僕のことを好きな君が好き

真摯夜紳士

僕のことを好きな君が好き

「ごめん。待たせちゃった、かな」

「う、ううん! ほんとに来てくれると思わなかったから……嬉しい」

「……あー、この手紙って君が書いたんだよね?」

「そう、です。あ、あの、話す前に扉を閉めて貰っても、いいですか」

「そ、そっか。だよね。ごめん、気が利かなくて」

「いいんです。こっちが呼び出したんだし、神田かんだくんが謝ることなんて。私の方こそ、いきなり驚かせちゃって、ごめんなさい」

「ぁいや、そりゃあ机の中の手紙を見た時は驚いたけど……でも、放課後までに気付けて良かったよ」

「んと、神田くんって登校したら教材を引き出しに仕舞うでしょ? それで授業が終わったら鞄に戻すから、最後は見つけてくれるんじゃないかって、朝一番で入れておいたんです」

「え、あ、そうなんだ……他クラスなのに、そんな癖よく知ってたね。えっと」

まい。二年E組の上城かみしろまい、です。私、神田くんのこと、ずっと見てたから」

「……あー、うん。でさ、手紙の内容なんだけど」

「読んで、くれました?」

「告白したいことがあるから来てください、って。ここの教室、初めて入ったよ」

「余ったり傷ついた机とかを置いてる教室みたいです。人気の無いところを探してたら、偶然見つけて」

「ふぅん。なんだか秘密の部屋みたいで、得した気分だ」

「……それで! その、告白、なんですけど」

「ああ、緊張しなくたって平気だよ。別に、変な勘違いとかしてないし」

「ぇ……?」

「好きとか、そういうんじゃないんだよね。はは、自分で言ってて気持ち悪いな。僕、今まで全然モテなかったから」

「ちち、違うんですっ!」

「……え、何が?」

「ここに神田くんを呼んだのは、その、誰にも邪魔されない場所で二人きりになりたくて」

「だから他の人には言えない告白ってことだよね」

「そうだけど! そうじゃなくて……私、あなたのことが好きなんです!」

「………………」

「罰ゲーム、とかじゃないですよ。本気で、神田くんが好き。ずっと前から気になってて、ようやく言おうって決心したんです」

「上城、さん……?」

「あ、私ばっかり話して、ごめんなさい。色々、聞きたいこと、あるよね」

「……そ、それじゃあ……どうして僕のことを」

「好きになったか、ですか?」

「う、うん……」

「本当に小さな、きっかけ。人を好きになるのって、それで十分だと思うの」

「きっかけ?」

「きっと神田くんは忘れてる。そんな些細なことでも、私にとっては大切な思い出。その気持ちが膨らんで、好きになったんです」

「……初めて言われた」

「良かった。初めて来た教室と合わせて、これで二つ目。ふふふ」

「う――僕、可笑しかった?」

「違くて、その、嬉しいんです。幸せで。ようやく一つ、夢が叶いました」

「っ……か、上城さんは、いつから僕を知ったの?」

「それは……」

「それは?」

「あ、神田くん、最近になって格好良くなったよね。ぁや、元から格好良かったけど! 前より明るくなったって言うか――」

「それは無いと思うけど」

「ううん。神田くんは知らないだけだよ。女子の間じゃ結構モテてたんだから。特に新学期になってからは。それで私、余計に焦っちゃって」

「そ、そうだったんだ……」

「他に訊くこと、あるかな。って言われても、思いつかないですよね」

「……僕、上城さんのこと何も知らないけど、いいのかな」

「そういう真面目なところも、好きです。私だったら、神田くんを満足させてあげられる。好きになって貰えるような女の子になるから」

「――――」

「だから私を、彼女にして、貰えませんか?」

「急に、いきなりで、その」

「お願い。ダメ、ですか?」

「ぐ……ぅ……むしろ、僕でいいの? 幻滅すると思うよ、たぶん」

「え、何で、そう思うんですか」

「だって、上城さんとは同じクラスになったことも無いし、僕自身が地味で粗だらけの人間だからさ」

「私、神田くんのことなら何でも好きになれます。あなたが良いんです。あなたじゃないと、嫌なんです。どんな時だって味方になってあげる。そう決めたの」

「味方に?」

「これからですよ。お互いのことも……い、色んなことも……これから知っていけば、いいんです。私のこと、神田くんには沢山、知って欲しいな」

「色々と、これから」

「地味で可愛くない私ですけど、神田くんと釣り合うように頑張るから」

「もう、十分だよ」

「え……?」

「試すようなことを言って、ごめん。こんな僕で良ければ、上城さんの彼氏にしてください」

「……『上城さん』だなんて。舞って呼んで欲しいな」

「い、いや、それはちょっと……」

