第7話 初日

 「昴、今日からボランティアをしてくれるのね」

 「うん。学校が始まるまで毎日するよ」 


 俺はステータスのレベルを上げるために好感度ポイントを貯めないといけない。俺が善い事をして、それに好感を感じた人がいればポイント付与がされるようだ。ようだと言ったのは、昨日は駅の周辺で少しだけゴミを拾ったが好感度ポイントが手に入らなかったからである。ゴミ拾いをしたのは善い行いだと思うが、俺がゴミを拾っている姿に誰も好感を持たなかったから好感度ポイントが入らなかったのだと思う。逆に不審者扱いされて酷い目にあってしまった。


 「本当に!無理はしないでね。でも、手伝ってくれるのは嬉しいわ」


 母親の職場は自転車で20分くらいのところにある。俺は母と一緒に介護型老人ホーム『ほがらか』に向かった。


 「六道さん、本当にお願い出来るのかしら?」

 「施設長には昨日連絡して了承をもらっているので問題ないわ」


 『ほがらか』に到着するとすぐに俺は職員室に連れて行かれた。職員室には課長である本田さんという40代の女性がいた。


 「息子さんは何歳になるのかしら?」

 「今年で16歳になるわ。高校が始まるまでの3週間という短い期間だけど、社会勉強の一環としてボランティアをしたいみたいなので誘ったのよ」

 「えらいわね。私の娘もみならって欲しいわ」

 

 本田課長は優しく俺に微笑んだ。


 「昴、自己紹介は朝礼の時に私がしてあげるわ。あなたは一言だけ言ってくれたらいいわ」

 「うん」


 俺は空いているイスに案内されて、職員が揃うまで待つことにした。


 「おはようございます」

 「おはようございます」


 俺がイスに座っていると続々と職員が出社してくる。


 「誰あれ?」

 「知らないわ」

 「あの子は私の息子なのよ。後で説明するわね」

 「え!どういうこと?なんで息子さんが職場に来ているの?」


 職員室に見慣れない少年「俺」が居るので、職員たちは気になってしょうがない。母親が簡単に説明すると納得はするが、詳しい説明を聞かされていないので興味津々に俺を見ている。俺は、知らない人にジロジロを見られているのに恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてうつむいた。


 「みなさん!六道さんの息子さんについて後で説明しますので、ジロジロと見ないであげてね」   


 俺が恥ずかしそうにうつむいている姿を見た本田課長がみんなに注意をしてくれた。本田課長の注意のおかげで誰も俺の事を見なくなったので気持ちが少し落ち着いた。

 そして就業時間の8時30分になった。職員室には夜勤の職員も戻って来て合計で20名ほど集まり朝礼が始まる。本田課長が今日の業務などの報告をした後に俺の紹介をした。


 「今日から3週間、午前中だけ六道さんの息子さんの昴さんが、社会学習の一環としてボランティアに来てくださいました。ベッドメイキング、施設内の掃除、食事の配膳などをしてもらう予定です。みなさん優しく教えてあげてください。六道さんから何か言っておきたいことはありますか?」

 「はい。私の息子は4月で高校生になります。高校生活が始まるまで家でのんびり過ごすことよりも、自身を成長させるために、何かしら人の役に立ちたい事をしたいと言ったので、施設のボランティアをする事を進めてみました。本人もやる気があるみたいなので、優しく教えてあげてください。息子は不器用で口下手なのでご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」


 『パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ』


 職員のみなさんは拍手で俺を歓迎してくれた。


 「昴!あなたも簡単でいいから挨拶をするのよ」

 「きょ・・・今日からお世話になります六道昴といいます。一生懸命がんばりますのでよろしくおねがいします」


 昨日は母親から朝礼で一言あいさつをするように言われていた。俺にとって大勢の前で挨拶をするのは苦痛である。何度も何度も練習をしたが、出だしで噛んでしまったが、きちんと言えてホッとしていた。


 『パチパチ パチパチ パチパチ パチパチ』


 その後、夜勤者から引き継ぎ内容の報告があり朝礼は無事に終了した。


 「昴さん、こちらへ来てもらえるかしら」

 「は・・・はい」


 挨拶を終えて一安心した俺だが、本田課長の声にビクついて噛んでしまう。俺は初めての職場ではいつもこうである。緊張してビクビクオドオドしてしまう。ニート歴も長かったためか、体は少年、心はおっさんでも余裕など微塵もない。


 「最初に昴さんには入居者様のベットメイキングをしてもらいます。ベッドメイキングは簡単に言うとベッドのシーツを交換する事です。この施設には75名の入居者さんが居てます。シーツの交換は週に1回となっていますが、75名分を1日で全て交換するのは時間がかかり過ぎてしまいます。なので、1日に15名分のシーツを交換することになります。シーツ交換は入居者様が朝食をしている1時間で全て終わらせないといけません。2人1組で2組でベッドメイキングをしますので、1部屋を7分程度で終わらせれば問題ありません。今日は初日なのでベッドメイキングの見学をしてください」

 「はい」


 週に1回のシーツの交換は入居者に連絡をしているので、入居者には朝食を食べた後、食堂か共同のリビングスペースで時間を潰してもらっている。


 「紹介するわ。ベッドメイキングなど主に施設の雑務を担当している仮屋園(かりやぞの)主任です」

 「昴さん、私があなたの担当になる仮屋園です。わからない事があれば遠慮せずに何でも言ってください」

 「よ・・・よろしくお願いします」


 仮屋園さんは細身の体系の眼鏡をかけた少し目つきが悪そうな40代の男性だった。でも、やさしく言葉をかけてくれたので、俺の緊張も少しはほぐれそうである。


 「仮屋園さん、後はお願いするわね」

 「わかりました」


 本田課長は自分の業務に戻って行った。


 


 






 


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