第一章幕間【とある場所にて】

「ふぅー」

 

 何処かのとある場所で、その者は草原に横たわり、空を眺めていた。

 その者は独り、誰もいない草原で笑いながら喋っている。


「いやー、何とかなったね。これで彼と僕はもっと愛し合える。もっと愛し合えるんだ!」


 その者は綺麗な白い髪をしていて、その口元から見える歯は、鋭くとがっており、何処か動物を連想させる。

 誰もが見惚れてしまう容姿をしているが、男性とも女性とも捉えられるその中性的な見た目は尋常ではない雰囲気を放っている。


「貴様、何をしている」


 そこに話しかける女性が、どこからともなく現れる。今まで誰もいなかった空間に突如出現した彼女は感情のない瞳でその者を見つめている。


「何って、観察だよ、観察。僕の愛しい彼の事を見て何が悪いって言うんだよ」


「我々は彼らにそのような感情は抱かない」


「そうだよ!結局はあいつらに勝つためだけの駒なんだよ!?」


「はぁ、お前の言ってることには、理解できないな」


「はは、そうじゃな、誰だって、駒に対して好意は抱かないじゃろ?」


 言葉を繋ぐように、次々と新たな存在が現れる。彼らは様々な表情でその者を見つめている。ある者は怒り、ある者は呆れ、ある者は笑う。

 そんな彼らの言葉を聞き、その者は溜息をつく。


「はぁー、面倒だな。いちいち別人みたいに話すの止めてくれない?」


 その者がそう言うと、彼らはそれまでの表情を消し、まるで機械のように無機質に語る。


「我々の中にも様々感情が存在する」


「多くの媒体を利用して、様々な感情を示し交流を図る」


「それが、彼らを理解する為だ」


 彼らの発言に対して、「わかってないなー」とその者は呆れると、


「そうじゃないだろ?君達は別々である振りをしているだけだ。君達は互いに眼を見るだけで喋らずに意思疎通ができる。それじゃあ意味ないね」


 彼らは互いに眼を見つめあい、無言でいる。その者はそういう所だぞと思うが口には出さない。言ったところでどうせ理解されないのだから。


「我々は、集団であり個だ」


「だが貴様は我々から分離した、異分子」


「我々は貴様を軽蔑する」


「そうやって喋らなくても互いにわかっちゃうなんて、つまらなくないの?」


「━━━」


 その者の発言の意図を理解できないのか、それらは再び互いを見つめ合い、黙り込んでいる。


「でも、僕からしたら、もうそれは普通じゃない。全部は分からないけど、僕は彼の言葉を聞いて、考えて、それで彼を理解するんだ。これがまさに愛ってやつだよね?最高だよ」


 空を眺め、うっとりするように喋り続けるその者の言葉を、またしても理解できない彼らは、未だに黙り込んでいる。

 それを感じたその者は「はぁ」と溜息をつくと、横たわっていた身体を起こし、その者は背後にいる彼らの方を振り向く。


「いいかい?僕はもう、君達とは違うんだ。僕は彼と愛し合っている。僕達だけの世界で愛し合っているんだよ。だから、邪魔をしないで貰ってもいいかな?」


 振り向いたその者の眼を見た彼らは、この会話において初めてその瞳に強い感情を宿した。それは最初は驚愕だったが、すぐにその者を忌み嫌う負の感情によって塗りつぶされる。


「貴様、一体何をした」


「僕なりの彼に対する愛情表現ってやつ?彼が僕を愛してくれてるのに、すぐにお別れは嫌でしょ?だから、僕が彼を愛してあげたんだよ。素敵じゃない?」


 へらへらと笑いながら語るその者を見つめる彼らの瞳は、もはや自分達と同じ存在を見る瞳ではなかった。その者を忌み嫌い、軽蔑し、下等な存在と見なす。そんな瞳だ。


「彼らへの、過度な干渉は禁忌とされている。貴様もそれは知っているはずだ」


「そうやって、何もしなかったから失敗したんだよ?2度目はないって君達も分かってるよね?」


「貴様のそれは詭弁だ。我々は貴様の行いを許可しない。貴様は、貴様個人の感情で動いている」


「いいよ、別に。君達の許可なんていらないし、そもそも必要ないからね」


「貴様も我々にとっての眼の意味を分かっているだろ。眼は我々の根底を成す物だ。それを、」


「あー、はいはい、わかってるって。うるさいんだから。君達がどう考えるかだなんて知らないよ」


 話を続けようとする彼らを遮り、再び草原に横になり空を見上げる。話が通じないと察した彼らはその場を去ろうとするが、その者は彼らを「あー、あとね」と呼び止める。


「僕はこの眼の色が大好きなんだ。彼と同じ色、お揃いってやつだ。それにさっきから君達は僕の事を貴様、貴様って呼ぶけどさ、僕にはもう名前があるんだ、愛しい彼がこの僕の瞳の色からつけた最高の名前がね」


 そう言いながら、振りむいたその者は、笑いながら彼らを美しい緑色の瞳と片方が黒く染まった眼で見つめるのだった。


 その色を忌み嫌い、彼らは無言でその場から消え去る。


「これからは、しばらく僕と2人きりだね、勇翔、シュウ」



 ━ ━ ━ ━ ━


 この後、番外編を3つ挟んでから第二章開始します。

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