第7話 死亡ルートを回避せよ!

 私とヴィオリーチェが互いに転生者であることを打ち明け合ったあの日、私と彼女は結局ずいぶんと長い時間二人で話し込んでいた。

 その内容は、最初は「魔法学園・クレッセントムーン」で好きだったキャラのことだとか、どのイベントが好きだったとかそんな話に花を咲かせた。そして次第に、その内容は、"この世界での暮らし"についてのことへと移り変わっていった。


「もちろん、ヴィオリーチェとして生を受けたからには、原作のヴィオリーチェと同じように振舞うべきかってことは悩みましたの」


 原作のキャラと性格が違っていることについて、彼女は複雑そうな顔で話し出した。


「…でも、そうすることへの不安がありましたの。…いつか主人公であるアルカと出会うことになるだろうと予想はしていたのだけど、その時に、貴女と敵対する私…と言うキャラクターをやり通し続けると、わたくし…破滅してしまうのではないか…と思いましたのよね」


「あー………」


 やっぱり私が予想していたのと同じ理由で、彼女はキャラ変?をしていたようだ。

…そう、乙女ゲーム「魔法学園・クレッセントムーン」のメインストーリーにおいて、アルカとヴィオリーチェは、学園に隠されている"秘宝クレッセントムーン"の継承を巡ってライバル関係となる。そして、それは主人公・アルカの能力値に応じて勝敗が決定し、それによってストーリーが変わるのだ。ここで能力値上げに失敗しアルカが秘宝の継承をすることが出来なかった場合、ヴィオリーチェがその秘宝を受け継ぐことになる。…そして、そのルートの場合、ヴィオリーチェは秘宝によって使えるようになる古代魔法の制御に失敗し、死ぬことになるのだ。


「勿論、秘宝の継承を行うことになった場合も、制御に失敗しないで済むように古代魔法についての歴史や資料も読み漁って、修行も続けていますけれど―――ー…それでも実際にクレッセントムーンに触れなければ知りえない部分も多く、絶対の自信を持つには至れていません」


「…あ、そうか…。…ゲームで遊んだ記憶があっても、この世界では未来の出来事なんだもんね…」


「…ええ。…それに……アルカが…、ゲームでの主人公がわたくしの前に現れて、その方が転生者だった場合、……そして、その転生者が明確な悪意を持って、わたくしを殺そうとする存在で有ったとしたら…と考えた時に怖くなってしまいましたの」


「そ、そんな人いるかなぁ!?」


「あり得ないとは言えないでしょう?貴女はそんなことは考えなかったのかも知れませんけれど…。もともとのヴィオリーチェは、PLに嫌われる為の性格や振る舞いをしているキャラだと思いますし……」


 確かに第一印象ではチクショー!!!負けるか~~~~~!!!と思った私、彼女の言葉に反論は出来なかった。その分、反動で大好きになったのだけれど…誰もが同じ気持ちを抱くかどうかなんてさすがにわからないから…。


「……万が一、万が一…そんな風になった時に、元の"悪役令嬢"として、孤高の存在のままでいたら、わたくしは自分の身を守れない。そう思ったから、その前に味方を少しでも作っておきたかったと言うのはありますのよね………」


「ストーリーの流れを知っている人間が悪意を持ってヴィオリーチェを陥れようとしたら、わざとクレッセントムーンの継承に失敗してヴィオリーチェを死亡するルートに誘導しようとすることだって出来ちゃう…ってことかぁ…」


「熱心なPLであるなら、秘宝の継承が出来るステータスまでアルカを育てることなんてそう難しいことではないと思いますし…、現れたアルカが友好的な人であるのなら、一緒に魔法を勉強して…お互いに幸せになれるルートを模索して行ければ…と思ったのもありますのよ。…自分の命の心配ばかりをしているようで恥ずかしいですけれど…」


「いやいや…自分の命がかかってるなら、それは当然ですって!……それにゲームでならともかく、この世界でのステータス上げなんて…まだどうやればいいかわからないし、ヴィオリーチェが死んじゃうなんて私も絶対嫌だから、ぜひぜひご指導頂きたいって思うよ!」


「……ありがとう。アルカ。……この世界に来てくれたのが、貴女で本当に良かった……」


 ヴィオリーチェはまた、感動したような、安心したような顔で微笑む。少し涙ぐんですらいるようだ。

 本当に本当に、彼女にとってこれまで、”アルカ”の存在がとても恐ろしいものだったんだなぁと思う。そうだよね…。アルカの選択一つで、彼女の人生が本当の意味で壊れてしまう可能性があるんだから…。そしてそんなことを、まだ幼いころに突き付けられてしまったなんて……。

 こんなアルカでゴメンね…という気持ちがない訳ではなかったけれど、それでも、私がヴィオリーチェを大好きで、死なせたくない!と表明したことで、少しでも彼女のこれまでの苦労と不安が報われてくれたなら良いのにな…と密かに思うのだった。




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