第3話 三人の彼女候補

 成生は老人に店舗奥の部屋へと案内された。

 表の店舗も薄暗かったが、ここはそれに輪をかけて暗い。

 そんな暗い部屋には、前面の一部が透けたガラスののぞき窓になっている円柱状のケースが並んでいて、いくつかは青い照明で照らされていた。この照明が部屋をぼんやりと照らしていて、なんとか見えている状態だ。


「さぁて、おまいさんの彼女選びだが……そうだな。おまいさんに貸し出せるのは、次の三人だな」

 そう語りながら歩く老人は、多数あるケースの中の、青く照らされたケースの前で足を止めた。そうなっているケースはいくつかあるが、この照明が点いているケースは、中身がいるという証のようだ。


「まず、ここにいるのがタイプAE、ルマキだな」

 ケースののぞき窓からは、金色でさらりとした長い髪の綺麗な女の子が見える。目は閉じていて、ケースの中で眠っているようだ。鼻筋の通っていて、滅多に見ることの出来ない美人だった。


(これが人造彼女なのか……)


 初めて見る人造彼女は、成生の想像以上に完成度が高かった。その透き通るような白い肌は、人間のものと変わりがないように見える。全く違和感が無い。

 人間に近いようでギリギリ届いていない姿を『不気味の谷』なんて言ったりするが、それを通り越して対岸に渡ってしまっている。

 このレベルの三人から選択とか、難しそうだ。


「ん?」

 成生はルマキの後ろに何かが有るのが見えた。

 それは白くフワッとしたもの。通常、人間には付いていない。

「これは……羽?」

「ツバサだな」


 どっちも一緒では?

 とりあえず普通の人間には無い。

 もし付いているとするなら、その人はもう完全にTHE ALFEE高見沢かZAZYだろう。


「なぜツバサ? レッドブルでも飲んだんですか?」

「それは開発担当者じゃないと分からん」

「開発者って、おじいさんじゃないんですか?」

「わっしは引退した身だ。今は若手に任せておる。ここまでの完成度は出せんからな」

「ツバサの?」

「いや、外観だ。美人だろう? わっしじゃ、ここまでのモノは出来ぬ。ま、技術者というモノは、すぐ変な機能を付けたくなってしまう癖があるからな。自分の技術力を誇示する為に」

「そうですか」


 ツバサは、間違いなくヘンだ。技術力の誇示ということは、飛べたりするのだろうか。そうなったら、それはもう人間じゃない。


「わっしも付けたくなるからな。いらない機能と分かってても」

 どんな機能だろう。老人の世代なら自爆装置とかかな?


 そんな事を考えながら、ルマキを見る。

 その綺麗な顔とツバサに気を取られて最初は気付かなかったが、目線を落とすとルマキは赤みがかったオレンジ色の下着しか身につけていなかった。


「わっ!」

 そんな彼女の姿に、成生は思わず目を逸らしてしまった。

「なんだ、下着姿ぐらいで。小学生でもそうはならんだろう」

「だだだって、裸ですよ!?」

「ブラとパンツは着けておろう。きせかえの基本素体と思えばいいじゃあないか」

「学童文具コーナーに有るきせかえだって、水着だったりキャミソールだったりするじゃないですか!!」

「――随分詳しいな、おまいさん。だが、昔98でやったきせかえだと、服を取ったら下着だったがなぁ」

「98?」

「昔あった、夢のマシンだよ。メモリを600K以上空けるのが、一流のユーザーだったのさ……」


 老人を見ると、遠い目をしていた。98とやらはよく分からないが、技術者がそう思うマシンがあったのだろう。


「ま、彼女候補はまだ2人いる。ゆっくり決めるといい。次を案内しよう」

 成生は歩き出した老人についていった。



 次のケースのところにやってきた。ここもルマキと同じように青く照らされている。

「この子はタイプVA、カーギだ」

 次の子はアッシュグレーな巻き髪の女の子。開いたらパッチリしてそうな目をしていた。

 端的に言えば、ギャルっぽい印象を受ける。

 そして下着は赤。今度は目を逸らさないように、しっかり見る。すごくスタイルのいい子だった。


「口元が緩んでおるぞ、若者。これか?」

 老人は両手を胸の前で前後に動かした。何が言いたいかは分かる。カーギのそこを最初に見てしまったし。なかなかに大きいと思う。

「そ、そんな。赤い下着なんて、そんな見ないなと思ってるだけで……」

「オレンジの方が見ないと思うがな」

「いやぁ、下着姿の女の子を生で見るのは初めてだから、その辺はよく分からないんですけど」

「そうか。でも、彼女として気に入ってはいるだろう? さっきと反応が違う」

「ま、まぁ……ギャルって接点ないから、付き合ったらどうなんだろうと思って」

「確かに珍しいかもしれんな。おまいさんみたいな人とギャルはな」


 それにルマキと違ってツバサも無いし、まだ普通っぽい。ルマキとカーギから選ぶのだったら、間違いなくカーギだろう。

 しかし候補はあと一人いる。それから決めてもいいと思う。三人目が良かったーっと、後悔はしたくない。



 3人目のケース前にやってきた。

「最後はタイプAP、リリアだ」

 長くてつやの有る黒髪の女の子で、透き通るような白い肌。この子も成生にはもったいないぐらいの美人だった。

 下着は赤い差し色が入った黒。下着が黒と言うだけで、なんだかセクシーに見える。

 そしてその下着は、カーギよりもボリュームがあるものを包み込んでいた。


「リリアはやや古めのタイプでな。古めと言っても一年経っちゃおらんが。その頃の技術で造っているから少し重めのアンドロイドになっておる。その重さに違和感が無いように、ちょーっと肉付きのいい身体をしておる。見た目と重量を合わせるのは、開発者のこだわりだな」


 言われると、ルマキやカーギよりも全体的に少しむっちりめな身体をしている。その柔らかそうな肢体は、女の子との接点が無い成生には刺激が強すぎた。


「いやぁ……なんというか……」

「また口元が緩んでおるぞ。さっきよりもひどい」

「ところで、彼女たちの性格はどうなんですか?」


 外見は申し分ない。ルマキを除いて。いや、彼女自身は凄く美人だ。ただ、背中にツバサが有るのが……。

 あとは中身だ。


「言っただろう。愛と知識を育んで欲しい、と。いいも悪いもおまいさん次第だ」


 つまり、三人とも凄くピュアだと。

 リモコン次第じゃなくて、成生がどう育てるかでよくもなるし、悪くもなる。


「だからこそ、初々しいおまいさんが学習サンプルに丁度いいんだ。幅広くデータが取れるからな」

「学習サンプル、ですか……」

 褒められている気はしない。

「さて、どうする? 三人の彼女候補だが」


 えっと……。

 三人から選ぶなら……。


 少し悩んだあと、成生は彼女を決めた。

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