第2幕 ノータリンの結婚式

結局、よく眠れなかった。


去年から寝付けが悪かったが、学から聞いた話を思い出してしまい、全然寝れなかったのだ。

普段7時ぐらいに起きて準備をするが、6時に目が覚めてしまった。


とりあえず準備して、余った時間はタバコでも吸ってゆっくりしよう。

携帯の目覚ましを解除していると、インターホンが鳴った。


こんな朝早くから誰だろう?

いくらなんでも失礼じゃないだろうか。

扉のレンズを覗き込む。


誰だ?

この人たちは……。


俺は震えた。

スーツを着た2人組。


昨日学が言っていた事件を思い出す。

まさか警察か?


俺は扉を開けながら「なんでしょうか?」と聞いた。


「朝早くからから申し訳ないです」

「私達こーゆーものです」

2人組が手帳を見せる。

小田オダ友和トモカズさんですよね?」

「少しだけお時間いいですか?」

予想通り警察だった。


ボサボサの髪で背が低いのが、小山コヤマ幸四郎コウジロウ警部補。

長身のオールバックできちんとしているのが、大鷲オオワシ獅太シイタ巡査長。

見た感じだと、大鷲の方が上司に見える。


「はい……」

「大丈夫ですけど……何かありましたか?」

多分あの事件のことだと思うが。


「はい。先日殺人事件がありましてね」

「単刀直入に聞きますが、6月5日の日曜日は何してましたか?」


「ずっと家にいました。」

行くところがないからな。


「ずっと?」


「はい。外に出ず、家にいました」


「証明できる人は?」


「いません」

やはり俺が疑われてるらしい。

この調子だと5日に殺害されたようだ。


待てよ……。

6月5日って俺の誕生日じゃないか!

綾葉が出て行った日もそうだったな……。


「うーん。アリバイ無しか」

ぶつぶつ小さな声で言ってるが、丸聞こえだ。


「大沢綾葉さんのことはご存知ですよね?」

「あなたは高校が一緒で以前交際もしていた?」


「はい。ただ去年別れて、それきり会ってません」

「電話は着拒、Lemonレモン等のSNSをブロックされて連絡手段もありませんし、どこで何をしてたかっていうのも知りません」

なんで付き合ってたことを知ってるんだ?

高校が一緒のことも。


「なるほど……。ちなみにどのような事件だったか知ってますか?」


「脳が抜き取られたとか。」

それしか知らないが。


「そうなんですよ!」

「私も現場に行ったんですけど、ほとんどのやつが外出てゲーゲー吐いちゃって大変だったんですよね。 がはははははは」

そりゃそうだ。

脳を抜き取るなんて正気じゃない。

それにしてもこのおっさん、よく笑えるな。


「ちなみにこれが現場の写真です」

いきなり見せられた写真は想像を絶するものだった。


頭が空っぽになった綾葉と彼氏が、有刺鉄線で固定されてキスをしてる……のか?

2人の口元は、赤と白のテープでバツ印に留められている

綾葉は血で染まったようなドレスで、彼氏は白いスーツを着てる。

しかもわざわざ綾葉側の白い壁は赤く塗られていた。

俺は気持ち悪くなって目を背けた。


「ちょっと小山さん!」

「一般人に写真見せていいんですか?」

静かにしてた大鷲が急にデカイ声を出した。


「いいんだよ。そんなこまけぇこと気にすんな」

小山は聞く耳を持たない。


「脳味噌は家のゴミ箱に捨ててありました」

「脳味噌ごと切断したからか、ぐちゃぐちゃの状態になってましたね」

小山が他の写真を見せてきたが、俺はすぐに目を背けた。

ふざけんな。

こんな原形もとどめていない脳味噌を人に見せるなんて……。


「おっと。流石にこれはきつかったですかな?」

「失礼失礼」

こいつ……。

悪気ないだろう。


「検視の結果、頭を斬られたときの大量出血で死亡したようです」

「多分凶器は鋸かなんかで頭をギコギコってね」

「手足にも縛られた跡や、顔を抑えられた跡があったんですよねー」

「しかも切断した後の頭はヤスリで整えてありましたよ!」

よくそんな事を平然と言えるな。


「隣に住んでる人は何も気づかなかったんですか?」

流石におかしい。

こんな派手な殺し方をしているのに。


「気づいてたようですよ」

「何か音が鳴ってるのを。」


「え?」

気づいてたのに何もしなかったのか?


