【IF&アフターストーリー】フリーターが次に選んだ職業は暗殺者。神スレから賜った「液化金属」が無敵すぎる件 ~合理主義者の殺人譚~【外伝】

@bondon

EX:1話 ifの世界「宴」

「皆々様、本日はお集まりいただきありがとうございます」


 来夢の作ったパンデモニウム。いつもは簡素な白い部屋に円卓が置かれているだけのメインルームは違う様相を呈していた。そこで銀次は音頭をとる。


 普段は絶対の信頼を置く、切羅、椎口、来夢、ノルン以外は絶対不可侵の領域にたくさんの顔ぶれが見える。それは今まで彼が打倒してきた兵たち。部屋の端にはたくさんの料理と酒が並び、丸テーブルも10を超える数が設置してあり、既に酒に酔っている輩も何人かいた。


「銀次さあ、私は良いよ? 最終的に君たちのサポートをしていたわけだからね」


 小柄でアルビノ。前髪にだけ紅いメッシュを掛けている童女……のような風貌をしている成人女性、リコルテ=クラスニーが不服そうにウォッカを呷っている。


「でもこいつがいるのは納得できない。大陸間弾道ミサイル。しかもそれを光速で打ち込める強能力を持ちながら慢心で負けた快楽主義者が」

「リコルテちゃんよお……よくわからん外国語使うなよ。俺が会話に入れないじゃないか」


 既に出来上がっているロシアの主砲。エシト=ヴォルガノフは嫌がるリコルテに無理やり肩を組み至近距離で話しかける。


「酒臭いなエシト。後セクハラはやめろ」

「リコルテちゃんだって、酒飲んでるじゃん。あと俺は胸があって、尻がでかい女にしか興味はないから、大丈夫だ」


「え? 僕ロシア語分からん。切羅ァ!! 通訳を……」

「叫ばなくともやりますって……」


 切羅は呆れたように息を吐き、銀次は通訳を切羅に一任する。


「今の話は聞かなかったことにしてやる。私はロシア本隊の中佐。お前は東の果ての少佐だろ? 口の利き方には気を付けろ」

「『猟犬ゴンチェーア』は独立部隊だ。確かにアンタのほうが階級は上だが俺の直属の上司じゃないからなあ」

「わかった、いいから。お前は可愛い子でも見繕って来い」


 犬でも追い払うかのように手でエシトを払うリコルテ。エシトは口を結んで、いろんな女性のもとにアプローチをかけに行った。


 □□□


「注目……してくださいッス。まだ銀次さんの挨拶が終わっていないッス」


 次に声を上げたのは気弱な性格をしている銀次一派の最高戦力、空木椎口。申し訳なさそうに縮こまっている。


「ありがとう椎口。最初に。今回呼んだのは不幸にも僕や誰かに討伐されてしまった能力者たちだ。もしこんな世界があったらな、という願いの元、用意させていただいた。人を傷つけることはやっちゃいけないからな。飽くまで感想戦と親睦会だ」


 銀次が口上を終えると気色の悪い中年男性の嬌声が聞こえてくる。


「ああ♥。 痛い、もっと蹴ってくれ給え! メアリー女史♥」

「お前はさあ、自分だけを犠牲に私とジェーンを助けようとしやがったな。三人いて初めてエドワード隊だろ」


 四つん這いになりながらもメアリーからの蹴りを受け、その快楽を享受しているエドワードに興味を引かれたのか、とある女子高生が声をかける。


「何してるんだ? 矮小なる人の子よ」


 紅髪のサイドテールを垂らした高校生。天王洲来夢がエドワード達のもとに歩み寄っていく。


(中二キャラで行くんだ……)

(中二キャラで行くんですね……)


