地下の罠

 このご時世、自分の食事を用意するのだって簡単では無いのに夕飯は爺さんが準備してくれた。

 まぁ、しっかりと料金は請求されたのだが。


 さて、一息ついたところで先ほどの続きの話に戻す。


「ところで爺さん、地上よりも楽に中央に行けるのなら何で皆行ってないんだ?と言うか爺さんも行ってなかったんだ?」

「そりゃあ皆も昔は行ってたんじゃないかな?だけどな、ずっと言っているように知識や技術が管理されるとな、不可思議な現象、理解が出来ない事が起こる所には近付かなくなる。そしてそのうち存在も忘れられてしまうのさ」

「不可思議な現象や理解できない事が起こる?」

「そうさ。地下に入った人が何にもない地下通路の途中で倒れたり、酷い時には死んでしまう人も出てきたのさ。そしてそれを恐れるうちに」

「誰も立ち寄らなくなり忘れ去られた」

「そう言うことだ」


 爺さんは「別に不思議な事でもないんだけどな」と付け加えていた。


「なら爺さんは何で行かなかったんだ?」

「倒れる原因が分かっている事と対処出来る事とは違うと言うことだ。それにそこまでして中央街に向かう必要もなかったからな。だが今は違う。お前さんのカメラにはワシの知らないものがある。それは危険であっても中央街に行く必要がある。それに本当に偶然だがお前さんはワシの欲しいものを三つとも持っていそうなのだよ」

「それは地下を進むのに必要なもの。そして爺さんが持っていない物って事だな」

「なんだい、お前さんは察しがいいな。その通りだよ。どれ折角ならそれが何なのかも当ててみな。考えることは大切なことだ。人であるなら考えてみることだ」


 欲しがっている本人から「じぶんさんの欲しいものは何でしょうか」と問題を出される不思議な状況だが、確かに先程の爺さんの話を元に何が必要なのかを考えることは楽しい。

 私は爺さんと会った時の事やそれからの会話を振り返り、爺さんの欲しいものに意識を落としていく。

 私が爺さんの前で鞄を開いたのは二度だけ。

 フィルムカメラを取り出した時と片付けた時。

 しかも短時間だ。その一瞬で鞄の中が見れたとは考えにくい。鞄を爺さんが触った様子も無いし、私自身珍しいものを身に付けているわけでも無い。そうなると爺さんと話していた内容から私が何か爺さんの欲しいものを持っている情報を話したと言うことか?そんな話って、と思ったところで一つだけ心当たりを思い出した。


「爺さん、もしかして欲しいものって電池のことか?でも俺は電池とカメラを交換したって話したはずじゃあ」

「だけど、まだあるんだろ?少なくても後五個はあるはずじゃ」


 爺さんは笑いながら話を被せてくると私の鞄を指差した。

 私は爺さんに言われるまま、指差す鞄からまだ封の切られていない五本の電池を取り出した。


「爺さん、何でまだ電池があると思ったんだ?」

「それはな、お前さんが賢いからだよ」

「どういう意味だ?」

「お前さん、カメラと封の切られていない電池を交換したと言うただろ?今、封の切られていない電池の価値をお前さんが分からない訳はないだろ。フィルムの残っているカメラも確かに貴重だがな、電池の方が色んな物と交換出来るし貴重だよ。そんな電池を差し出したと考えると、カメラと交換してもまだ残りがあると考える方が自然だよ」

「たったそれだけで私がまだ電池を持っていると?」

「あぁ、それだけで十分さ」


 私が取り出した電池を手に取りながら、爺さんは「単三電池か、まぁなんとかなるな」とボソッと呟いていた。


「それじゃあ後、欲しいものって言うのは電球?」

「そうだ。地下通路じゃあ、松明が使えないからな」

「それはどうして?」

「最初に地下通路に入った人達が倒れた話をしただろ?それと関係することだがな。地下通路内には燃えやすいガスや空気の薄い所がある」

「燃えやすいガス?空気の薄いところ?それがあるとどうなるんだ?」

「まぁ簡単に言うと地上で溺れるようなものだ」

「そんなことが起こるのか?」

「あぁ、そしてその事を知らないと急に倒れて行くことが不思議な現象と思ってしまうんだよ。そしてそんな所では火を使うことが出来ない」

「だから電球。ライトが必要ってことか」

「そう言うことだ。どれ、ワシの欲しい最後の一つも分かったかね?」


 爺さんは電球を手に取り口径の確認をしながら問いを続けた。


「それが最後の一つがどうしても分からない。会話の中でも見せてきたものでも爺さんの欲しがるものが出てこないんだ」

「ワシに無くてお前さんにあるものだよ。それはな、お前さん自身だ。若くて力がある。基地に行くためには一番必要なものだ」

「私自身?それが答えって爺さん、それは分からないよ」


 爺さんはハハッと笑い、その一つが分からないとは随分自分に自身がないんだなと嘆いていた。


「さぁ、話はここまでだ。明日は早い。もう寝るとしよう、布団を使うかね?」


 爺さんはそう言いながら一万円ね。とやっぱりきっちりと請求をしてきた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る