第4話 彼女、届く

 ラボで選んだ彼女は数日後に届くという。初期設定とかがあるのだそうだ。成生の情報も入力すると言うことで、紙に情報を記入したりした。やってることは最先端なのに、こういうところはアナログなんだな。

 それが終わると、成生は帰ることになった。

 随分と簡単な手続きだったが、これは現実なんだろうか。ちょっと不安になる。



 で、ちょっと心配になりつつ翌日同じ道を通ったが、目立つあの看板は無くなっていた。

 路地を入っていっても、研究所は無かった。

 頬をつねってみたが、ヒリヒリと痛みを感じる。これは夢ではない。


 じゃあ、昨日あの彼女を選んだのが夢?

 人造彼女の研究所が夢?

 それは分からない。

 だが、最後に老人はこう言っていた。


「おまいさんが望んだ時に、この店は現れる」


 と。

 今は望んでいないということだろうか。確かに一旦用事は済んだ。今のところ、行く理由も無い。

 建物ごと無くなるって、どういう仕組みになっているのだろう。謎の多すぎる研究所だ。そんなのは、メイドロボを研究していると言った時点で分かってたことだが。

 老人を信じて、もう少しだけ待ってみよう。




 それから数日後。

 成生が家にいると、インターホンが鳴った。

 出ると、見たことのない運送会社のお兄さん三人がかりで大きな箱を持ってきていた。箱が大きすぎることに定評のあるアマゾンでも、こんな大きな箱は来ないだろう。多分。

 その大きな荷物を玄関に置くと、お兄さんたちはサッと帰って行った。


「これって、あの時選んだ人造彼女……だよな?」


 伝票の品名には『雑貨』と書かれていた。これでは中身が分からない。

 受け取った本人が一番怪しんでしまったが、箱は人が入るような大きなサイズ。もし本物なら、中には成生が選んだ人造彼女が入ってるはずだ。

 まさか箱で来るとは思ってなかったが。


 玄関で開けるのもどうだろうと思った。だが三人がかりで持ってきた大きな箱は重すぎて、成生一人では全く動く気配が無い。

 その重さに、人造彼女が入っているという期待値が上がる。


「……ま、誰もいないし、いっか」


 成生は玄関で梱包を解くことにした。

 頑丈に貼られたガムテープをビッと剥いで、箱を開けてみる。

 中には緩衝材に埋もれたリリアが眠っていた。綺麗な姿は、研究所で見た時と変わらない。


 三人からリリアを選んだ理由として、育てるなら真面目そうなリリアの方が良さそうな気がしたからだ。別にギャルっぽいカーギが真面目じゃないとか、そんなことを言いたいんじゃない。育てるとなった場合、ギャルを育てる自信は無いし、羽の付いたルマキを育てる自信は、もっと無かったからだ。羽の付いた人とか、どう育てりゃいいんだ。

 なお、身体で選んだのではないということだけは、強く主張しておく。


 それにしても、落ち着いて考えてみたら目の前は軽くホラーな風景だ。開けた箱の中にとてつもない美少女が眠っているのだから。ちょっといけないことをしている気分になる。

 でも、これ以外配達方法は無かったのだろう。

 そう思うことにする。自分は間違ってない。


 で、彼女に選んだリリアと御対面。

 箱の中でもあの時と変わらず下着姿のリリア。眠っているので、ジッと見る。

 むちむちとした身体つきのリリアは、箱の中でちょっと窮屈そうに見えた。一刻も早く、出してあげたい気持ちになる。


「あの……起きてください。リリアさん」


 最初の起動は音声認証になっている。ラボでの初期設定で、成生の声でリリアがスリープモードから目覚めるようになっていた。他で悪用されない為だという。悪用って、何するんだろうな。


 老人の話だと、初期の起動方法は二つあった。


 まずは普通に音声認証。今やった方法だ。

 そしてもう一つは王子様の目覚めのキッス。


 なにもかもが未経験な成生は、音声認証を即決していた。

 例え経験があったとしても、眠っている女の子の唇を奪う勇気なんて無い。


 で、呼びかけたが、リリアの反応はない。音声認証が通ったなら、起きるはずだが……。


(ひょっとして、騙された?)


 と思っていると、リリアの目がカッと開く。

 思わず身体がビクッとなってしまった。やっぱり軽くホラーだよ。


「あ、おはようございます。成生さん」

 箱を覗き込んでいた成生の顔を見て、優しい声を発したリリア。

 切れ長の目で、整った顔立ち。凄く美人だ。人生でこのレベルの美人に逢うことは無いだろう。リリアを選んで良かったと思う。


「起きたね。おはよう、リリアさん」

「……ずいぶんと酷い寝床ですね。こんな箱の中とは」

「そこは寝床じゃないから」


(リリアさんの知識レベルって、どの程度なんだろう)

 今更気になった。

 愛と知識を育むと言ってたぐらいだから、リリアに知識が足りないのだとは思う。それが彼女型アンドロイドとしての知識が足りないのか、普通のアンドロイドとしての知識が足りないなのか、老人は語っていなかった。

 でも選んだ以上仕方無い。どちらであろうが、これからリリアを育てないといけないだろう。

 今の感じだと、後者っぽい気がするが。多少は知識あるよな? 寝床を知っているぐらいだし。



「狭いので、取りあえず起き……」

 箱の中で寝ていたリリアは違和感を感じたのか、顔を上げて自分の身体を見る。

 そして、おもむろに一言。

「――あの……なぜ、私は下着姿なのでしょう」

「それはね――」


 理由は知らない。老人は着せ替えの素体だと言っていたが。

 でも脱がせたとか、変な理由じゃない。

 成生は説明しようとしたが、


「――まさか成生さん、寝ている私の服を……」

 とリリアは言い出す。

 表情からは読み取れないが、不審に思ってる?

 まだ手は出していない! 本当だ!


「洗濯中?」


 成生はしばらくの間、リリアの知識レベルや思考が理解出来そうに無い気がした。

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