第12話 家>学校

「ただい……ま!?」


 ある日、成生が学校から帰ってきた。

 リリアがいつものように出迎えてくれるリリアを見て、成生の動きが止まる。


「おかえりなさい、成生さん」

 出迎えるリリア。その姿は大きめのフリルが付いた白いエプロン姿だった。


(カワイイ……)


 とは思うが、それ以上に気になることがある。

「あの……リリアさん? まさか、そのエプロンの下は……」


 それは無いと思う。

 思うが、エプロン以外の衣類が見えていない。エプロン以外の部分が肌色だ。

 違うと思いつつ、リリアに訊いてみた。


「エプロンの下ですか? こうなってますよ?」

 そう言うと、リリアはクルッとターンをした。

「わっ!!」

 それを見た成生はつい顔を手で覆いつつ、指の隙間からリリアをのぞき見る。

 リリアの後ろ姿、エプロンの間から見えたのは、いつものタンクトップとショーパンだった。

 良かった……。そこに服が何も無かったら、どう反応していいか分からない。とりあえず、尻を褒め称えることしか出来なかっただろう。


「御覧のように、いつも通りです。それとも、何も無い方が良かったですか?」

「ブッ!!」

 思考を見透かされたような質問に、成生は思わず吹き出した。


 リリアはどれぐらい知っていて、何を知らないのか。

 そして何を体験させたらいいのか、改めて疑問に思う。


 分かってやっているのか。

 分からずにやっているのか。


 計算は得意なはずだが、どっちだ?




「今日の学校は、どうでしたか?」

 夕食中、リリアが訊いてくる。

 まぁ、大体毎日訊いてくるのだが。

 リリアは学校が気になっているみたいで、部屋に置いてある教科書を読んだりしているようだ。

 そんなに楽しい場所でもないのだが。


「うーん……何も無かったなぁ。ずっと早く帰りたいなぁ……と思ってたぐらい」

「帰りたい、ですか? せっかくの学校なのに」

「だって、家に帰ってきたらリリアがいるし。家の方が毎日新鮮だよ」

「学校はあまり変化が無いですか?」

「ないね。家の方がいいや。行かなくていいなら、ずっと家にいたいぐらい。早く夏休みが来て欲しいよ」

「そうですか……」


 リリアがちょっと元気ないような気がした。気になっている学校よりも家がいいって言ったせいだろうか。

 でも、事実だから仕方無い。


「成生さん。もし……」

「?」

「いえ、なんでもありません」


 それからリリアは学校のことに触れなかった。

 結局何を言いたかったのかは、この時は分からなかったのである。




 それからしばらく経ったころ。


 いつもの変わりの無い学校。

 いつもの変わりの無い教室。

 いつもの変わりの無い同じクラスのメンバー。

 変わるのは、日付と授業内容ぐらい。


 今日もまた、退屈な一日が始まる。

 そう思うと、アクビが出る。

 成生はそう感じていた。


 ――が、今日はちょっと変化があるらしい。


「おい、今日転校生がくるらしいぞ?」

「なにぃ!? マジか? 男か? 女か?」

「そこまでは分かんねえ」

「なんだよ。ガッカリさせんなよ」

「……もしかして、男がよかったのか?」

「………………いや?」

「なんだ? 今の間」


 クラスの男たちが話している。

 ヘンな時期に転校生来たな。

 まぁ、関係ないけど。



 その後、担任教師が入ってきて、話し出す。

「今日からこのクラスの仲間になる転校生がいる。みんな仲良くしてやってくれ」


 戸が開き、転校生が入ってきた。

 転校生は女子生徒だった。

 その美しさに、クラス全員が目を奪われる。


 が、クラスで一人だけ反応が違った人がいる。


「なん……で……?」

 成生は他の人に聞こえないぐらいの小さな声で呟く。

 口はぱくぱく。文字通り、開いた口が塞がらなかった。


 担任教師の横に来た転校生は、深々と頭を下げる。

「転校生の、東尾ひがしおリリアです」


 その転校生。

 朝、家にいたはずのリリアだった。

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