第42話 セクシー! キュート! ポップ! クール!

 海陽のコスプレ撮影ショーが終わると、すっかり遅くなってしまった。成生は海陽を駅まで送ることにする。リリアもついてこようとしたが、照日が止めた。理由は分からない。


 そして日の落ちて暗くなった住宅街の夜道を、成生と海陽二人で歩く。


「ごめんね、海陽さん。こんなに遅くなるとは思ってなかった」

「大丈夫だよ。楽しかったし」

「そう言ってくれると、ありがたいな」

「それにしても、すごかったよね。リリアと照日ちゃんの一歩も退かない争い」

「海陽さんも困ってたし、俺が両方撮ろうって言ったら、今度はどっちが先に撮るかの争い。結局、ジャンケンで照日ちゃん提案のセクシーポーズから撮ることになったんだけど、結構大胆なポーズだったよね」

「うん。照日ちゃん、ノせるのうまいよね」

「そのあとのリリアさんはたどたどしい指示だったもんね。照日ちゃんが慣れすぎなのかな? 照日ちゃんどっちなんだろう。撮る方? 撮られる方?」

「で、ナリオくんはさぁ」

「ん?」

「どっちがよかった? わたしのセクシーポーズとかわいいポーズ」

「うーん……かわいい海陽さんもよかったけど、セクシーな海陽さんがいつもと雰囲気違ってて、よかったかな? 違う一面というか」

「そっちがいいんだ……ナリオくんのえっちぃ」

「それを言ったら、海陽さんだってヘンな勘違いをして……」

「だって、あんなこと言ってんだもん。カンチガイだってするよ!」

「そういうの知ってるなんて、えっちすぎるよ」


 その時思わなかったとはいえ、あまり人のことは言えないけど。


「ち、違うよ。そういうのに興味あるわけじゃないんだよ? 上の弟がそういうのに興味持ち出して、わたしも目にすることあるんだけど……」


(ちゃんと隠せ、弟よ)

 成生はそっと思う。


「弟が必死に隠すから……ほら、気になっちゃうじゃない? なにを隠してるとか。まぁ、中身も気になるんだけど」


(それを興味あると言うのでは?)

 あえて口には出さない。


「だ、だからね? 男の子がえっちなのは知ってるから、ナリオくんがえっちでも嫌いにならないよ? わたしは」

「そうなんだ」


 じゃあ、今後はバンバンえっちな話を――したらやっぱり失礼だろうし、ひかれるだろうから、今まで通りにしよう。


「で、さっきの話なんだけど、やっぱりナリオくんもセクシーな方が好きなの? わたし、セクシーになった方がいいかな?」

「いや、普段かわいい海陽さんがたまにセクシーな姿を見せてくれるから価値が有るんであって、今まで通りのかわいい海陽さんでいいよ」

「よかったぁ」


 そう言って、海陽は満面の笑顔で成生の腕に抱きついてきた。海陽の柔らかな身体を腕で感じる。手なんて、脇腹に触れちゃってる。


「ど、どうしたの?」

 突然の行動に成生は驚いて、声もうわずってしまう。

「かわいいって言ってくれたのが、うれしくて」

「そうなんだ……」


 かわいいと言うと、女の子は抱きついてくるものなのだろうか。よく分からない。

 そして海陽がこんなに近くにいるのに、怖いという感覚が無い。プールの時もそうだったな。


 もう女の子に対する恐怖心が無くなったのか。

 それとも、海陽だからか。

 それも分からない。


「ナリオくん。ありがとね」

「なにが?」

「色々とっ」

「?」


 よく分かないが海陽が満足そうなので、いいか。

 結局、駅に着くまで海陽は腕に抱きついたままだった。




 海陽が切符を買って、改札前。

「今日はごめんね。突然来ちゃって」

「いや、いいよ。海陽さんがいたから助かった部分も有るし」


 リリアの機嫌を取るためのデートでは無くなったが、一番の目標であるリリアの服を買うという目的は達成された。さらに女教師服を手に入れて嬉しそうだったし、問題は無い。


「それで……今度ね」

 そう言って、海陽は口ごもってもじもじとし始めた。トイレを我慢しているのかな?


 少し間があって、

「今度は二人っきりで出かけようねっ!」

 海陽は早口でそう言うと、踵を返して早足で改札を抜け、振り返ることもなくホームへ向かっていった。



「あれ?」

 海陽が早口過ぎて、何を言っているのか分からなかった成生。いつもなら振り返って手を振る海陽がそのままホームに行ってしまったのが珍しいと思っていた。



 一方、海陽。

(言っちゃった! 言っちゃった! 言っちゃった!!)

 早足で進む身体で受ける風でも冷めないほどの熱い全身。特に顔なんて、成生に見せられるはずも無かった。

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