オレンジ色で書き殴られた遺書

◇手帳メモ欄を埋め尽くして記されたオレンジインクの遺書◇

◇ドキュメントで口述されたものと同一と思われる。◇



初めは間違えたのかと思った。

間違えてはいけないし、間違うはずはないだろうと。

でも、口から出る言葉は違っても、自分の名は間違いないと言えた。

それですっ、と あ々、消えるのか、と思った。


一番、嫌がって、拒んでたのは自分なのに、ずいぶんすんなりと

受け止められて、驚いたけど、

少し、「自分が分からなくなった事を知った本体はこんなだったのかな?」と思って嬉しかった。

同じだな、と思って、不思議と嫌じゃなかった。


とけるように、忘れるのより、自然に消えそうだと思った。


ほどけるみたいに、紐が意図へと戻るのかニ(解読不能、形状の似た文字を入力)

ラムネが口でなくなるのかは分からないけど、

そんなかんじに気持ちよく消えそうな気がした。


始め七十と間違えたのかと思った。

全然違うのに、同じにだったから、

七十にとけるように、いなくなるのかと、

たぶん、七十の主張が強かっただけだとは思う。


自分たちは知らないことが多すぎた。

多■(解読不能)?幸?感にふわふわするのに、

流れを感じた様な、一寸のこわばりに、

ふと「こわいなぁ」と言っていた。

本当に怖いんだと思う。さみしくて、でもしかたないと思っているんだろうと、

自分達は、名前と言葉と自分を知らないんだと思う。

感情を表すことを理解できないから、

その不安から傷を作っていたんだろうと。

すっと、怖いと言った時、納得したし、安心した。

分かった事と、自分達が不完全であったことに、ほっとした。

でもやっぱりさみしい。


だから、左耳をください。

左耳に穴を開けて、深い赤のピアスをつけて、もらっていきます。


俺がいつ消えるかは知らないけど、

俺が、開けるかは分からないけど、

もし、消えていたら、開けて下さい。

 左耳はもらっていきます。          栄太郎

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