旅の同行者

 いつの間にか日の位置も低くなってきてた。随分と鑑定屋の爺さんと話し込んでいたらしい。


「それで突然だが、一つお前さんに提案がある」


 爺さんは店の奥から大きな鞄を引っ張り出してきた。


「ワシと一緒に駐屯基地に行こうではないか!今回の鑑定料も要らない。ただワシにその中の写真を見せて貰いたい」


 爺さんは私の返事を待たずにその大きな鞄の中にあれやこれやと荷物を詰め込んでいる。


「それにお前さんだけじゃあ、どのみちその写真と取り出すことは出来ないだろ?」

「そりゃあそうかもしれないが、爺さん駐屯基地までは距離があるぞ?行けるんか?」

「心配には及ばない。こう言った落ち市街ってのは高い建物、まぁ皆は遺物と呼んでいるが、その崩落に巻き込まれないように中心街から離れたところに造られておるのは知っているな?」

「あぁ、昔はもっと中央にあったけど揺れ鳴りや老朽化で、よく崩れて巻き込まれてたって」

「そうだ。そして街から離れた結果、過去の遺物の遺された街と人が住む街とに別れた」


 爺さんは荷物を詰め終えたのか、手を動かすのを止めていた。


「確かに地上から駐屯基地のある街に向かうと道は遠いし崩れている所もある。何があるか分からない危険だってな」

「そうだよ。だから今じゃ中央の街に行くのは調査団くらいなもんだ」

「調査団?あいつらのやってることは調査でもなんでもない。ただの遺物発掘さ。珍しい物を見つけ売り捌くだけのな。まぁそんなことは良い。ワシが言いたいことは中央の要である基地に向かう道は地上だけではないと言うことだよ」


 爺さんは荷物の詰め終えた鞄の奥から一枚の紙を取り出し私の前に広げた。


「見たことあるか?これは紙の地図だよ。しかも路線図の書かれたものだ」

「路線図?」

「あぁ、昔の移動手段には電車があったんだ。見たことあるだろ?いろんな所で朽ち果てている四角い箱状の建物を」

「あれは乗り物だったのか?」

「そうだ。そんでここからが話の本題だ。ここを見てくれ」


 爺さんは沢山の色の線が書かれた地図の真ん中に国際会館と書かれた場所を指差していた。


「これが今で言う陸軍駐屯基地の場所だ。そしてここがワシらのいる第八落ち市街、豊楽ほうらくだ」


 爺さんは地図の中央からゆっくりと指を動かし、差した位置は中央から離れた地図の端の部分だった。そしてそこには一本、中央と豊楽を繋げる線が描かれていた。


「これって」

「そうだよ。この豊楽と中央の街とには地下に電車が走っているのだ。正確には走っていただけどな」

「それじゃあ地下から向かえば地上を進むよりも早いってこと?」

「お見事、その通り。地上のように回り道せず真っ直ぐ進むだけでいいからな。そしてもう一つ」

「もう一つ?」

「落ち市が出来た当初ってのは物のやり取りが良いように、雨風を凌げるように駅の近くに出来た経緯がある。駅ってのは電車の乗り降りする場所な。そして当然豊楽も駅を中心に発展した来た」

「それじゃあこの近くに地下への入り口があるってことか?」

「そうそう。そしてその駅の入り口ってのがここだよ」

「えっ?ここ」

「そうだよ、何度も言わせるな。今日は遅いから家に泊まっていけ。明日基地へ向かうぞ」


 爺さんは店の裏手を指差し、お前も早く来いと言わんばかりに私の荷物を見てきた。私は爺さんに言われるがまま荷物を持つと鑑定屋の店の奥へと進んだ。

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