「恥ずかしがらないで。私も、その、照れちゃうけど、慣れるから。と、とと、智久ともひさくん」

「舞、ちゃん」

「ふふ、ぎこちないね、私達。あ、そこの椅子に座ろ?」

「う、うん……」

「こうしてると、同じクラスみたい。智久くんが前の席で、休み時間の度に振り返って話すの。本当に……そうなら、良かったのに」

「ひょっとして、震えてる?」

「……その……すごく、不安で……やっと彼女になれたのに、伝えたいことが多すぎて……上手く、言葉にできないの」

「舞ちゃん」

「せっかく智久くんとお話できるのに……伝えたいことが、言えなくて。退屈させてないかって、今も不安で。あなたを喜ばせたいのに」

「大丈夫、落ち着いて。僕は居なくならないから。ゆっくり話していこう」

「うん……うん……ありがとう。そういう優しいところも、変わらないね」

「そ、そうかな」

「そうだよ。ずーっと昔から、変わらない」

「……やっぱり僕、どこで舞ちゃんと会ったのか、知りたいな。ちゃんと思い出して、二人のエピソードにしたい」

「聞いても、彼女のままで居させてくれる?」

「もちろんだよ。僕、自分を好きだって言ってくれる人が居なかったから、話を聞くだけでも嬉しいんだ。もっと舞ちゃんのことが好きなれると思う」

「……わかった。じゃあ、話すね」

「うん」

「初めて出会ったのは、小学校の三年生。ウチのお父さん、転勤が多くて、私も引っ越しばかりしてたの。智久くんとは同じクラスで、集団登校も一緒にしてたんだよ?」

「……転校生」

「そう、結局一年も居なかったんだけどね」

「ごめん、まだ思い出せない」

「仕方ないよ。私、今より太ってたんだもん。顔も体も丸くて……だから、男子にも女子にも、からかわれてた。ほとんどイジメ。言われた私は忘れない。でもね、智久くんだけは味方になってくれたの」

「僕が、味方に?」

「やめようよ、って一言だけ。それでも格好良かった。ヒーローなんかより、ずっと。それでね、また戻ってきて、次に会ったのは中学二年生の頃。顔と名前で、すぐに智久くんだって気付いたよ」

「え、でも僕は」

「同じクラスにならなかったし、遠くから見てるだけだった……今日まで膨らんだ気持ちのまま。友達から智久くんの志望校を聞いて、私も同じ高校に」

「高校まで合わせてくれたんだ。長かったね」

「いいの。こうして彼女になれたんだから。もう、見てるだけじゃないんだよね?」

「そう、なるのかな。うん」

「……本当に……嬉しい……ぅ……」

「舞ちゃん」

「ぁ、手が……」

「嫌だった?」

「ううん。こうして頭をなでられるのも、夢だったの」

「いつくもありそうだね、夢。一つずつ叶えていこう。僕達二人で」

「…………」

「舞ちゃん?」

「……その前に、許して欲しいの。中学二年から、今までの酷い私を」

「許す? どうして」


「智久くんが告白されなかったのは、私の所為。勝手に合成写真を作って、あなたを好きになりそうな子に見せてた。嘘をついたんです。智久くんのことを何も知らないくせにって、独り占めしたくて。いつも生徒手帳に入れてる、この写真を」


「――――ッ」

「隣の女の子は、雑誌で切り抜きました」

「こんなことしたら、舞ちゃんは!」

「……もし、智久くんと並んでるところを見られたら、諦めさせた女の子に嫌われると思います」

「それで、いいの? 下手したら、またイジメにだって遭うかもしれないのに」

「誰に嫌われたって構わない。智久くんだけが味方になってくれるなら。好きなの。どうしようもなく、好きなんです。この気持ちは、もう押さえ切れない」

「そんな遠回りしなくたって、直接告白してくれれば、僕だって」

「……そう、ですよね。彼女になった、今になって……こんな風に謝るなんて……でも怖かったの! 振られるんじゃないかって考えたら、私!」

「そう感じてるなら謝ろう、舞ちゃん。僕にじゃなく、嘘ついた人にさ。許すのは僕じゃない。僕だって嘘をつくけど・・・・・・・・・・、こんな形はダメだよ。二人が幸せにならなきゃ。写真で騙しても、僕を好きでいてくれたのは舞ちゃんだけだった。それが今、大事なんだと思う。僕は君を幸せにしたい」

「智久、くん……ぅ……」

「謝るのが怖いなら、僕も一緒に行ってあげるよ」

「……ううん。これは、私と智久くんが幸せになるのに、必要なことだから。私一人で行ってきます。ここで待ってて、くれますか?」

「もちろん。行ってらっしゃい」

「はい! 行ってきます!」


これからも・・・・・、よろしくね、舞ちゃん」

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