866009057

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