「そこな女史! 君も私を蹴ってくれないか? もう普通の刺激では満足できなくなってしまったのだ」

「ふん……まかせろ」


 来夢のト―キックがエドワードのモノクルに突き刺さる。割れ、その破片でエドワードは片目を負傷する。


「……ツアッ!!」


 予想以上のダメージにエドワードは突っ伏すが、すぐに起き上がった。


「本物だよ。君は。……来夢女史だったかな? どうだい? 私の探偵事務所に……」


 そこでノルンが白衣をたなびかせながら颯爽と登場し、ポーションを飲ませ回復させる。


「素晴らしい。これで永遠に女の子に蹴られ続けられるではないか……是非ともミューズ探偵事務所に」


 二人には即答で断られる。凹むエドワードにメアリーとジェーンは肩に手を置き優しい口調で語り掛ける。


「確かにアンタは変態だけれど、本当にありがとう。最後まで戦ってくれて」

「う、うん。確かに、ぎ、犠牲になっちゃったのは、哀しいけど。私達、の、為、だもん、ね?」


「メアリー……ジェーン」


 ひし、と抱きしめ、大粒の涙を流すエドワード。暗殺という暴力を以て生計を立てている三人。少年兵を買い取り、勉強を教えるも実らず、天賦の「殺しの才」を持つ三人。悲劇的な境遇だが、裏を返せばそうだったからこそ出会えた血よりも濃い絆。普通の家庭ではないかもしれないが、これは立派な家族だろう。


 □□□


「ZZZ……ZZZ……」

「何だコイツ。何で寝てるんだ?」


 短髪の小柄なボクサーが部屋の隅で安眠枕を使い熟睡している中国人を発見した。端正な顔立ち、切れ長の瞳に長い黒髪。話し相手もいないので、揺すって起こすことにした。


「……なに? 今いい夢見てるところだったんだけど」

「いや、なんで眠っているんだろうと気になってな。俺は平理武留たいらりぶる。法学生だ。話を聞きたい」


 そこでワンは噴き出したように嗤う。その意味を理解しかねた理武留は頭に疑問符を浮かべる。それを察して完の方から口を開く。


「ボクはマフィアだぞ? 法と全く無縁の人種の言葉に含蓄なんてないだろう」

「いや、それは知っている。ただ、その方が有益な情報が得られるんじゃないかと思ってね。俺は正しい側の意見しか耳に入れてこなかったから」


「……正しい側、ね」


 しばし完は考え込むそぶりを見せる。数拍置いて彼の口から死生観について語られることとなった。


「君は幸福な人間は燃やすって考えをしている、学生だね。銀次から話は聞いているよ」

「知っているんだ、あいつのことを」

「ボクが最初からこの部屋に生えているものだと思っているのかい? 君と同様にホストである銀次から招待状をもらって、受付で彼とは一言二言話はしたさ」


 理武留は黙って話を聞いている。


「昔の話だ。とある少年が最初に人を殺したのは15の時だった。中国にも発展しているところとそうじゃないところがあってね。その時は後者だ。限界集落っていえばいいのかな? 村ひとつをナイフ一本で壊滅させた」

「……」


「君はこの大量殺人鬼の事を殺すか?」

「そうだな、もし対面していたら燃やしている。幸福な人間だけでなく、不幸な人間までも手にかけてしまっているから、俺にとってその少年は明確な悪だ」


「では、その少年が誰より不幸だったとしても、君はその劫火で地獄に落すのか」

「不幸……?」

「人が人を殺すに至る動機ってのは案外軽いものなんだよ。特に確固たる主義を持つ人間にとってはね」


「待て、待て。不幸だからと言って殺人が許容されるわけではない」

「それは、どうだろうね。日本出身ならば聞いたことがあるんじゃないか。親殺しという極刑が確定している裁判で、親の鬼畜な行動を理由に情状酌量が行われた事件。確か憲法さえ変えたんじゃなかったかな」


 口角をあげて完は言葉を続けた。


「それならば、不幸である、という事は人を殺してもいい免罪符になるわけだ」


 おかしそうに完はくつくつと笑う。先ほどから彼は寝転がり、枕元にはワインやチーズが置いてありそれをつまみ、寝ながら答えている。


「そして君。君も殺しているじゃないか、平等だと宣い、幸福な人間を燃やすことが自分の生きる意味だと妄信しているようだが、その幸福は、不幸は。誰が定義しているんだ? 資産が10億ドルあります。でも友人がいないので不幸です、とか。カツカツの火の車だけど何とか妻子に恵まれて幸福です、とか」


「幸福なんて誰かに決められて値段をつけるものではないんだよ。よく日本は恵まれた国なのに幸福度ランキングが低いよね? あれは相対的なものだからだ。周りと比べて年収が少ない、友人が少ない、恋人がいない。馬鹿らしい」

