第17話 続・姉が来る!

 リリアは成生のお姉さん、桜音おととお風呂に入ることになってしまった。

 お風呂に入ることには、問題が無い。

 何度も風呂に入っており、防水機能がキチンとしているのは、確認済みだ。

 外観的も人間そっくりなので、違和感は持たれないだろう。

 不安よりも、リリアは他人とお風呂に入ることが初めてなので、少し楽しみにしていた。人間の裸だって、初めて見る。

 自分との違いが有るのかい? 無いのかい? どっちなんだい?




「あぁぁーっ…………」

 湯船に浸かると桜音は思わず声が漏れ出てしまい、浴室に声が響いた。少しアツめのお湯にゆっくり入っていく、この瞬間がたまらない。

 肩まで浸かると、お湯は浴槽の上縁面ギリギリ。桜音はこれぐらいいっぱいになっている風呂が好きだった。全身が温まっていく感じがする。


「あー、やっぱうちの風呂はいいなぁ。今住んでるトコさぁ、こんなに広くないんだよぉ」

 元口家の風呂は二人でも余裕! というほどに広々ではないが、入られないこともない。

 一人なら、当然広い。この広さは、桜音が気に入っていた。


「それにしても……」


 桜音は洗い場で身体を洗っているリリアを上から下までじっくりと眺めた。

 そしてにまーっと笑い、湯船の上縁面にアゴを載せる。


「……いい身体してんなぁ。出るトコ出ててさぁ」

「ありがとうございます。でも私、重量有りますので」


(重量……? 体重じゃなくて?)

 と桜音は思ったが、あまり変わらないし細かいことはあまり気にしない性格なので、思っただけで終わった。


「お姉さんも、凄くいいボディをしていると思います」


 リリアよりも細めで引き締まりつつも、出る部分は出ている。

 リリアが初めて生で見る人間の裸体だったが、

(大きい部分の多い自分のボディよりはバランスが取れている)

 と思った。


「あー、でもあたしの場合は見せる人、いねえからな。なっちゃんはあたしのは見たがらないしさぁ。言ってくれれば、いつでもかわいい弟のために脱ぐのにな。ま、リリアの身体はなっちゃんが喜んで見ると思うよ」

「成生さん、見ますか?」

「見る見る。なっちゃん、むっつりタイプだからな。見ちゃいけない! みたいな行動を取りつつ、こっそりガッツリ見ているタイプだ」

「そうなんですね」

「あたしはこうやってリリアの身体、堂々とガッツリ見るけどな! はっはっは!」


 風呂場に桜音の豪快な笑い声が響いた。


 身体を洗い終わったリリアが立ち上がると、桜音は身体を起こしてリリアが入るスペースを作った。


「おう、入れ入れ」

「失礼します」


 リリアが片足を入れると、湯船のお湯がザーッと溢れて流れ出して行きだした。


「すみません。お湯が勿体ないことになって」

「いや、いいんだよ。あたしがいつものクセで一人分でお湯張っちまったからな」


 リリアの両脚が湯船の中に入りしゃがんでいくと、溢れる勢いは更に増した。音を立てて滝のように流れ出していく。


「あー、お湯の音が心地いいなぁ……」


 かなりのお湯が溢れ出てしまったが、桜音は気にも留めてない様子。


 やがて水の音が止まると、湯船の中でリリアと桜音が向かい合うようにお湯に浸かった。


「で、なっちゃんはどうだい? 一緒に住んでみて」

「成生さんは……凄く優しい人だと思います」

「あー、なっちゃんは優しいね。あたしが見ても、そう思う。自慢の弟だよ」

「私に対して、一生懸命やってくれます。彼女がいないのが不思議です」

「あー……それ、多分あたしが原因。ほら、あたしはこんな性格だし、なっちゃんがかわいいから、いっつもベタベタしてるだろう? それに、なっちゃんをいじめようとする奴はあたしが撃退してたし。だから女の子を怖がってすこーし苦手意識っていうか、ちょっと距離を置きがちでな。だからいないんだと思う。これじゃあいかんと、あたしは大学に行くからって家を出たんだ。あたしが弟離れする意味でもな。でも心配だから、様子見に帰ってきたらリリアがいたもんで、ビックリしたけどな!」

「成生さんも、帰って来る! ってちょっと慌ててました」

「そうだろうな。ま、リアルな女に接するのが苦手なだけで、なっちゃんは女にはすげー興味あるからな! 安心していいぞ!」

「それは大丈夫と思います。最近、海陽みはるさんという女の子の友だちが出来ましたし」

「なぁにぃ!?」


 桜音が凄く反応したせいで、お湯がバシャッと音をたて、水面に波紋が広がる。


「と言っても、私と海陽さんが友だちになって、成生さんがそばにいるのでついでに、みたいな感じですが」

「いや、それでもなっちゃんには大きな一歩だ。リリアのお陰でなっちゃんも変わってきてるんだと思うぞ?」

「そうですか?」

「ああ。いやぁ、リアル女に苦手意識があるなっちゃんが、どうしてリリアと同居生活するようになったのかはよく分からんが、ありがとな」

「成生さんとの出逢いは……偶然ですよ」


 偶然看板を見付けた成生が、偶然お店に行き、偶然三人の中からリリアを選んだ。

 実に自然な流れの偶然だ。


「いいや、なっちゃんとリリアの出逢いは運命だよ。出逢うべくして出逢ったんだ。なっちゃんの為に降りてきた天使さ」

「天使だなんて……」


(ただのアンドロイドなのに……)

 そう思うリリア。

 リリアがアンドロイドだということを、桜音は知らない。


「だから我慢出来なくなったら、なっちゃん襲っていいぞ! あたしが許可する」

「……分かりました」

「いい返事だ。あたしも安心してなっちゃんを任せられるよ、うん」

 そのあとも、桜音とリリアの会話は続いた。




「大丈夫かなぁ……リリア」

 自分の部屋で一人、リリアの心配をしている成生。リリアに違和感を感じて、後で姉ちゃんに何か訊かれて、苦労するかもしれない。

 それを考えると落ち着いてはいられない。部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。


 それに、リリアが脱いでいる姿を想像してしまう。

 これは別の意味で落ち着かない。


 そこに、部屋着のリリアが現れた。火照った肌が少し艶めかしい。


「リリア、どうだった?」

 落ち着かない様子を見せないように、冷静にリリアへ訊いてみた成生。

「はい、お姉さんはいい人ですね。いっぱいお話しました」

「ヘンなことにならなかった?」

「それは大丈夫……だと思います」

「それならよかった」

 途中の間は少し気になるが。

「お姉さん、『安心してなっちゃんを任せられる』とも、話していました」

「それは……リリアが姉ちゃんに認められたってことかな?」


 どんな話をしたかは分からないが、仲はよくなったようだ。

 海陽といい、姉ちゃんといい、リリアは比較的人と仲良くなるのが得意なようだ。彼女型アンドロイドなのだから、人と仲良くならなければ何も始まらない。

 どんな彼氏でも。

 だから当然と言えば当然かもしれない。

 ちょっとうらやましい。


「そう言えば、成生さん」

「なに?」

「お姉さんが成生さんを襲う許可を出したのですが、『襲う』とは具体的にどのようなことをしたらよいのでしょう。あの場でお姉さんには訊けなかったので」


 いや、リリアに何を吹き込んでんだよ、姉ちゃん!

 どうやって話を逸らすか、成生はそれが一番苦労した。

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