第7話 コース帰りの常連さん
短い練習の時間を終え、瑠利はゴルフクラブを片付け始める。
今日のところは初日とあって、これで終了。
あとは、ルールなどの勉強に充てる予定であったが、そこへ佳斗から声が掛かる。
「ルリちゃん、汗をかいただろうから、シャワーでも浴びてきたらどう?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんだよ。身体が冷えて風邪を引いても困るし、着替えだけでも必要かな。それとシャワーから出たら軽くストレッチをして、身体をよくほぐしておくんだよ」
「はい、わかりました」
そうして瑠利がシャワーを浴びに母屋へ戻っていくと、それに合わせるかのようにお客さんが入ってきた。
「よう、相変わらず暇そうだな」
「ははは、まあ、いつものことですよ。それよりも、
佳斗がそんな言葉を交わす相手は、ゴルフ帰りの常連さんだ。
彼は名前を葛城
「いや~、それがな。今朝はそうでもなかったんだが、コースへ出てからティーショットが右に行っちまって、大変だったんだよ。悪いんだが、少し見てもらえるか?」
そう尋ねる彼に佳斗は「ええ、いいですよ」と、快く返事をし、ついでに「球数はいつもと同じでよろしいですよね」と、確認。
すると彼も「ああ、頼む」と、これで交渉成立。
「陸斗! 三十球入りを持ってきてくれ」
「は~い」
と、父から頼まれた陸斗が、指定の球数の入った籠を運んで来るまでが定番の流れだ。
「どうぞ」
「おう、リクト。いつも、ありがとうな」
「どういたしまして。お代は三百円です」
「ほれ、気をつけて運ぶんだぞ」
猛からポンと渡された百円玉三枚を、陸斗は丁寧に両手で包みレジへ運ぶ。
金額的には大したことないが、お金は大切なもの。
幼いながらもそれを理解している陸斗は、それをレジにしまい、ホッと一息ついた。
そして休憩から戻ってきた美里と受付を代わり、陸斗は何か手伝うことはないかと、辺りを探す。
すると、目に映ったのは、父が常連さんに指導する姿だ。
「う~ん、見た感じ問題は無さそうですね。少し左膝が流れているようですが、ウエッジの時は良いので、原因は力が入っているか、もしくは疲れているかでしょう。休めば戻ると思いますので、無理な練習で変な癖をつけるよりかは、軽く振ってほぐす程度で済ませてはいかがですか?」
そう説明する佳斗に猛は、思い出したかのように頷いた。
「ああ、そういや……、最近は忙しくてな。残業続きで気分転換にと思っていたんだが、逆効果か」
「はい、そういうこともありますね。楽しむゴルフであればいいですけど、スコアーを求めると、体調は影響出ますから」
「よし、わかった。今日はこれだけ打って、帰るとしよう」
「それがいいと思いますよ。休んで、まだ改善されないようでしたら、また声を掛けてください」
「あいよ、ありがとさん」
「どういたしまして」
その後、ショートアイアンとウェッジを中心にボールを打ち、猛は佳斗に「またな」と一声かけて帰っていった。
その様子をずっと眺めていた陸斗は、「お父さん、カッコいい」と、嬉しそうにするのだった。
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