「つまりお前の意見では幸福や不幸に線引きをして殺しを行っている俺が……」

「そう、滑稽に見える。だが主義なんて人それぞれだろ。大望を持ち、それを実現させられる力を持てば人が人を殺すのも仕方がないのかもしれないね」


 完がワイングラスを持ち、理武留に向かって向ける。


「?」

「せっかくの機会だ、最初で最後の。君とボクは本来出会わなかった。それが殺し合いの場ではなく、祝宴の場で会えたことに感謝しているよ」

「そうだな。主義が無ければ人は生きている意味がない」


 理武留も自身のシャンパングラスを掲げる。


「そう、しかし行き過ぎた主義者は世界から排除される。いやはや面白いよね、何事もバランスが重要なわけだ」


 二人のグラスがぶつかり小気味よい音を鳴らす。一息に酒を飲み干す二人。


「ところでアンタの目的、というか、人を殺す理由は何だったんだ? ハワイを制圧してまで楽園を作ろうとした原因は?」


 頭を掻きながら完は吐き捨てるように答えた。


「眠かったからだ」


 □□□


 一人でスマホと睨めっこをしている蒼髪、蒼眼の高校生がいる。スマホゲームをしているようで先ほどからスーパーレアのキャラクターを引き続けている。


「ゲームばかりしていると、良くないですよ」


 振り返ってみると白い髪の30代ほどの女性がいた。ストレスからくるものなのか、染めているのか蒼時にはわからなかった。それよりも、この蒼時あおときに意見を申し立てる人間がいることに驚いた。


「別に俺の勝手だろ」

「私の息子も成長していたら、貴方みたいになっていたのでしょうか」


 その瞳には哀しみがあった。理想を追い求め、その果てにすべてを失った愛手雪あいでゆきという人物の後悔が滲み出ていた。


「愛手雪、か。東京をめちゃくちゃにしたのはお前だな」

「そう、ですよ……」


 蒼時はどこか自分が殺した母の面影を彼女から感じ取ってしまっていた。どうして一介の主婦があのような凶行に走ったのか、蒼時には想像することしかできない。


「別にいいよ。俺だって散々壊してきたからな」

「今は後悔しています」


「……東京を氷漬けにしたことにか?」

「それもありますけど、一番は私の息子を殺してしまった事でしょうか」


 蒼時はスマホを弄る手を止めた。傲慢で排他主義の彼でさえ、この話は片手間に聞くことではない。それは失礼にあたると考えてしまったのだ。


「それは、なんで殺したんだ」

「理想、で無くなってしまったからです」


「俺の年齢で説教ってのも傲慢な話だが、子供はお前の所有物ではないぞ」

「当たり前ですよね、そんな当たり前のことに気付くのが死ぬ間際だったのが救えないですよね」


 しばらくの間沈黙が続く。先に口を開いたのは雪の方だった。


「蒼時さん、ですよね、なんでそんなにレアを引けるんです?」

「時間遡行ができるからな。乱数調整がリアルにできる」

「それって楽しいんですか?」


「いや、全然。惰性でやってる」


 しばし反抗期の子供と過保護な親のような会話が繰り広げられる。しかし、あらかた雑談を終えると雪は目を細めてしみじみと語る。


「人って力を持つと変わってしまうんですよね」


 蒼時は何も言わない。


「私の能力があれば沢山の人を救う事もできたかもしれません。勿論貴方の能力でも」


「過ぎた話だ。Deusがいる限り、殺し合いは避けられなかった」

「そうかもしれませんね。でも今は、敵対していた人間が仲良く食卓を囲み、酒を飲み、談笑をする。素敵な世界です」


「俺にとって主義が違うものは排他の対象だった。そうすれば世界はよりよく変化していくと思っていた。でも、価値観の違う者同士、食卓を囲むっていうのも悪くはないな」


「えぇ。ところで私も蒼時さんのやっているゲームやりたいんですけど、招待して貰えませんか?」

「いいよ、一緒に遊ぼう」


 蒼時が初めて笑った。それを見て雪もなんだか嬉しくなって表情が綻んだ。


 ■■■


「宴もたけなわですが、第一回、宴これにて閉幕とします。まだ招待できていない人もいるのでもしかしたらまたやるかもしれません」


 銀次が締めの言葉を壇上で話している。


「では最後は乾杯で締めましょう。本日はお越しいただき誠にありがとうございます」


「では乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」

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