第41話 リリアにいっぱい出す

 その頃、一階。

 成生とリリアは二人を待っていた。ずいぶんと時間が経った気がする。


「上がってから、なかなか降りて来ませんね。海陽みはるさんと照日さん」

「選ぶのに時間かかってるんじゃないかなぁ。照日ちゃん、コスチューム多いし」

「コスチューム多いのは羨ましいですね。私には成生さんが選んでくれたコーデが有りますが」

「そう言ってくれると、嬉しいなぁ」


 と話していると、二階から二人が降りてくる足音が聞こえてきた。


「じゃーん! それでは、みはお姉ちゃんのコスプレ披露タイムでーす!」

 姿を見せたのは、照日だけだった。

 もったいぶるってことは……期待していいのだろうか。


「ドラムの人、どうぞ。でろろろろろろろろろろろ……」

「自分で言うんかーい!」

「ろろろろろろろろろろろろろ…………ろ?」


 あまりに出てこないので、照日が海陽のいるであろう方をのぞき込む。


 そこから少し間があって、一歩、また一歩。

 ゆっくりと少し恥ずかしそうに現れた海陽は、真っ赤なひざ上丈のノースリーブチャイナドレス姿だった。


 チャイナドレスの特徴とも言えるスリットはやや深めで、ウエストの搾られたデザインは、そのボディラインを浮きだたせている。海陽の生のボディラインはプールで見ているはずなのだが、印象が全く違う。凄くメリハリの有るボディに見える。

 肩下ぐらいまでの髪は後ろでまとめ、サイドに大きな赤い花の髪飾りを付けていた。


 チャイナドレスは長い中国の歴史の中でも比較的歴史が浅く、およそ100年前に上海で生まれたと言う。民族服に洋裁技術を取り入れ、当初は体型を隠すのが美とされてきた文化からゆったりしていたものだったが、更なる西洋文化の流入や政策の転換による束縛からの解放的な服として、次第にタイトな作りになっていった。

 伝統的な作りはマキシ丈にひざ辺りまでのスリットだが、丈やスリットの長さは流行り廃りで変わってくるようで、決まりは無い。


 そんなチャイナドレスに身を包む海陽は照れている。

「いやぁ……なんか思ったよりボディライン出すぎじゃない?」

「そういうもんだよ。広がらないマーメイドライン的なのが基本だしー」

「あと、その……胸がちょっとキツい」

「それはしかたないよ。ぺたんこなるーに合わせてるからねー」

「わたしのサイズで、それを体験するなんて思わなかった」

「みはお姉ちゃん、意外とあるからねー。ね? なりお兄ちゃん」

「ん? ああ……」

 成生はいきなり照日に振られて、思わず返事してしまった。

 小さくは無い海陽。背は小さいのとタイトな服で強調されているせいか、普段よりも大きく見えている。

 赤が膨張色なせい? 違うよな?


「え? わたしせくしぃー?」

 海陽も急な展開だったのか、なぜかカタコトっぽくなっていた。

「みはお姉ちゃんはセクシーでキュートだと思うよ。ね? なりお兄ちゃん」

「うん。すごくかわいいよ。海陽さん」

「ひゃあ!!」

 成生にかわいいと言われた海陽は、ヘンな声を上げて顔が真っ赤になってしまった。それを見られたくないのか、向こう側を向いてしゃがみ込んでしまう。

 実際、かわいいんだから他に言いようが無い。


 それにしても、ウエストを絞っているせいか、お尻も目立つ。つい、そのキュートなヒップに目が行ってしまう。


「私も海陽さんに合っていて、かわいいと思います。私もチャイナドレス着てみたくなりました」

 と、リリアが言いだした。

「まぁ……リリアお姉さまがるーのを着たら、間違いなく胸のところが破れちゃうよね」

 それは間違いない。超人ハルクばりに破れるだろう。それだったらボトムスが破れないから安心だ。

 ――安心か?


「胸のところに穴が開いたチャイナドレスが有りますが、あれは破れたものでしょうか」

「リリアさん。あれはそういうデザインだから」


 どういう経緯で穴開きタイプが生まれたのかは、よく分からないが。おそらくは「かわいいから」か「えっちだからか」のどっちかだろう。

 リリアが着たら、えっちになってしまうのは目に見えているが。


「欲しいの?」

「私、欲しいです。成生さん、出して下さい」

「こりゃあ、なりお兄ちゃん。出すしかないね、リリアお姉さまに」

「成生さん。私にいっぱい出して下さい」

「いっぱいは出ないよ!」

 ただでさえガチャの確率が相当渋いのに……。まさか、チャイナドレスって色違いで大量にあったりしないよな? 可能性はあるぞ。今の発言だと。

 チャイナドレス以外にも、照日にあれだけのコスチュームを揃えさせた歴代のお兄ちゃんたちが怖くなってきた。


「そんな……」

 つぶやいた海陽を見ると、しゃがんだままこっちを見ながら小刻みに震えていた。

「どしたの? 海陽さん」

「リリアにいっぱい出すだなんて、ナリオくんのえっち!!」

 そう叫んで手を顔を覆ってしまった。

「なにが!?」

 と成生は言った瞬間、海陽が言わんとすることを理解した。


「いや、違うって! そういうことじゃあないんだって!!」

 かといって、本当の意味の説明を求められても困るのだが。


「むぅー……」

 手の隙間から見える、頬を膨らませた海陽。それは軽蔑と言うより、不満げであった。

 どういうこと?


「あれれ~? ヘンな想像しちゃうなんて、みはお姉ちゃんのえっちぃー」

「いや、違うんだよ!! そういうことじゃないんだよ!!」

 顔を真っ赤にしつつ、否定する海陽。

 じゃあ、どういうことなんだ。すっごい気になる。


「もうおしまい!! わたし着がえるから!」

 相当恥ずかしかったのか、海陽は大声で叫びつつ立ち上がり、この場から逃げようとした。


「待って」

 それを止めたのは成生。

「こうやってコスプレしたんだから、撮りたいな。海陽さんのコスプレ」

「そうですね。画像で残したいですね。かわいい海陽さんの姿」

「撮っとけば、なりお兄ちゃんがうかもしれないしね」

 照日がしれっとヘンなことを言っているが、そこは流す。


「…………うーん……」

 足を止めたまま少し考える海陽。


 やがて、

「いいよ、撮っても。ナリオくんがそう言ってくれるなら」

 ちょっと恥ずかしそうにしながらも、了承してくれた海陽。


 その後、セクシーなポーズを取らせようとする照日と、かわいいポーズを取らせようとするリリアで争いが起きるとは、この時思ってなかった。

 結局、両方撮ったのだが。

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