第13話 専用コスチュームって偉大

「リリアさん。なんで?」

 成生は休み時間、リリアを呼び出した。


 ここは成生たちのクラスから少し離れた場所。

 なんとなく、人前では聞き出したくない感じがした。

 ただでさえ予測出来ない、リリア突然の転校。何を言い出すか、分からないので怖かった。


「え? 名前は白鳥しらとり麗子れいこの方が良かったですか? 転校生の定番の名前だと記録されていますが」

「そんなことは訊いてない。あさひヶ丘にリハウスしてきてないから」


 宮沢りえも、再びCMに出るとは思ってなかっただろう。


「リリアさん、なんでここにいるの?」

「私が学校に来たかったからです。ダメでしたか?」


 学校に来ようが、リリアはリリア。家といる時と様子が変わらない。常に平常心。


「本当にそれだけ?」

 それだけでわざわざ学校に転校して来るだろうか。

 ――ん? 転校? 学校移った訳じゃないのに?

 それは置いといて、成生は他に理由が有ると思っている。


「決め手になったのは、成生さんが学校より家がいいと言い出したことです」

「――うん。確かに言った。リリアがいるから家がいいと言った」

「なので、私が学校に来るようになれば、解決なのです!」


 と、リリアは真顔で言う。

 確かにそうだけど……。


「それだけで学校に来る?」

「私が行きたかったので、開発担当さんにお願いしてみました。学校に知り合いがいるそうで、なんとかなりました」

「なんとかって……」


 どうしたのか聞きたい気もするが、聞くのも少し怖い。

 なので、聞かないことにした。


「学校はいいけど……勉強とか、ついていけるの?」

「大丈夫です。事前に高校三年生までの知識を記録して来ました」

「……それ、学校に来る意味ある?」


 授業を受ける必要性がない気がする。


「開発担当さんも『学校生活を体験するいい機会だな!』と言いましたし、なにより私が成生さんと学校に行きたかったので……」


 うつむき加減で少し恥ずかしそうにするリリア。そんな姿は珍しい。


「ダメ、でしたか?」

「学校に来たかったのなら、しようがないなぁ」

 成生はリリアに弱かった。リリアにキラキラとした純粋な目で見られて、否定なんて出来る訳がなかった。


 リリアが学校に来るなら、成生にとって退屈な学校も少しは変化が起きるかもしれない。


 でも、

「ただ、学校で派手に目立つようなことはやめてね」

 成生は心配だ。


「目立つこと、とは?」


 リリアは存在自体が目立つ。この学校でもトップクラスの美人だと思うし、スタイルも凄くいい。男も女も、思わずリリアを見てしまうだろう。

 そんなリリアが更に目立つ行為と言えば、


「アンドロイドバレするとか」


 となるわけだ。


 リリアが人間じゃないとバレたら、何されるか分からない。

 一緒に生活してそこそこ経つ成生でも、アンドロイドであることを忘れるレベルで、リリアは日常生活でも自然な動きをしてはいるとは思う。もはや一人の女の子だと思っている。

 が、それでも心配だ。世の中、何が起こるか分からない。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

「そうなりそうになった時は、成生さんが教えて事前に止めてください。私、人間のことはよく分からないので、頼りにしています」

「頼られたんじゃあ、仕方ないな」


 上手くノせられた気がしないでもないが、何か起こった時にリリアを止められるのは、

(自分しかいない)

 のである。

 ここはノっておくのが正解だろう。リリアの正体を知っているのは、ここには一人しかいない。困っている女の子を放っておくような冷たい人間じゃあない。


「んじゃ、教室帰ろっか」

「はい。まだ学校の構造がよく分からないので、成生さんについていきます」

「ああ」


 成生とリリアは教室に向かって歩き出した。成生の隣、やや斜め後ろをリリアは歩く。


「成生さん。それにしても、制服ってコスチュームは苦しいものなんですね」

「そう? 普通は自分に合わせて買わない?」

「特に胸回りが」

「あー、それは普段のコスチュームと違って、リリア専用品じゃないからだと思うよ」

「上に合わせると、腰回りが凄く余ってしまい、腰回りに合わせると入らない……なので今のラインで妥協しています」

「リリアに合ってるあのガチャのコスチュームって、偉大なんだな」


 実用的なモノはなかなか出てくれないが。


「もっと身体にフィットする作りなら、いいのですが……」

「それだとオーダーモノになって高くなるんじゃないかな?」


 なんて話をしながら廊下歩いて教室へ向かっていると、トイレから出てきた小さな女子生徒と出くわした。ぶつかりそうになって、双方足を止めてしまう。


「あっ! 転校生と……ナリオくん?」


 見た目もかわいらしいが、声もかわいらしいこの子、確か同じクラスの人だった。

 名前は確か……。


瀬戸せと海陽みはるさん?」

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