第16話 そつない君とお出かけ②

紀美野が俺の連絡先を聞いた下りから、話題はクラスの女子の話に移っていった。俺と修介は、どうやらレモンスカッシュを飲み終わって手持ち無沙汰になったらしい


「にしてもよー、なんかうちの学校ってレベル高い女の子多くね?」


「あー、まあな」


 創は単純に嬉しそうに笑い、修介は何人かを頭に浮かべるかのように、天井を数瞬見上げて同意した。恐らく女子側からは、こういう話題になった時、真っ先に槍玉に上がるだろう二人である。


「新宮さんとか、うちのクラスでも、高野(たかの)とか、それこそ紀美野さんも?紀伊さんとかも可愛いしさー」


 最近俺の周りでよく聞く名前ばかりが出て、なんだか居心地が悪い。高野というのは、紀美野や紀伊さんが所属しているグループのボス的存在。校則違反ギリギリまで明るく染めた髪に、大胆なまでに巻かれた髪と、威圧感のある美貌が特徴だ。

 そして、紀伊さんを冷やかした張本人でもある。言わずもがな、俺が苦手なタイプである。


「鼓星は誰がタイプ?」


「ん?学校でか?」


「そーそー、そういやあんまそんな話したことなかったじゃん?」


「そうだな…まだあんま性格とか分かんないから、顔だけになるけど…」 


 俺は、少し考え込む素振りを見せる。心の中では、答えは決まっていたのだけれど。


「白浜さん、かな?」


 美羽姉を苗字で呼ぶ違和感が凄いけれど、嘘は言っていない。子供の頃から、美羽姉が女子の基準なのだ。周りの女子の好感度が、一律にプラマイゼロな今、美羽姐が一位なのは当たり前だ。


「あーー、白浜さんかあ。確かに、顔だけだっていうなら、抜けてるかもなあ」


「鼓星のタイプはああいう感じなんだな」


「やかましい、俺だけなのは納得がいかないから、お前らもキリキリ吐け」


 言外に、性格を含めたら選外になると言われている美羽姉に、内心で笑いを堪える。中学時代は、顔も性格も完璧で憧れの的だとか言われてたとは思えない。まあ、高校入ってから一言も喋ってないから、当たり前といえば当たり前だが。


 「俺は全員愛してるから選べない」だのほざいた創に、修介が呆れたように笑い、誤魔化しやがったのがムカついたのを抑えた俺が肩をすくめる。

 

 おやつの時間が近づいたせいか、次第に混み始めた店内を見て、会計を済ますと、次は駅前のカラオケに向かった。

 六時ぐらいまではここにいるだろうと、中々の美声でRADWIMPを歌う修介を尻目に、紀美野への返信を打ち込む。


鼓星『別に構わないけど、どこに行くつもり?」


咲葉『イオン』


鼓星『何しに?』


咲葉『きーちゃん変身大作戦のためだよ!』


 それをわかった上で何をするかと聞いているのだが。なんだか投げやりな気分になって『了解、集合場所と時間だけ教えてくれ』と打ち込んだ。そろそろ、俺の歌う番がやってくる。


 そういえば、紀美野は一体どうやって新宮を呼び出したのだろうと思いながらマイクを持った。


**************************


 翌日、全国的な休日の日曜日。そんな、二度寝に沈みたい午前十時。俺は、人で混み合うショッピングモールの正面入り口前に立っている。


 昨日は、カラオケに三時間居座った後、油そばを食べて七時半には解散したので、幸いあまり疲れはない。


 かといって、今日の疲れを考慮したら、明日から始まる一週間の学校生活が心配になるレベルだった。


「あら?早いのね」


 コメダ珈琲の前の柱に背を預けてスマホをいじっていた俺に、見知った声が浴びせられる。


「ああ、そっちもな。新宮」


 現れたのは、休日だろうと、眠気も隙も一切見当たらない。凛とした、新宮蛍だった。

 時刻は、九時四十五分。紀美野が指定したのは、朝十時にイオンの正面入り口。それを考えると、早いと言っていい時間だった。


 白地に緑色の花が散ったワンピースの上に、デニムジャケットを羽織り、定番の紺色のコンバースを履いている。

 上品さと、活動的な雰囲気を兼ね備えた、なんとなく彼女らしいなと思う格好だった。いつもと違って、髪を一纏めにしているのも活動的な雰囲気に一役買っているのかもしれない。


 新宮は、柱の俺とは違う面に背を預けると、肩から下げたミニバックから文庫本を取り出して、無言で視線を落とした。どうやら、会話をして暇を潰す気はないらしい。


 俺も同様にしようとは思ったが、一つ気になることがあったので声をかけることにする。返事くらいはしてくれるだろう。


「なあ、新宮。お前はどうやって呼び出されたんだ?別に紀美野と親しくないだろ」


「唐突に連絡先が追加されたのよ。多分、私の級友の誰かから聞いたんでしょう。彼女、入学から間もないというのに、随分と顔が広いのね」


 文庫本から目を離さず、平坦な声で新宮はそう言った。確かに、紀美野は分け隔てないタイプの人間だが、すでに別のクラスまで交遊の場を広げているとは。


「あー、俺も同じ感じだ。いきなりすぎんだよな」


「そうね」


 そこで、完全に会話が途切れる。やはり、積極的に会話をする気はないらしい。話しかけたら、最低限会話はしてくれるといった程度だろうか。


「(うーん、まじでなんかしたかねえ)」


 どう考えても、紀伊さんや紀美野への態度を見ても、俺への当たりが強い。元々人当たりがいい方ではないと思うが、俺には随分と態度が刺々しい。


 入学してから、関わることはなかったと思うし、記憶を洗い直してみても心当たりはない。生理的に無理とかだろうか。


 一旦、会話は諦めてスマホをいじる。集合時間まで、後五分ほど。もう、残り二人が来てもいい頃だ。


「おっはー!」


「おはよう…」


 結局、紀伊さんと紀美野が来たのは十時を少し過ぎた頃だった。


「おはよ」


「おはよう」


 俺はスマホから目を離し、新宮は文庫本をミニバックに仕舞う。これで全員が揃ったことになる。紀美野は、日高先生も誘ったらしいが「休日は勘弁してくれ」と言われたらしい。彼にも家族サービスがあるので仕方ない。


「さて、行こっか!」


「ちょっと待て」


 全員の顔を順繰りに見た後、紀美野は元気よくそう宣言し、施設内に向かって行こうとするが、俺がそれに声を被せて制す。


「もう、何?」


「いや、俺だけなのか?今日何するか、一切説明されてないから教えてくれ」


「私もよ。確かに、説明して欲しいわね」


「咲葉…説明してないの…?」


 紀伊さんの呆れたような声に、紀美野は「あはは」と誤魔化すように、から笑いをする。どうやら本気で忘れていたらしい。


「ズバリ、今日の目的は、きーちゃんを全力で可愛くしよう!だよ!」


「「は?」」


 俺と新宮の声がハモった。紀伊さんが、ため息と共に顔を覆う。日曜日は、まだ始まったばかり。


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