第9話 他人としての死

「エレノア・レッドフォード。すぐにレイカから出ていけ」


「無理な相談ですね。もうこの体は私そのもの。出ていくも何もありません」


 くそ。解除不可能なのか。


 では、どうすればいい?


「フフッ、お困りのようですね。ですが、困るだけ無駄です。私はこうしますから!」


 戸惑う俺を嘲笑うように言い放つと、エレノアは落ちていた剣を拾い上げた。


「待て! 何をする気だ!」


「フッ、」


 エレノアは間髪入れずに、自分の左胸を剣で突き刺した。そのまま横一文字に剣を振り抜き、胸を引き裂く。


「な……」


 自分の身体をこうも迷いなく切り裂くとは、まともじゃない。まさか、こんなことを何度もしてきたのか?


 すると奴のスキルは、憑依した肉体が死んでもまた別の人物を乗っ取るものなのか?


 ダメだ。不確定要素が多すぎて、何も判断できない。


 だが自死を選んだということは、まだ復活できると考えてよい。つまりこの行為は、レイカを殺すためだけのもの。


 だがもう、どうにもならない。


 レイカだったエレノアから流れ出る鮮血が、辺りを血の海に変えていく。もう、レイカは助からない。そもそも、レイカはエレノアにさせられてしまった。


 レイカは他人として死ぬことになったのだ。


 エレノアはそのまま地に倒れた。

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