第3幕 徹底した正義


俺と小山さんは小田さんの家を後にした。

「いいんですか?」

「現場の写真や資料を見せちゃって」

いつものことだけど。


「さっきも言っただろ?こまけぇことは気にすんな」

細かいことじゃないだろ。

だから毎回始末書書くんだよ。


「お前今、だから毎回始末書書くんだよって思っただろ?」


「なんでわかったんですか?」

超能力者か?

この人は。


「馬鹿野郎!顔に書いてあんだよ!」

顔に出てたのか……。

気をつけないとな。


「あいつからは不穏な匂いがするな」

「小田は大沢に浮気されて捨てられてんだ」

「1年かけて準備してきたってこともありうるだろ?」


「それは考え過ぎじゃないですか?」

「害者2人とも職場の同僚や近隣住民への態度が酷く、周りから反感食らってたんですよ」

「それに虚言癖があって、平気で嘘をつくような人達みたいでしたし」


「ああ。あいつらの嫌われようは酷かった」

「害者の関係者に話を聞いた中で過去1番だったな!」

みんな悲しむどころか怒ってたり、笑ったりだった。

確かに過去1番で酷いかもしれない。


「はい……。被害者なのにすごい言われ方してましたね」

死んで精々したとか。


「仕方がねぇよ。クソみたいな生活を送ってきたんだろ」

「クソはクソらしく、おっ死んだってことだ」


「…………」

「それ署内で言うのはやめてくださいね」

俺も巻き込まれるのはごめんだ。


「わかってらぁ」

ほんとか?

いつも平気で不謹慎なこと言うから、署内の評判はあまり良く無いんだが。


「そういえば、家賃滞納されていた第1発見者の大家も怪しいですよ」

「それなりに金を稼いでるにもかかわらず、金遣いが荒くて、家賃を期限通りに払ってくれないって困っていたみたいですし」

それで死なれたから大家も落ち込んでいたな。



「ああ。里部が調子乗ってローンで高級車買ったんだってな」

「しかもすぐに事故っておじゃん」

「借金抱えてるくせに2人揃って金遣いは荒かったようだな」

里部は確か22歳。

いくらそこそこ稼いでいるからといって、まだ若いのに高級車のローンなんて……。

無謀にもほどがある。


「ええ……」

「それに大麻も」

現場で大麻が何本も発見されたのだ。


「やることやってるよな。あいつら」


「ええほんとに…」

借金に大麻か……。

職場や近隣住民への対応。

あの紙に書かれている通り、多くの人に迷惑をかけてきたんだろう。

さっきの小田さんにも……。



「他に暴力団が関わっているとかは?」

「例えば……毒嶋ブスジマ組とか?」

東京で幅を利かせてる暴力団だ。

いくつもの組を傘下にもち、半グレを使うなどして裏で色々と行っているのだ。


「それは無いな」

即答された。


「それは何故です?」


「あいつらは慎重さゆえに大きくなった組織だ。」

「半グレ使うのも足がつかないようにするためさ」

「こんなトチ狂った方法で人を殺さねえよ」


「ま、まあ確かに」

今まで関係はあったんじゃないか程度で、捜査できなかった前例は多い。


「とりあえずその線は無しとして、まだあたってない関係者のところに行くか!」

「徹底的に調べるぞ」

小山さんの徹底的はただのやりすぎなんだよな。

また顔に出そうになり、なんとか誤魔化そうとする。


「わかりました」

「……ただ気になりますよね」

「何故犯人はわざわざ里部の血液を大沢の頭や口の中に入れたんですか?」


「知るか。アホ」

「頭がおかしいやつの考えてることなんて……」

「俺らも頭がおかしくなればわかるんじゃねえの?」


「………それは嫌ですね」


「ああ、俺もだ。行くぞ」

「はい」

俺は小山さんと再び聞き込みに周った。

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