第7話 コース帰りの常連さん

 短い練習の時間を終え、瑠利はゴルフクラブを片付け始める。


 今日のところは初日とあって、これで終了。

 あとは、ルールなどの勉強に充てる予定であったが、そこへ佳斗から声が掛かる。


「ルリちゃん、汗をかいただろうから、シャワーでも浴びてきたらどう?」


「えっ、いいんですか?」


「もちろんだよ。身体が冷えて風邪を引いても困るし、着替えだけでも必要かな。それとシャワーから出たら軽くストレッチをして、身体をよくほぐしておくんだよ」


「はい、わかりました」


 そうして瑠利がシャワーを浴びに母屋へ戻っていくと、それに合わせるかのようにお客さんが入ってきた。


「よう、相変わらず暇そうだな」


「ははは、まあ、いつものことですよ。それよりも、葛城かつらぎさん。今日はどうでしたか?」


 佳斗がそんな言葉を交わす相手は、ゴルフ帰りの常連さんだ。

 彼は名前を葛城たける(48歳)といい、朝もボールを打ちに来て、本コースからの帰りにも立ち寄ったのである。


「いや~、それがな。今朝はそうでもなかったんだが、コースへ出てからティーショットが右に行っちまって、大変だったんだよ。悪いんだが、少し見てもらえるか?」


 そう尋ねる彼に佳斗は「ええ、いいですよ」と、快く返事をし、ついでに「球数はいつもと同じでよろしいですよね」と、確認。


 すると彼も「ああ、頼む」と、これで交渉成立。


「陸斗! 三十球入りを持ってきてくれ」


「は~い」


 と、父から頼まれた陸斗が、指定の球数の入った籠を運んで来るまでが定番の流れだ。


「どうぞ」


「おう、リクト。いつも、ありがとうな」


「どういたしまして。お代は三百円です」


「ほれ、気をつけて運ぶんだぞ」


 猛からポンと渡された百円玉三枚を、陸斗は丁寧に両手で包みレジへ運ぶ。

 金額的には大したことないが、お金は大切なもの。

 幼いながらもそれを理解している陸斗は、それをレジにしまい、ホッと一息ついた。


 そして休憩から戻ってきた美里と受付を代わり、陸斗は何か手伝うことはないかと、辺りを探す。

 すると、目に映ったのは、父が常連さんに指導する姿だ。


「う~ん、見た感じ問題は無さそうですね。少し左膝が流れているようですが、ウエッジの時は良いので、原因は力が入っているか、もしくは疲れているかでしょう。休めば戻ると思いますので、無理な練習で変な癖をつけるよりかは、軽く振ってほぐす程度で済ませてはいかがですか?」


 そう説明する佳斗に猛は、思い出したかのように頷いた。


「ああ、そういや……、最近は忙しくてな。残業続きで気分転換にと思っていたんだが、逆効果か」


「はい、そういうこともありますね。楽しむゴルフであればいいですけど、スコアーを求めると、体調は影響出ますから」


「よし、わかった。今日はこれだけ打って、帰るとしよう」


「それがいいと思いますよ。休んで、まだ改善されないようでしたら、また声を掛けてください」


「あいよ、ありがとさん」


「どういたしまして」


 その後、ショートアイアンとウェッジを中心にボールを打ち、猛は佳斗に「またな」と一声かけて帰っていった。


 その様子をずっと眺めていた陸斗は、「お父さん、カッコいい」と、嬉しそうにするのだった。

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