第16話 心開いて、言葉交わして


「あとは二人できちんと話すことだな」

「あはは。痴話喧嘩は良いけど、ほどほどにね~」


 最初から最後まで表情を崩すことのなかったクラウスと、始終良い人でちょいちょいフォローを入れてくれていたジャンくんの二人は、そんな風に言いながら公園から去って行き、その場には私とヴィオリーチェの二人が取り残された。

 痴話喧嘩!?痴話喧嘩って…!!!?ちょっと!どんな顔すればいいの!?


「…………」

「…………」


 私は当然気まずかったし、どうやら私が虐められていると勘違いしてブチ切れながら突っ込んできてしまったらしいヴィオリーチェも何だか気まずそうだ。(それは私はちょっと嬉しいけど……)

 私は私で、恐らくヴィオリーチェはヴィオリーチェで、何を言えば良いのかわからなくてお互い黙ってしまっている。

 しかし、お互いにこうしてずっと黙っているのは……………相当に辛い…。


「…………あ、あの……」

「…えっ、ええと………」


「あ」

「あ」


「……………」

「……………」


 だ、ダメだ…。

 同じタイミングで声を出してしまって、お互い引っ込めてまた黙ってしまった…!

 これじゃダメだ!ええい!遠慮してる場合じゃない!行ったれ!


「ヴィオリーチェ!」

「…は、はい?!」

「クラウス…先輩が言ってたことなんだけど……」

「………」

「ご、ごめんなさい!!!」

「!?」


 私は土下座する勢いで思い切り頭を下げた。

 ヴィオリーチェの驚いているような気配は感じる。


「私、ヴィオリーチェに嫌われたとか…見捨てられちゃったみたいに感じて…、勝手に凹んで、ウジウジして、みんなにも心配をかけてしまって…、…それで、なんか…こんな感じに……なって……しまいまして……」


 最初は勢いに任せて話始めたけれど、段々声が小さくなっていってしまっているのがわかる。

 頭を下げたまま、顔は上げられなくて、ヴィオリーチェの顔を見られない…。怒っているだろうか。呆れているだろうか…。


 ぺちん。


 そんな音が聞こえるのと同時だった。

 私の両頬はヴィオリーチェの手で挟まれていた。そして、そのまま顔を上に向けられる。


「え」

「わたくしの方こそごめんなさい」

「…!?」

「……わたくし、本当は……貴女のことを凄い人だって思えば思うほど…どんどん自分のことが情けなく思えてしまったの」


 一瞬、彼女の言う言葉の意味が理解できなかった。ヴィオリーチェが…? 私が凄いって…?ナンデ?????


「…わたくしはずっと自分のことしか考えていなかったのに、貴女はわたくしの為に、自分のことを全部後回しにしてくれて…。それで、わたくし…自分のことが恥ずかしくなってしまって…」

「…ヴィオリーチェ…」

「だから、貴女に魔法を教えるのを休みたいと言ったのは…、あの時は貴女の為…みたいに言いましたけれど、本当は………わたくし自身が少し距離を置いて頭を冷やしたかったと言うのが本音でしたの。…またこうやって自分のことばかりで…本当に情けないですわね…」


 そんな風に自嘲気味に言うヴィオリーチェ。

 情けなさを感じていたのは自分の方だって気持ちはあった…けれど、そんなことより、彼女にこんな風に思わせてしまった自分に対して怒りすら沸いてきてしまう。

 私は彼女に、こんな顔をさせたかった訳じゃない…!


「情けなくなんかないよ、ヴィオリーチェ」


 私の頬を抑えたままのヴィオリーチェの手に自分の手を重ねて、私は彼女の目を見たままはっきりと言った。


「アルカ…?」

「違うの、ヴィオリーチェ。自分のことばっかりだったのは私の方なんだ」

「え?」

「ヴィオリーチェに死んでほしくないからそれを優先しなきゃって思うのは勿論あるんだけど……、でもね…、それ以上に、ヴィオリーチェに魔法を教わってる間は一緒に居られるからそれが嬉しくって……えーと…」

「………」

「だ、だからね!ヴィオリーチェと一緒にいる時間が、楽しかったの!」


 ああ、もう…。こんなのどうしたって告白みたいになっちゃう…!

こんなこと言っちゃって、ヴィオリーチェがどんな反応をするのかがやっぱり怖い…。でも今更誤魔化すわけにもいかないから、全部全部本音を伝えた。

 ヴィオリーチェの瞳は少し潤んでいて、彼女は彼女でとても思い悩んでいたんだってことが凄く伝わってくる。


「…………わたくしは、少し難しく考え過ぎていたのかも知れませんわね………」

「…え…?」

「……わたくしも、自分の死亡フラグのことだとかそう言うことを抜きにしたら、純粋に…貴女ともっと仲良くなりたいって、色んなことをお話したいって思っていますもの」

「ヴィオリーチェ…!」


 ヴィオリーチェが何処か不器用に微笑んでくれる。私の口元も緩んで、顔が勝手に笑ってしまっているのがわかる。…ああ、どうか、ヴィオリーチェに気持ちが悪いと思われるような顔にはなっていませんように…!


「そ、それじゃあ…また、私に魔法、教えてくれる…?」

「ええ!もちろんですわ…!」





 こうして私は、再びヴィオリーチェに魔法を教えて貰えることになったのだった。

 これからは、魔法のことだけでなく、もっと色々なこともたくさんお話ししようって約束もして…!!!

 ああ、私って本当に単純なんだと思う。

 こうやってヴィオリーチェと仲直り出来た途端、色を失っていた世界がこんなにも簡単に色鮮やかさを取り戻せちゃうんだから…!





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