第10話 この世界には"運命の意思"がある

「お姉さまって呼んじゃダメ?」

「もう、アルカったらまたそんな冗談ばかり」


「ねぇ、ヴィオリーチェ…。あのー…お姉さまって…」

「あ、アルカ。そう言えば、次に学んで貰う魔法の事なんですが―——…」


 私はメゲなかった。とにかくメゲなかった。ヴィオリーチェにお姉さまになって貰いたいと言う思いを捨てきれず、あれから何度もアピールを繰り返した。

 しかし、ヴィオリーチェは手強かった。ある時はさらりと躱し、ある時は完全にスルーされた。

 ここまでくると、さすがに私もこれは意図的に無視されてると気が付いてしまう。…本当は最初から薄々気が付いていながら、認めたくなかっただけなんだけど…、もう一回言ったらOKしてくれるんじゃないか?いや、もう一回…と、やっているうちに認めざるを得なくなりましたよね…。


(………どうしてヴィオリーチェは私のお姉さまになってくれないんだろう?)


 別に私のこと嫌ってはいないよね?

 二人で(お互いに)幸せになろうね♡(意訳)って言ってくれたし…。

 アルカとヴィオリーチェは、ライバルと言うか敵同士と言うかそういう関係ではあるけど、私たちはお互い転生者で対立する必要がないってわかってるからこそ、実際に仲良く出来てる訳だし…。

 わからない…。本当は嫌われてるけど我慢してる…だったら辛すぎる…。


 …そんな訳で、ここ最近はこんな風な悩みに苦しみもがきながらも、それをヴィオリーチェに見せないよう頑張って過ごしていた私だったが、別に悩んで血反吐を吐いてるだけだったわけではなかった。もう一つ、"この世界について"発見のようなものもしていた。

 それは基本的にこの世界が、放っておくとゲーム世界での"シナリオ"通りに進んでいくように、あるいはそれに近い状態になるように何らかの調整?修正?がされるようだということだ。

 私はヴィオリーチェに夢中…じゃなくて、ヴィオリーチェとの魔法授業レッスンで忙しくしていたこともあって、ゲームでの攻略対象の男の子たちと積極的に出会おうとはしていなかったんだけど、ゲームの中では入学から1週間以内には攻略対象と必ず出会うようになっていたのね。(それぞれに場所や状況で2パターンくらいある)

 私はそれをすっかり忘れていたから、彼らと出会う場所だとか時間帯だとか全然気にしないで行動をしていたんだけど、そうすると先生に何かを頼まれるとか、雨だの風だのという自然現象だとか、とにかく何かしかの原因が突発的に発生し、"偶然"私と攻略対象を出逢わせる。

 その一人は氷の王子と言う異名を持つ学園長の一人息子であるクラウス・カーライル。その異名通りクールで冷酷な性格と、冷たくも美しいご尊顔を持つ彼は、生徒たちからは羨望と同時に畏怖の目で見られている。

 本来ならヴィオリーチェに絡まれているところに偶然彼が通りかかって、私を罵るヴィオリーチェを見かねたクラウスが、彼女に非難するような言葉をぶつける…みたいな出会い方だった。(お前を助けた訳じゃない。勘違いするなよ とか言われる)

 当然、今のヴィオリーチェは私に絡んでくることなんてないし、罵ってくるなんてこともない。だから、そもそもそんなシチュエーションにならないから、彼と出会うきっかけもない。なかったはずだった。

 ————————なのに。


 私はその日の放課後、渡り廊下を小走りに歩いていた。

本当はすぐにでもお姉さま(予定)との秘密の課外授業魔法のレッスンに行きたかったのに、担任の教師から頼まれた大量のプリントを運ぶ手伝いをさせられていた。さっさと逃げ出してしまおうかとも思ったが、教師の心象が悪くなるのも困るので、私は頑張った。早めに終わらせて、急いでヴィオリーチェのところに向かわなくちゃ…と酷く焦っていた。

 そのせいで、ちょっとした段差に躓き大きく態勢を崩してしまった。

 両手に大量のプリントの山を抱えていたので、それらがバサ――――っと宙に舞う。


「…あっ、あ!?…わっ、あーーーーーー!!!!!!?」


 その後の惨状が脳裏に浮かんで、私は可愛くないも奇声を発してしまった。

そして、そのまま地面に衝突し——————————た。と思ったのだが、不意にふわりとした風に掬い上げられるように身体が一瞬だけ浮いて、すとんとそのまま、何故か私の身体は元の位置へと戻されていた。

 転びそうになったのに、気が付いたら普通に立っていた。プリントもちゃんと山のまま私の手の中にある。


「…あれ?」

「まったく落ち着きのないことだ…。」

「え、え……」

「何を間抜けな顔をしてるんだ。…ああ、いや礼は良い。自分の進む場所を散らかされては邪魔だと思っただけだからな」


 聞き覚えのあるイケボに、声の聞こえた方へと視線を向けると予想通り、ゲームパッケージの中心辺りに大きめに描かれていた美麗なイケメン君のお顔が、そこにはあった。


「あ、………」

「………………お前は、確か——————、アルカシア・メイソン」


 私が名前を言うより先に、相手に名前を呼ばれてしまった。

何で!?と思いつつも、そう言えば、原作ゲームのこの人も私のお父さんは有名な魔法使いなのに、娘は落ちこぼれで情けねぇなタイプの人だったわ!!!そりゃ、入学時点でこっちのことチェックしてるよね!!しなくていいんだけどね!



 …と、そんな感じで…。他にも、急に雨が降り出したものだから困ってしまって学校の玄関で雨宿りをしてたら、同じように立ち往生している攻略対象と出会ったり、生徒手帳が廊下に落ちてたから拾ってあげたら攻略対象のもので、誰に頼んでも自分で行けよって言われて結局届けに行って出会うことになったり…。


 ゲームにはそんなパターンなかったじゃん!!?と言うイベントがポコポコ発生して、とにかく運命はアルカと攻略対象を意地でも出逢わせようとしてくる。

 私はこれをと呼ぶことにした。

  









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