「いつも昼夜問わず激しいセックスをしてたみたいでね~」

「注意しても無視されたり、逆ギレするから関わりたくなかったみたいです」


「…………」

聞かなきゃよかった。



「そういえば………空っぽになった大沢さんの頭の中に入ってたんですよ」


「何がですか?」


「大沢さんの血液型はAB型」

「なのにO型の血が入っていた」


「なっ…。」

言葉が出なかった。

違う血液が入っていたってことは……。


「この血液はお付き合いしていた里部サトベ翔馬ショウマさんのものとわかりました」

里部っていう名前だったのか。

なんで血なんかを入れたんだ?


「ご丁寧に大沢さんの血を風呂場で抜いてから洗い流し、里部さんの頭から大沢さんの頭へ流し込まれてたんですよ」

「頭以外では大沢さんの口の中にもありました」

「まるで口移しされたかのように」

話を聞いただけで吐きそうだ。


「あと大沢さんのドレスを赤く染めて、部屋も半分だけ赤く染めてるんですよ」

「壁は途中からペンキでしたな。血が足りなかったんでしょう」

く、狂ってる……。


「天井に大きめなフックを差し込み、有刺鉄線で固定」

「まるで2人がキスしてるかのように見立てた」


「………」

俺は言葉が出なかった。

こんなことが現実に起こるなんて。


「最後にこれなんですが……」

小山に3枚の紙を渡された。


「小山さん!流石にそれは……」

大鷲が止めに入るが、


「うるせぇ!黙ってろ!」

と怒鳴られている。

大鷲も「やれやれ……」と諦めた様子だ。


「読んでみてください。小田さん」


小山に3枚の紙を渡される。

ワープロ打ちされたもののようだ。

1枚目は白い紙にピンク色の文字で印刷されている。


ノータリンの結婚式


祝福してくれる人は誰もいない。

2人きりの結婚式。

他にいるのは神父だけ。

そこには愛はない。

お互いのことがわからない。

自分の美を追求するために脳を捨ててしまったから。

傲慢で我儘な2人は多くの人々に迷惑をかけてきた。

ロボトミー手術より効果的だろう。

永遠にこのままだ。

異なる色に染まった2人の結婚式。

共通しているのはただ1つだけ。



2枚目は赤い紙に白い文字。



赤の花嫁


脳みそを捨てた。

花婿から血をもらうために。

私は血液が足りてないから。

血が塗られた赤いドレス。

血が流れて赤くなった私の顔。

私は世界で1番赤が似合う女。



3枚目は白い紙に赤い文字。



白の花婿


脳みそを捨てた。

花嫁に血を与えるために。

私は血液が足りているから。

血が引いたような白のスーツ。

血が抜かれて白くなった私の顔。

私は世界で1番白が似合う男。



なんだこれは?

意味がわからない。


「あの……これは?」


「実はそれ、現場に残っていたものなんですよ」

「1枚目の紙は額縁に入った状態で、2人の足元に飾られていて……」

「2枚目は大沢さん、3枚目は里部さんの頭の中に入っていました。」


「え……」

俺は怖くなった。

そんなものを今まで持っていたのかと。

紙を落としてしまい、散らばった。


「おっと!」

小山が拾った。


「安心してください。コピーしたものですよ~」

「本物の2枚目と3枚目は折りたたんでチャック付きの袋に入れられてました」

コピーしたものでも不快感を感じる。


「これ読んで何かわかったりします?」


「わかりません」

わかるわけがない。

この犯人は確実に頭がイカれている。


「そうですか………」

「最後に小田さん」

「この2人を恨んでる人、知ってたりします?」

明らかに俺を疑ってる目だ。


「知りません」

誰かはわからない。

だが、俺への行いから恨みはもたれそうな2人だが……。


「わかりました。ご協力ありがとうございます」

「また何かあれば宜しくお願いします」


やっと帰ったが、俺は落ち着かなかった。

また来るのだろうか?

二度と来てほしくない。

あの2人のことはどうでもいいが、早く犯人を捕まえてほしい。

少し長くなってしまった。

早く会社へ行く準備をしよう。

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